29:軍事
「視察ですか?」
「ああ、アーサーも一度見学しておくといい」
そう父に告げられたのが今朝だった。正直あまり気乗りしないのだが、前世でも別に軍事に明るいわけではなく、知識は精々漫画や小説で読んだ程度だ。
姿を見せることに意味がある。逆にいえば軍事に対して明るくない貴族がアレコレと口を出すほうが軍関係者にとって嫌なのだ。父にそう説得され、一度顔を出しておくことを決めた。
軍の訓練所は思ったよりも近くにあった。領主の館と比べれば小さいが、立派な石造りの建物が建っている。まるで城の城壁のような建物に、目の前にはよく手入れされた芝がある。建物まで真っすぐに伸びた石畳の先に、軍服を着た男性が立っていた。
「お待ちしておりました」
先に連絡がいっていたのか、こちらを出迎えてくれた男性。少し老齢だが軍人らしく凛々しい感じだ。
「やあ、フランツ大佐。今日は頼むよ」
「はっ! お任せ下さい」
そういって胸に手を当てる。あれがこちらの世界でいう敬礼のようなポーズか。
「アーサーだ。よろしく」
「はっ! よろしくお願いいたします。」
権力があれば、明らかな年上でもこうして敬意を示してくれる。この世界に来て、改めて貴族社会を感じた瞬間だった。




