09話
その日の夜。
『んー? クロちゃん何かあった?』
「え? どうしてですか?」
その日もいつも通りゴリさんと通話をしながらゲームをしていた。
『うーん? なんというか、いつもより機嫌良さそうな感じがするなって』
「え、そうっすかね? いつもと変わらない気はするんだけどなー」
『そうかなー? そんな事ないと思うんだけどなー』
「う、うーん……? いやというか、そもそも何でゴリさんにそんな事がわかるんすか?」
『え? いやぁ、毎日クロちゃんと話してるからさ、何となくだけどクロちゃんの感情の機微がわかるんだよねー』
「え、何それすごい、ゴリさん俺マニアじゃないっすか」
『何それ普通に要らない称号なんだけど』
ゴリさんに送った称号は要らないと一瞬で捨てられてしまった。
『んでー? 何か良い事でもあったんじゃないのー?』
「う、うーん……あっ! そういえば確かに今日は良い事はありましたわ」
『でしょー? やっぱりね! それでそれで? 良い事って何よ? お姉さんにも恩恵ある話?』
「いやゴリさんには恩恵一切無い話っすね」
『あっ、じゃあどうでもいいや。 ペクスすべ』
「ちょいちょい! 今のって俺の良い話を聞く流れちゃうんすか!」
『あーごめん、アタシ他人の幸せ話とか一切興味無い女なんで』
「いやいや、俺達友達でしょうよ! 友達の良い話を聞いて一緒に喜んでくださいよ!」
『ちぇっ、友達だって言われちゃったらしょうがないなぁ。 んじゃあ聞いてあげるよ、良い事って何があったのー?』
「えっと実は今日なんですけど、尊敬している人と一緒にお昼ご飯を食べたんですけど、」
『え、なになに!? もしかしてクロちゃんの好きな人?』
「い、いや、好きな人っていうわけではないんですけど、まぁ気になってる先輩というか。 あ、ほら、去年のバレンタインに義理だけどチョコくれたって言った先輩っす」
『あぁ、なるほどなるほど! そういえば昔そんな話してたよね! クロちゃんが一年生の頃からずっと気になってる先輩さんだ!』
「う……ま、まぁ、はい。 その先輩です」
実は去年のバレンタインに俺は七種先輩から義理チョコを貰ったんだ。 まぁそれは同じ生徒会の仲間という事で“一年間ありがとう”という意味で貰えた義理チョコだったんだけど。 んで、当時の俺はそれをめっちゃ喜んでゴリさんにこれを話した事があった。
『あれ? そういえばあの時は詳しく聞かなかったけどさ、その先輩さんってどんな人なん?』
「あぁ、えぇっと、まず見た目はメチャクチャ美人の先輩で、」
『あーそりゃあクロちゃんには無理だ諦めよう!』
「酷すぎるっ!」
ゴリさんは速攻で諦めろと勧告してきた。 ほんまにこの人は……って思っていたらゴリさんはすぐに言葉を続けてきた。
『嘘嘘ww でも一年の頃からずっと気になってる女の子なんでしょ? それなら頑張ってみなよクロちゃんー。 三年生になっちゃうと青春なんて出来なくなっちゃうぜー?』
「あはは、それはマジでためになるゴリさんの体験談っすね。 いや、まぁでも俺は別に告白しようとかそんな事は思ってないっすよ」
『え、そうなの?』
「やっぱりなんていうか、先輩って凄い美人な方なんで、俺からしたら天上人みたいな人なんですよね。 だからそんな人相手にそういうのは気が引けるというかなんというか……うーん、おこがましい的な?」
『えー何それ? 一年生の頃から気になってる先輩なんだからアタックしてみたらいいじゃんー』
「いやそんな簡単に言わないでくださいよ!」
『いやいやアタシいつも言ってんじゃん! 勝負しないでひたすら逃げて負けるくらいなら、ちゃんと勝負してしっかり負けてこいってさ!』
「いやそれゲームの話ですやん!」
なんだか良い事言ってる風だけど、それゲーム中にゴリさんがよく言うただの口癖だった。