63:俺が作ったの?
侯爵がわざわざ自領に来る。それを聞いて父は大分てんぱっていた。
「贈り物が気に入らなかったのだろうか……」
貴族について知識がないため、あまり危機感がわからないのだが、取引先の偉い人が視察に来るようなものだろうか。そう考えると、少し胃が痛いかもしれない。
そんな父を横目に見ながら、俺は今週はなにをしようかじっくりと考えていた。
週の終わりに侯爵はやってきた。
「お会いできて嬉しいです、グレイ伯爵」
「こちらこそ、ブロンソン伯爵」
やってきたのは侯爵ではなく息子の伯爵だった。貴族は時として、複数の爵位をもっていることがある。爵位というのは領地と紐づいていることが多く、侯爵は以前に伯爵領を買ったことがあり、侯爵兼伯爵といった形となっていた。
子供が生まれ正式に領地を引き渡すまでは、元伯爵領は息子に預け、息子には伯爵を名乗らせるといった形となる。
(まあ、つまり今は同格だけど、未来は侯爵になる相手。どっちにせよ気は使う相手だ)
前世でいう、社長の息子のような感じか。それはそれでやりにくそうだ。
「こんなところで立ち話もなんです。中へどうぞ」
「失礼するよ」
チラリとこちらをみた気がする。何か品定めをされた気がした。応接室に入り、父と伯爵が会話をする。この辺の腹の探り合いは、貴族社会では当たり前なのだろうか。俺にはできそうにない。話が進み、ようやくひと段落する。
「そういえば、侯爵は息災だろうか」
一瞬、伯爵の目が光った気がした。気のせいだろう。
「ええ、今は問題なく過ごしています。見舞いの品も助かりました。あの品を見繕ったのは伯爵で?」
「え? ええ、そうです」
「あの装飾品も?」
「はい、私が見繕いましたが。なにか?」
「いえ……」
力の入れ具合から、恐らくこの話が本題なのが分かるが、腹の探り合いをしているのか全然話が進まない。そもそも俺には記憶がないので、なんの話をしているか分からない。
「……単刀直入に伺います。あの魔石はどれくらいご用意できますか」
少しの沈黙の後に、伯爵がストレートに聞いてきた。取引において欲している物を直接伝えるのは足元を見られるのだが、話が全然進まないため焦れた伯爵が直接問いただす。しかしこの世界に魔石があるんだ。今週の俺は魔法関係に一切触れなかったので初耳だった。
「魔石……?」
チラリとこちらを見る父。俺? 知らないよ魔石なんて。
「ああ、お兄様の!」
そこで初めて声をあげる妹。こらこら妹よ、今回は父が話をするからなるべく黙っているように、って言われていたでしょ。
「アーサーが何か入れたのかい?」
そういわれても、覚えてないんです。
「これですお父様。お兄様が作ってくれたネックレスです」
そうして見せてくれたのは、キラキラと光る石。魔石のネックレスだった。
「それです! アーサー君がこれを?」
「え? ええ、まあ、たぶん……」
「聞きたいのだが、これは大量にあるのかい?」
知らないです。
その質問には、代わりに妹が答えた。
「確かお兄様に『このネックレスはどうしたのですか』と聞いた時に『作った』って言ってました」
それはネックレスの話で魔石の話ではないのでは?
「なんと……これは作れるものなのかい?」
「今度、指輪タイプも作ってくれると仰っていたので、多分作れるかと」
俺、そんなこと言ってたのか。
伯爵が妹の発言を聞いてブツブツと独り言をいう。
「新技術なのか……金で……いや婚約で……」
面倒そうな交渉事は父に任せて、俺は魔石を作ることになった。魔石の購入代金は、伯爵が持ってくれるらしい。
『魔術』の本を読みながら魔石づくりをする。まさか週の終わりにこんなに忙しくなるとは思ってもみなかった。




