39:商人の思い
その先触れが届いたのは、いつも通り店を開けいつも通りお客様をさばいていた時だった。
「坊ちゃまが店に来る?」
「はい、この後すぐおいでになられるので、対応をお願いします」
「……かしこまりました」
本来、貴族はわざわざ店舗へ足を運ぶことが無い。つまり貴族が足を運ぶにはそれなりの理由がある。一番最初に思い浮かぶのは何か問題を起こしていないか、という部分だ。
「……賄賂が足りていなかったか」
先日、坊ちゃまには新しい流行の服を先立って作らせてもらった。今では貴族社会では、先日坊ちゃんが着たシンプルなデザインの服が流行っている。先駆けてその事業に当たらせて貰っていたうちの商会は、かなり利益を得ることができた。
よく考えると賄賂は領主様に向けたもの。坊ちゃまに直接お渡しにいくべきだった。商人として失態だ。
「店長! 坊ちゃまがいらっしゃいました!」
「よし、私が対応する。他のみんなは粗相のないよう対応してくれ」
坊ちゃまを迎え2階へ通す。さて、まだ賄賂が足りなかったと決まったわけではないが、今回の対応は間違えないように注意しよう。まずは用件の確認からだ。
「家具をお願いしたいのだが、この店で売られている椅子を適当に一個持ってきてくれないか」




