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異の世で蝶は孤独に舞う  作者: 三折
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第五章 終わりの引き金

 大体のことは巡りに巡って結局安定に落ち着く。だからこの世界にきたことだって本当に些細なくだらない夢ですぐに終わる。私はそう思い続けてきた。明らかに夢では無くなった時でさえも。夢ではない。そうだとしても必ず終わりが来る。そしてやっと終わりの引き金が引かれたのだ。朝の空気に目を覚ました私の目の前に舞い込んだ、忘れもしない蝶の印。

『元の世界に帰りたいのならもう一度王都に来ることだ』

文を読み私は迷いもせずに全員を叩き起こした。

「うっわぁ…あの女王?本当性格悪いな。こんな何回も呼び出すな、っての…」

香樹がそう言うなり私から紙を奪い取り真っ二つに引き裂いてしまった。

「うっそぉぉぉ!?破る!?そんな嫌い!?」

「これくらいやってちょうど良いだろ」

二つにさいた紙をまた私に返してくる。唖然と文が左右に分かれた紙を見つめる。

「ところで」

遼の声で我に返る。

「その女王に関して。多分お前らは覚えてないだろうけど知り合いだ」

知り合いなのだろうか。確かに初対面にしては奇妙な言動が多すぎる。

「んー、遼が言うならそうかも!」

満面の笑みを浮かべて優梨が言う。そんな軽く受け入れても良いものだろうか。でも言われてみるとそんな気がしてくる。

「もうわけわかんねーからとりあえず行ってみれば良いんじゃね?どうにかなるだろ」

軽い。王都は軽々しく行くものじゃない、と思う。が、実際行かないと始まらない。

「準備するかぁ!」

「え?空良?」

「どした?ほら、優梨も早く支度して!」

「ちょ、空良、思考変わりすぎじゃない!?」

「気にしなーい!」


 目の前には玉座。しかしそこには誰も座っていない。人払いがされた空間は異様な静けさを放っていた。私たち四人は玉座の前に堂々と立ち、女王が現れるのを待っていた。

「あら四人お揃いで」

コツコツ、とヒールの音が響いた。私たちの横を通り玉座に座る。

「何から話そうかしら」

寂しそうに彼女の目が細められた。

「時雨」

遼の声が響いた。彼女は目を見開き遼を見つめる。

「花宮時雨、だろ?」

知らない。そう反射的に出てくるのに何故か知っていると思う。そんな名前だった。

「なんで、覚えてるの?」

ゆっくりと瞬きをしながら時雨と呼ばれた彼女はそう聞く。

「知らない」

「…そっか、じゃあ、みんなにも思い出してもらおっか、な」

彼女はそう言って手を合わせる。目を瞑って何かを呟いた、その瞬間、視界が白く弾けた。すぐにその感覚は収まる。もう一度彼女を見た瞬間、思い出した。彼女の名は花宮時雨。ずっと昔、小1の頃に行方不明になった私の、私たちの親友。

「し、ぐれ?」

理解が追いつかなかった。いなくなったはずの時雨は今、目の前にいる。時雨は玉座に座っている。

「ここに座って話すのは、ダメだよね」

時雨は玉座を立ち、高級そうな髪飾りを床に投げ捨てた。カツンと床にぶつかり、力無く横たわる。時雨は、女王。この世界の。それならなんのために私を捕まえたのだろう。なんのために遼を攫っていったのだろう。なんのために、わたしたちを、転生者を迫害してきたのだろう?

「混乱するよね。ごめんね」

時雨はそう言いつつ俯く。一度ゆっくり深呼吸をして、こう言った。

「全部、説明するから。協力してほしいことがあるの」

その瞳は、ずっと昔と同じまっすぐな瞳をしていた。

ー何から話すべきか、わからないけど、まず私について話すね。花宮家っていうのは代々、異世界と現世のつながりを守る、って役割を担ってきた家系なの。普通の人よりも魔法の力が強いんだって。異世界と現世がつながらないようにする、っていう役割なんだよね。その役割を果たすために30年に1回、人質として誰かを異世界に送らないといけないの。本来なら私の母が行くはずだったんだけど……。私が強すぎちゃったんだよね。時々、魔法?の力が強すぎて現世でも発現しちゃう場合があるらしくて、それが私だったの。当然、強い人を送った方が良いに決まってるから、幼稚園にいる頃からずっと言い聞かされてきた。「あなたはこの世界を守るんだよ」って。そして小学1年上がったその年に私は異世界に飛ばされた。これが行方不明の原因なの。次、なんで魔法の力が強いのか、って話。実はこの世界には現世との門になる花があるの。その花が咲いた時、異世界と現世が繋がって自由に行き来できるようになる、ってわけ。ずーっと昔、異世界と現世は繋がってたんだ。でもたくさん問題が起きてその門を閉ざすことになった。そしてその花はね、絶対にこの門を開けさせないために現世の人間とある契約を結んだの。「この門を必ず守る代わりに大いなる力を与える」っていうね。それが私のご先祖様。それで私のご先祖様が花を無理やり枯らして、出てきた種にすごく強い封印を施したの。だから私はその封印を守る役割。現世の人間が選ばれた理由はよく分からない。けれど、その封印は今になるまでずーっと守られてきた。


そこまで話し、時雨が一度ため息をつく。

「ごめんね、長いよね。香樹とか魂が抜けた顔してる」

「うおっ!?あ、悪い寝かけてた」

「香樹、お前嘘だろ…?」

「遼は理解できてんのかよ」

喧嘩腰の香樹を横目に涼しい顔をしている遼。当然理解してそうな表情をしている。

「この脳筋はほっといて良い。話、続けてくれ」

「の、脳筋?あれ香樹って脳筋だったっけ…?いや、その気はあったか…ま、いっか」

今の会話で少し緊張が緩んだのか時雨が微笑む。


ー私もこっちの世界きた時はちゃんと封印守ってたんだ。でも私は小学生だったから突然一人になって、苦しくなって、怖くなって、封印を解こうとしたの。たくさん調べて、色々準備してたらいつの間にか12くらいになっててたんだ。それでその封印の解き方なんだけど必要なものが「一定以上の『現世』の人間の魔力」だったの。だから時空の歪み?とかいうのを使って無理矢理現世の人間をこの世界に招き入れてたんだよね。それでそれなりの人数が揃ったからその封印を解く挑戦をしてみたの。結果は惨敗。魔力を注ぐ感じだったんだけど力が強すぎて魔力が吸われる感じがした。一緒にやってた人はね、途中で怖くなって逃げ出しちゃったの。でも私はそれに気が付かなくて一人でずっと魔力を注いでてふと我に帰った瞬間、周りに誰一人いなかった。その瞬間に限界が来たのか、魔力を注いでた右手に激痛が走って、私の腕はこの有様。崩れないのは魔力のおかげなんだけどね。


そう言いながら時雨は右手の服の袖を捲る。灰が固まってできたかのような色合いをしていた。時雨が指で弾くと細かい破片が宙を舞った。

ーそれから私は言わば『転生者』を信じられなくなった。だからいっそ『転生者』を捕らえて魔力を奪えないものかと考えた。そこで私の魔法が開花したの。私の周りを飛んでいるこの蝶は人の魔力を蓄えることができるの。それ以外にも色々できるんだけどね。だから捕らえた人たちから毎日蝶を使って魔力を吸って使ってたの。さっき腕を魔力で保ってる、って言ったでしょ?私自身の魔力は蝶をキープするだけで限界だったからその蝶の魔力を使ってた。だから永遠に魔力もたまらなかったの。それで諦めかけてた時、時空の歪みに巻き込まれたのが空良達だったの。最初、四人が来たのを見た時、もう存在も思い出せなくていつもと同じようにじわじわ追い詰めて捕まえようと思ってた。でもなんとなくそれをしちゃいけない気がして、時々力が抜けたりした。でもつい昨日ね、思い出したの。四人のことを全部。もしかしたらこの四人ならなんとかなるんじゃないか、って。そう思ってここに呼んだんだ。


「そんなとこかな」

そう言って時雨が話を締めくくる。情報が多すぎていまだに理解はできていない。が、時雨が私達を必要としていることだけは分かった。でも協力する前に私は時雨に言わないといけないことがある。

「しぐれ、ごめんね」

時雨が行方不明になる前日、私はいつものように時雨と遊んでいた。その帰り際に時雨が「みんなに会いたくなかったな」と呟いたのだ。その時、私はそれを言葉通り受け取り、時雨に嫌われたと勘違いしたのだ。何を言ったのかは今となっては覚えていないが、時雨と会えなくなるなら、話せなくなるなら、あんなこと言いたくなかった。そうやってずっと後悔を抱え込んでたから。ここで謝りたい。

「うー、もー空良さぁ…なんで泣かせるようなことを今言うかなぁ」

時雨が近づいてきて私の肩に顔を押し付ける。

「私もごめんね」

涙と潤んだ声に釣られて、視界が滲んだ。時雨が一人ぼっちで10年近く耐えていてくれたこと。私を今もなお信じていてくれたこと。全てが一気に押し寄せて、一粒の雫になった。


 「あー、泣きすぎたぁぁ」

赤く目を腫らした時雨が笑いながらそう言う。ちらっと3人を見ると目の縁が僅かに赤い。私も人のことを言えないレベルで泣いたが、それは気にしない。

「ほら時雨、切り替えろ」

遼が時雨の右ほっぺたを引っ張る。

「うぇー、もうひょっとしゃいかいの感動にひたりゃせてくれ、イテテテ」

駄々をこねようとする時雨の反対のほっぺたを優梨が引っ張る。

「二人してひっぱりゃなくても良いじゃん…」

ほっぺたを左右から引っ張られ、ほっぺたが伸びている時雨とそれを挟んで立つ優梨、遼。なんとも不思議な絵面である。

「でとりあえず封印をぶっ壊せば良いんだよな?」

ゆっくりと後ろを振り返るといつぞやの筋骨隆々な香樹がそこに。今にも壁を壊しそうな勢いがある。

「ちょ、え、誰?」

ほっぺを解放され手でほっぺたをさすっていた時雨が唖然とした顔で香樹を見つめる。

「これ香樹」

「うっそ。空良、嘘だと言ってくれ」

「それが言えないんだよ」

「うそぉ」

「俺はこれが魔法だと信じてる」

魔法で筋肉が発達する、というなんとも不思議な言葉の羅列。

「じゃあ、魔法かどうか確かめてみない?」

「どうやって?」

「遼なら分かると思うよ!」

遼に何か特殊な才能でもあっただろうか。

「え、俺?」

当の本人も困惑した顔を見せる。

「ん?自覚ないの?なんか遼、鑑定?に近い才能あるよ」

「あぁーもしかしてこれか?」

飲み込みが早い。

「お、すごいな、これ」

もう活用してそうな空気。相変わらず頭が切れる。

「花宮時雨。お、この称号すごいな。『裏切りの花蝶姫』」

「え、私そんな称号ついてたの?」

時雨はまじまじと自分の手を見つめる。当然それを見て何か分かる訳もないが。

「って、そんなこと言ってる場合じゃなくて!とりあえずその花のとこ案内するね」

そう言って扉を開け、軽い足取りで時雨が歩き出す。

「ここが私の部屋なんだけど…」

部屋に入るなり時雨は一つの壁をぺたぺたと触り始める。

「あ、あった!」

ある一箇所で手を止め壁をぐっと押し込む。次の瞬間、壁が左右に分かれた。

「うわぁぁぁすげぇぇぇ!」

奇声をあげて香樹がその壁に駆け寄っていく。現実で見ることになるとは思っていなかった、定番の隠し部屋。スタスタとその中に入っていく時雨に続いて部屋の中へ入る。その部屋は有り体に言ってしまえばすごく綺麗だった。灰色で統一された部屋の中、一際目を引くのは部屋の中央に置かれた真っ黒な種。そしてその周りに張り巡らされた封印のような光の筋。さらにはその光の美しさを凌ぐ時雨の蝶達。蝶を纏いながら時雨はゆっくりと種に近づいていく。

「もう少しで封印が解けるはずなの。まぁ、そうは言ってもあとざっと50人分近くは必要なんだけど」

「…今何人って言った?」

「50人」

「無理じゃない?ねぇ?」

「いけるいける。とりあえず遼、全員鑑定してみて」

「ん?あ、あぁ…香樹が筋肉増強魔法、優梨がものを召喚できて…空良が…MPを10倍にできる…?」

MPというとマジックポイントだったはず。10倍にできる、と言われるとチートの匂いを感じる。1人が10人分の力を持ってる、ということになるからだ。

「は?空良チートじゃん」

「香樹も大概だと思うよぉ」

全員チート能力みたいになってきたような気もしてきた。時雨は多分これ以上だろうから相当強いのだろう。

「はぇー、じゃあ封印解けるんじゃない?」

嬉しそうな声をあげる時雨と目が合う。なぜかすぐに逸らされてしまった。

「そうだな、空良魔法の掛け方とか分かるか?」

「遼みたいに優秀じゃないんでわかんないね、うん」

「教えたげる!なんか、私の場合だと出したいものをイメージして、それを作り出すのをイメージする感じなんだよね。だから10倍に増やすイメージでやってみなよ!実験台は香樹でいいからさ!」

「よし、来い」

10倍に増やすイメージ。勢いが大事な感じがする。手に力を集めるイメージを浮かべつつ目を閉じる。10秒ほど経っただろうか。手からビームを出すイメージで力を込める。

「うぉっ!?」

目を開けると目をぱちくりとさせている香樹。とりあえずは無事な姿を見た瞬間、初めて魔法を使ったからか一気に疲れが襲ってきた。深呼吸をし、落ち着ける。

「なんか…強くなった気がする」

「空良すごいね!一回で魔法使いこなせるなんて。しかもなんか10倍どころか13倍くらいになってる気がするんだけど…?」

時雨が香樹の周りを歩きながらそう言う。見れば分かるものなのだろうか。

「空良、疲れた?大丈夫?」

「ん?大丈夫だよ!それよりみんなにもやらなきゃだよね!」

「ほんとに無理しないでね」

「大丈夫だよ!ほらとりあえず優梨にやるね!」

さっきと同じように力を込める。放つ瞬間に目を開くと優梨に向かって青色の光線が飛んでいた。光線が優梨に当たり吸収されていく。

「なんか体軽くなったかも!」

そう言って優梨はその場でくるくると回ってみせる。そのまま残りの二人にも魔法をかけ終えると時雨がびっくりするようなことを言ってきた。

「あ、私、普通の人の2倍はMPあるから今多分えげつない量になってると思う」

しかしそれが私のMPの限界だったのだろう。その言葉を最後に私の意識は暗転した。


 「ん…?」

体全体に感じる柔らかな感触。ゆっくりと目を開けると見慣れない白い天井が広がった。

「あ、起きた?」

「ん…時雨か」

「そだよ〜」

体を起こすとベッドのすぐ隣に時雨が座っていた。

「空良MP少ないのかなぁ…でも空良の魔法は普通に強いからシンプルに消費量が多いだけかもしれない」

「そっかぁ」

「動けそう?」

「大丈夫だよ」

そう言いつつベッドから降りる。若干乱れている髪を直していると廊下の方からばたばたと足音が聞こえてきた。

「そらぁぁぁ!」

ドアが勢いよく開いたかと思えば背後から勢いよく優梨が抱きついてくる。

「無理しないで、って言ったでしょぉぉぉぉ!心配したんだからぁぁぁ!」

「それは悪かったと思ってるよ」

「ほんと…?」

優梨の方に向きなおり軽く頭を撫でる。

「次やったら怒るからね…?」

「もう怒ってるよね?」

「細かいことはいいの!」

そういうと優梨はにこっと笑ってまた廊下へ出て行った。それと入れ替わるように時雨が部屋に入ってくる。

「多分、空良の魔法はまだ有効だと思う。今日実行しようと思ってるけど質問、ある?」

「んー…」

やることに対する質問はない。しかし、不自然に目を逸らした時雨の姿が脳裏をよぎる。

「時雨さ」

「んー?」

「何か隠してる?」

そう聞いた瞬間、時雨の顔に浮かんでいたふわっとした笑顔が一瞬消えた。再び笑みを浮かべた時雨は目線を私から逸らし地面を見つめる。

「うーん……大したことじゃないよ!どうなるのかな、って思っただけ!」

「ほんと?」

「大丈夫だって、ほらみんな待ってるよ!行こ行こ!」

無理矢理丸め込まれながら、時雨に背中を押されて部屋を出る。廊下に出たその瞬間、目の前を紫の光で彩られた蝶が横切った。反射的に目を瞑り足を止める。

「あらら、こっちおいでー!」

時雨の声を聞きゆっくりと目を開く。蝶を包み込むように伸ばした時雨の手を避けるように蝶はふわりふわりとどこかへ飛んでいった。

「え…?」

行き場をなくした時雨の手がゆっくりと降ろされる。

「あれ…?まぁ、そんなこともある、か…」

そう呟くと時雨は一人ですたすたと歩き始める。強く握り締められた時雨のこぶしを見ながら慌てて後を追いかけた。

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