20:特訓
それを知らされたのは、『起きたら読むこと』を読み終わった後の朝食での出来事だった。
「アーサー。今週末は舞踏会があるから準備しておくように」
「え――?」
今週は何をしようかウキウキで考えていた時にそれは告げられた。
「あと同じ伯爵家のロイド伯爵の娘さんが同い年だ。エスコートもあるから予習しておくようにな」
「え――!?」
その日から舞踏会の練習が始まった。
今回はデビューということで相手の顔が分からなくても問題はない。ただそれ以外の部分はある程度できるようになっていないとマズイらしい。
女性のエスコートやマナー、ダンスなど。覚えなければいけないことが多い。
「いいですか、女性をダンスに誘う場合は必ず下から手を取ってください」
「こうですか?」
「ダメです。男性は謙虚な姿勢でいくのがマナーですが、自信がなさそうなのもダメです。しっかり胸を張って堂々として下さい」
「う――」
「はい、ダンスは必ず左回りです。右回りをするとぶつかってしまいますからね。ダンスでも女性をしっかりリードしてください」
「こうですか?」
「ダメです。ステップが遅すぎます。はい、手拍子に合わせて、イッチ、ニー、イッチ、ニー」
「う――」
「はい歩く時もエスコートしてください。腕を少し曲げて、率先して歩いてあげてください」
「こうですか?」
「ダメです。いいですか女性より前を歩くのは女性のドレスを踏まないためです。それではドレスを踏んでしまいますよ」
「う――」
日本ではあまり馴染みがなかったエスコートなだけに、前世の知識が全然役に立たない。幸い指導の意味も一緒に教えてくれるため、一つ一つメモを取り覚えていく。
「ダメです」
前途は多難だが。
◇◇
次の日、いつも使わない筋肉を使ったせいか少し筋肉痛を感じているところに荷物が届く。
「これは……」
「坊ちゃんが注文しておりました服でございます」
(記憶にありません……)
一体いつ注文したのか、人気がなくなってから俺は日記を開いて確認をする。




