43話
『まぁ話戻すけど私は面接対策が一番しんどかったかなー。 特に自己PRとか自分の長所とか学生の頃に打ち込んだ事とかさ、面接で話す内容を考えるのがめっちゃしんどかったわ』
「へぇ、なるほどなー。 確かにそう言われてみると、面接対策って準備に物凄く時間がかかりそうですね……」
『いやほんまによー。 だから二人は私を見習って早い段階で就職対策しときなよ。 まぁ二人とも就活なんてまだまだ先やろうけどさ、あははー』
「あはは、そうですね。 まぁだいぶ先っすけど、それでも早めの行動が出来るように頑張ります!」
『うんうん、頑張りー。 もし就活で何かあればいつでも相談に乗ってあげるからいつでも言ってねー!』
「はい、ありがとうございます!」
『あとは私以外のクラメンもほぼ全員社会人やしさー、就活だけじゃなくて将来の困り事とかもあったら遠慮なく皆に相談すればええと思うよ! ほら、せっかくこうやってネットで知り合った縁なんやしさ、気軽に皆を頼っちゃってええからね』
「確かにリアルだけだとこんなにも沢山の社会人と友達になる事なんてないですもんね。 はい、それじゃあ困った事があったらクランの先輩方に相談させて貰いますよ」
『うん、是非是非! 特にぺこ姉とかえんじ君辺りはめっちゃ親身になって相談聞いてくれると思うからオススメだよ! あ、もちろん私もね!』
俺達が今所属しているゲームクランはほぼ全員が社会人のクランとなっている。 そしてあたぎさんが今言った“ぺこさん”と“えんじさん”はどちらも俺達が所属しているクランに在籍しているクラメンだ。 二人ともあたぎさんと同じく気さくで優しい大人という印象がある。 いやそれにしてもさ……
(いや本当によくよく考えてみたらさ、リアルだけだったらこんなにも沢山の社会人と友達になんてなれてないよな)
今はネットゲームを通じて年齢や性別、国籍など一切関係無く友達になれるんだから、本当に凄い時代だなと俺はそう思った。
そしてそう考えてみると、今学生の俺やゴリさんにとってこの環境にいるのは結構幸運な事かもしれないよな。 だって俺達の周りには将来の不安とかを相談出来る大人の友達が沢山いるんだからさ。
(うん、そうだよな。 よし、それじゃあこれからも困った時はクランの先輩方を頼りさせもらおう)
あたぎさんの話を聞いて、俺は改めてそう思った。 俺達の周りにはあたぎさんを含めて頼りになる大人の友人が沢山いるんだから、困った時は皆に力を貸してもらおう。
◇◇◇◇
あたぎさんと就活についての話を初めてから数十分が経過した頃。
『……うーん、でもそっかそっかぁ。 うん、なるほどなー』
「うん? いきなりどうしたんすかゴリさん?」
唐突にゴリさんが納得したような感じの声を出してきたので、俺は不思議に思ってゴリさんに尋ねてみた。
『いやあたぎさんの話を聞いてたらさー、やっぱり就職活動って物凄い大変なんだなーって感じたんだけどさ』
「あぁ、それは俺もめっちゃ感じましたよ」
『うん、そうだよね。 だからさっきあたぎさんがアタシ達に言ってくれたようにさ、アタシ達も早めに就職対策をした方が良いなと思ったんだよね』
あぁ、なるほど。 ゴリさんはあたぎさんの話を聞いて早めの就職対策をしようと決めたから納得したような声を出したんだな。
「はい、そうですね! それは良い心がけだと思いますよ!」
『うん、だからアタシ今から就活生になるね』
「はい! ……はい??」
『ってことで二人は今から面接官してもらってもいい?』
「は、はぁ?? いやちょっと意味がわから――」
『うん、ええよー』
「適応はやっ!? えっ、あたぎさんいいんですか? あのゴリラ絶対に変な事考えてますよ??」
『あはは、まぁまぁええやん。 意外とこういう模擬練習が本番で役に立つ事もあったりするもんやからさ。 ね、だからゴリちゃんの練習に付き合ってあげようよ?』
「え? そ、そういうもんなんですか?」
意味が全くわからなくて俺はゴリさんにツッコミを入れようとしたんだけど、でもその前にあたぎさんが優しい口調でそう言ってきた。
「ま、まぁ……それじゃあ、あたぎさんがそう言うんならやってみましょうか?」
『おっ! やったー! それじゃあ二人とも面接官よろしくね!』
「い、いやまぁ全然良いんですけど……でもふざけるのはもちろんなしですからね?」
『いやいや、そんなん当たり前でしょー! ってかアタシふざけた事なんて一度もないじゃんね?』
「うーん、それは嘘松」
『なんでやねん! いやでもちょっと考えてもみてよ! いくら練習とは言え面接中にふざけるわけないじゃん? しかもアタシからお願いしてんだよ?? それでアタシがいきなりふざけだしたら滅茶苦茶ヤバすぎでしょ??』
「え? あ、まぁ確かに言われてみればそうですよね。 うーん、それじゃあゴリさんの言葉を信じて模擬面接やってみますか!」
『うんうん! それじゃあよろしくお願いします!』
「はい、よろしくお願いします! えーっと、それでは最初に簡単な自己紹介からお願いします!」
『はい! 上野動物園からやって参りましたメスゴリラです!』
「ちょっと待てい!!」
『あ、ちなみに年齢は10歳です!』
「いやだから待てって!!」
『ぷ、ぷははっ!』
やっぱり駄目だこの脳筋ゴリラ……開幕5秒でふざけだしてきた。
『ちょっとー? クロちゃん何で止めるのよ??』
「いやこんなん誰でも止めるでしょ! 何ですか上野動物園からやってきたメスゴリラって!?」
『え?? いやだって面接中に出身校とか聞かれる場合あるでしょ? だから先に出身校を答えただけだけど?』
「いや答えたってそれ動物園じゃん! それ学校じゃないから!」
『え?? クロちゃんもしかしてゴリラが学校に通ってると思ってんの?? いやそれマジでヤバイよ?? もっと世界の常識を学んだ方がいいんじゃないかなー??』
「は、はぁ!? いやアンタそもそもゴリラじゃないでしょ! ちゃんとした人間じゃん!!」
何かあまりにも酷い煽りを食らったので俺は盛大にツッコみを入れた。 でもゴリさんはきょとんとした感じの声で俺にこう言ってきた。
『え?? いやそんなのクロちゃんにわからなくない? だってもしかしたらアタシは日本語が話せるゴリラなのかもしれないじゃん? それにアタシの名前にもゴリラが入ってるんだよ? もうこんなん誰が見たって100%ゴリラじゃんね??』
「いや会った会った! 会ったんすよ俺は! ゴリさんとオフ会で!! ゴリさんは間違いなく人間だったよ!」
いや何だこれ?? ゴリさんが面接の練習をしたいって言ったから付き合ったはずなのに……何でゴリさんが人間かゴリラかについての話し合いをしてるんだ??
『あ、そうだったそうだった! そういえばお姉さんゴリラなんかじゃなくて人間だったわー! あはは、ごめんねー、お姉さんクロちゃんとオフ会したのすっかり忘れたよー』
「いや絶対に嘘じゃん……」
『あはは、だからゴメンてー。 って、あ、そうだっ! ねぇねぇクロちゃんさぁ……?』
「は、はい? こ、今度は何ですか……?」
『うん、あのさぁ、ちなみになんだけどさ……クロちゃん視点でのアタシは一体どんな感じの人間に見えたのかなー? 何かいつも超絶美人JKってほざいてたらしいけど実際にはどうだったのかなー? ねぇねぇ、ちょっとクロちゃんの口から言ってみてよー??』
「は、はぁ!?」
『おー! それは私もめっちゃ聞いてみたいなー!! ねぇねぇクロ君どうだった? ゴリちゃんは一体どんな感じの女の子だったのかなー?? 本当に美人さんやったんかなー??』
「えっ!? あ、あたぎさん!?」
突然ゴリさんがそんな事を言い出したと思ったら、あたぎさんもそれに便乗して俺にゴリさんの容姿を尋ねてきた。
(いやちょっと待ってよ、あたぎさんもゴリさんがめっちゃ美人なの知ってるじゃん……!!)
『ねぇねぇ! お姉さんどんな見た目だったのかな? 是非ともクロちゃんの口から聞いてみたいなー!!』
『うんうん! ゴリちゃんがどんな女の子だったのか私もめっちゃ気になるなー! クロ君ちょっと教えてよー!』
「ぅ……い、いやその……」
という事で女性二人に囲まれて攻撃を受け続ける男の図が唐突に完成してしまった。 いやこんなん俺が何を言っても100%からかわれるだけの状況じゃん。 という事で……
「……の、ノーコメントで……」
という事で俺は戦うのを放棄して逃げました。 結局この日はゴリさんとあたぎさんにずっとからかわれ続けるだけの一日となった。




