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カサンドラがカミソリで手を切った現場に出会したアルノルトは激怒した。
彼はその日のうちに大砲60門の戦列艦に乗り込んでしまうと、艦隊を引き連れて飛び出して行ってしまったのだった。
向かう先はアルマ公国、クラルヴァイン王国は公国に宣戦布告をする事を決意した瞬間だった。
「カサンドラ様!今すぐ毒で死んでください!」
王子の側近であるクラウスはすぐさま言い出した。
「毒は準備できていたんですよね?毒!早く毒を用意して!」
「やっぱり悪役令嬢は毒で死ぬのね!」
カサンドラは思わず独り言を呟いてしまったけれど、
「ふりです!実際には飲まないで、毒殺されたふりをするんです!」
焦った様子でコンスタンツェが叫び、
「ハイデマリー嬢はもう呼び出しています!いつでも毒殺出来ますよ!」
と、カロリーネが胸を張って言い出した。
ハイデマリーが水浸しの状態で王子に向かってカサンドラの横暴を訴えたその日のうちに、コンスタンツェとカロリーネはハイデマリーの身柄を拘束した。
ハイデマリーが言うには、
「母が・・母が人質に取られているんです・・・」
という事らしい。
ある日、彼女宛に届いた箱の中には切断された女性の人の指が入っており、その指には彼女の母が好んでつけていた祖母の形見である指輪がはめられたままだったという。
「公国で生産されている更紗で指は包まれていたので、エルハム公女に問いただしたら、自分の言うことに従えと言われて・・・」
鳳陽小説で定番の悪役令嬢からの虐めを再現するように王女から言われたハイデマリーは、泣く泣く、カサンドラに教科書を破られた、私物を壊されたと自作自演を行った。カサンドラに虐められるハイデマリーを庇護する立場についた公女は、もっと大袈裟に振る舞えと命令する。
珍しく王子が学園に登校したので、今では公女の手下のような扱いになっている男子生徒たちにバケツの水を浴びせられたらしく、哀れな様子で王子に訴えている最中に、今まで関わる事がなかったカサンドラ自身が出てきた為、パニックに陥ったらしい。
ハイデマリーを使って更なる悪巧みを公女がしているという事を察した二人の侯爵令嬢は、王子の側近であるクラウスと相談後、ハイデマリーをしばらく泳がす事にしたのだった。
公女がカサンドラに危害を加えようとしているのは間違いないが、今はまだ、明確な証拠が揃えられていない。その証拠を取り揃える為に、公女とその手下となっている生徒とハイデマリーの動きを追って行ったら、あろう事か、カサンドラが剃刀で指を切る怪我をする事になってしまったのだった。
しかも間が悪いことに、アルノルト王子が学園に登校している最中での怪我だった為、激怒した王子は学園を飛び出して行ってしまったのだ。
クラウスはカサンドラの教科書に剃刀を仕込んだ生徒を捕獲したが、そういう事じゃないらしい。実行犯を捕まえて罰せれば納得いく話ではなく、王子としては、それを命じた公女及びアルマ公国を滅ぼさなければ納得出来ないほどの怒りに燃えているわけだ。
「剃刀で怪我をさせたというだけで、一国を滅ぼしていたら我が国の立場は物凄く悪いことになってしまいますよ!せめて毒殺されるくらいじゃないと!」
「大丈夫です!私!エルハム様からすでに毒を受け取っていますから!」
朝も早くから呼び出されたハイデマリーは満面の笑顔で小瓶をクラウスの前に差し出した。
「ちょっと嫌がらせ程度で具合が悪くなる薬って言われましたけど、これって絶対に一口飲んだら死ぬ毒なんだと思うんです!毒を渡してきたのはエルハム様じゃありませんでしたが、エルハム様と毒を渡してきた生徒が親密な関係だという証言は集められると思うんです!」
「それじゃあ、その毒で私は死ねばいいのね?」
「カサンドラ様!本当に飲むんじゃないですよ!飲んだふりをするだけなんですから!」
コンスタンツェの訴えに、ちょっと残念そうな顔をするカサンドラの気が知れない。ため息を吐き出したカロリーネは小瓶をクラウスから受け取った。
「何の毒が用意されたのか、私が王立研究所まで持って行って調べてもらう事にします!お茶会は午後、ハイデマリー様に毒を盛られてカサンドラ様が倒れるのは、今日の授業が終わった後という事にいたしましょう。コンスタンツェはお茶会の手配を宜しくね!」
「わかったわ!今日のお茶会はいつもの薔薇園の近くのガゼボじゃなくて、人通りも多い場所で、ハイデマリー様が用意したという態にしておきましょう」
「それじゃあ、私はエルハム様に、今日の放課後に行うお茶会で実行すると伝えます。公女が見学できるような場所があれば、ますます良いかもしれません」
「それなら思いつく場所があるわ」
ハイデマリーとコンスタンツェが話し合っている横でクラウスが言い出した。
「それじゃあ、僕は高速で移動可能な小型船を用意いたしましょう。カサンドラ様が公女に毒殺されたのが理由で、激怒した殿下が公国へ宣戦布告を行ったというように口裏合わせをするように伝令を送ることにします」
「それじゃあ、やっぱり私は毒殺される事になるのね!」
鳳陽小説の展開では、悪役令嬢が毒を飲んで死ぬのはよくあるエンドロールの一つでもある。
「毒殺されそうになったけれど、ギリギリ解毒剤が間に合って命は取り留めたというようにしましょう!毒の解析が済めば可能だと思いますもの!」
「じゃあ、実際に飲んで」
「飲むふりだけです!」
毒が入った瓶を持ったカロリーネだけでなく、学園のサロンに集まった面々がジットリとした眼差しでカサンドラを見つめた。
「指を怪我しただけで、一国を滅ぼそうとしているんですよ?これで万が一にもカサンドラ様が本当に毒を飲む事になった暁には、僕はどうなるのか想像も出来ませんよ!」
「そうです!そうです!カサンドラ様の側近の立ち位置にいる私たちだってどうなるか分かりません!」
「私はモラヴィアに嫁ぐ予定なんですよ!私に何かあったら国際問題に発展しますからね!」
「実行犯の私なんか即刻、ギロチン行きですよ!絶対にやめてください!」
みんなから散々言われる事になったカサンドラは、とりあえず毒の味見はやめる事にしたのだった。
そうして、放課後にハイデマリー主催で行われたお茶会の席で、カサンドラは毒を飲んだふりをして大袈裟に椅子をひっくり返しながら倒れる事にした。
毒を飲んで死んだものと思い込んだエルハム公女は、スキップをしながら廊下を歩き、馬車に乗り込んで離宮へと戻る事になったのだが、待ち構えていた兵士に捕らえられて、船に乗せられる事になったのだ。
エルハム公女付きの侍女たちは、まさか自国の公女がカサンドラの暗殺を計画している等とは知りもしない。それでも、そういう事を実行しそうな危うさには気が付いていた所もあって、公女が公国へたった一人で運ばれて行く姿を、ただ見送るだけの有り様となっていたらしい。
電光石火の勢いで公国最大の港湾都市であるグルタナは落とされたが、カサンドラの手が剃刀で切られたという理由ではなく、公国の公女であるエルハムがカサンドラを暗殺しようとしたという理由付けが間に合った為、
「ふわーーーーーっ!生きた心地がしねーーーーーーーーっ!」
クラウスはそう呻きながら自分の執務机に突っ伏していたらしい。
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