44話
次の日のお昼休み。 俺は自販機で飲み物を買うために廊下を歩いていた。
「あれ?」
するとその途中にある掲示板の前で、見知った先輩が何か作業をしているのを見かけた。 その掲示板には部活動の紹介ポスターや体育祭や文化祭などの学校行事のポスターが貼られている。
(ポスターか何かを貼り付けてるのかな?)
俺はその先輩の様子が気になったので、俺は自販機に向かうのを一旦止めて掲示板の方へと向かって行った。
「お疲れさまです、北上先輩」
「うん? あぁ、神木君か。 お疲れさまー」
その見知った先輩とは北上先輩だった。 去年までこの学校の生徒会長を務めていた女子で、今現在は生徒会の雑務を担当しているとても明るい先輩だ。
という事で俺は北上先輩に向かってそう挨拶をすると、先輩もいつも通り明るい笑顔で俺に挨拶をし返してくれた。
「お疲れさまです。 何だか最近よく会いますよね」
「あはは、確かにそうだねーって、え!? も、もしかして神木君……私のストーカーやってる??」
「そ、そんなわけないでしょ!」
たまたま北上先輩を見つけて挨拶をしただけなのに、まさかのストーカー認定をされそうになったので俺は慌てて否定した。
「あはは、嘘だよ嘘。 神木君は何でも反応してくれるから、ついついからかっちゃいたくなるんだよね。 改めて思うけどさー、神木君って後輩力が高いよね!」
「い、いやちっとも嬉しくないんすけど??」
北上先輩はあははと笑いながらそんな事を言ってきた。 俺ってそんなにからかいやすい感じなのかな? でもそういえば少し前にもネトゲ仲間からそんな事を言われた気がするな……
「はぁ、全くもう……それで? 北上先輩はこんな所で何してるんですか?」
という事で俺は北上先輩が掲示板の前で何をしていたのかを尋ねてみた。
「あぁ、えっとね、この張り紙を掲示板に貼ってたんだ」
「へぇ、張り紙ですか? どれどれ……」
北上先輩は掲示板の張り紙を指さしながらそう言ってきた。 やはり先輩は掲示板に何かを貼り付けている所だったらしい。 早速俺はその張り紙の内容を見てみる事にした。
「……不審者注意? 何ですかこれ?」
北上先輩が指さした張り紙には“不審者注意”という文字が大きく書かれていた。 どうやら生徒への注意喚起の張り紙のようだ。 何やら不穏な文章がデカデカと書かれてあったので、俺は怪訝そうな表情をしながら先輩に尋ねてみた。
「えっとね、これは隣駅の学校の女子生徒の事なんだけどね。 少し前に放課後の帰り道で知らない男の人に声をかけられたっていう事案があったらしいんだ」
「そ、そうだったんですか? えっと……ちなみにその女子生徒は大丈夫だったんですか?」
「うん、声をかけられた場所は割とすぐに大通りに出られる場所だったらしくて、その女子生徒は急いで大通りまで走って逃げる事が出来たから事なきを得たらしいよ。 そのあとすぐに警察に通報したから、今はお巡りさんによる周辺の見回り強化が始まってるってさ」
「あぁ、そうなんですね。 まぁ何事もなかったようなら良かったですけど……でもちょっと怖い事件ですね……」
「うん、そうだよね。 最近は物騒な世の中になってきたし神木君も注意してね。 ほら、ちょっと前にも都内で飲酒運転の交通事故が起きたり、殴り合いの喧嘩で流血沙汰になった事件とかもあったじゃない?」
「あ、あぁ、確かに最近はそういう危ない事件が多いですよね……」
北上先輩が言ったように最近は何かと物騒な事件が多く、それらの事件は朝のワイドナショー番組を賑わせる話題ともなっていた。
「うん、だから神木君も危ない目に合わないように気を付けてね! 危ない目に合いそうになったらすぐに警察を呼ぶんだよ?」
「はい、わかりました。 先輩こそ女子なんだから気を付けてくださいね?」
「あはは、確かにそうだよね。 うん、お互いに気を付けよう!」
という事で北上先輩は生徒への注意喚起の張り紙を掲示板に貼っている所だった。 うーん、でも何で先輩がこの注意喚起の張り紙を貼り付けてるんだろう?
「あの、すいません。 物凄く今更なんですけど……そもそも何で北上先輩が“不審者情報”の張り紙を掲示板に貼ってるんですか? あ、もしかして生徒会の先生に頼まれた感じですか?」
もしかして生徒会を担当してる先生に貼っておいてと頼まれたのかな? いやそれだったら俺の仕事じゃん……北上先輩に何をやらせてんだよ……
「え? あぁ、いや違うよ。 これは私が自主的に掲載してるだけなんだよ」
「あ、そうなんですか……って、えっ!? この張り紙って北上先輩が自主的に貼ってるんですか!?」
先生からの依頼で生徒への注意喚起の張り紙を掲示板に貼っているのかと思ったら、まさかの北上先輩が自主的に貼っていたらしい。
「うん、そうだよ。 学校周辺で何か事件とか事故が起きた時はね、こうやって詳細をまとめて掲示板に掲載するようにしているんだ。 あ、もちろん先生には許可を貰ってるからね」
「そ、そうだったんですか。 あれ? と、ということは……もしかしてこういう掲載って今回が初めてじゃなくて……?」
「うん、私が一年の頃からずっとやってるよー」
「い、一年の頃からやってるんですか!?」
北上先輩は三年の先輩だ。 ということは……北上先輩はこの活動を初めて三年目に入ったという事になる。 俺は北上先輩がそんな活動をしていたなんて全く知らなかったので、とても驚いた表情をしてしまった。




