追い出し
──でていけ!
飛んでくる小石。怒号する村人達。
その的は自分と少年にあった。
ロエと別れを告げて太陽が既に顔を隠した小焼け時。クエストから帰ってくるなり、村の入り口で明かりを掲げた村人達が自分達の帰りを阻んだ。
『悪魔だ。あのヤブランもきた』
『村を脅かす害悪を追い出せ!』
『殺さないの』
『呪われるぞ』
断片的に耳に入った言葉達。
どうしてこうなったのかわからない。躍起になって執拗に追いかける彼らから脱兎のごとく逃げた。何が何だか分からないが少年と共にとりあえず、今晩はいつかの懐かしの森で夜を明かすことにした。
「いや、おかしい」
「うるせぇ。早く寝ろ」
隣に寝てるヤブランに蹴られてしまうが、どう考えてもおかしい。
深々と静まった夜の森のどこか。木の根元に隠れて草を盛った寝床で目を瞑っていたが、さっきのことを振り返っても納得がいかない。
普通に。そうフツーに彼らに迷惑をかけず自給自足生活を満喫していたはずだ。村人なら貰えるはずの領主からの配物が回ってこなくても文句も言わず村の隅っこの隅っこでひっそり暮らしてたはずなんですが。
「そういえばプレトと言ってたな」
あの時、確か敵意は自分に向けられていた。蔑むような嫌悪の視線。初めて向けられたもんだから漠然と明確に違うものだと感じた。されどヤブランは?これは単純に巻き込まれた人では?と実感した瞬間体から体温が引いていく。なんて声をかけるべきか、いやまずは謝るべきだろう!
「あ、あのさヤブラン……ごめ」
謝ろうとした瞬間ヤブランが遮った。
「──ちなみに言っとくけど、別にお前のせいじゃねぇ。黒髪黒目が悪魔だっていうのは大昔の話だ。そんな迷信信じてんのは年寄りか、辺境の村人ぐらいだっつの」
「それにこうなったのは」と続けようとするヤブランにひと呼吸分の沈黙があった。
「……偶然が重なっただけだ」
「偶然?」
ヤブランも外から来たらしい。その頃から村の畑が野生動物に荒らされたり、近所の子供が食われたり、凶作であったり、男が徴兵されたりと不幸に見舞われていた。その苦しみを誰かのせいに出来たら楽なのは明確。出かけたこの日、魔物が村を襲ったと後に知った。旅人がその場を救ったらしいが村人たちの苦しみは怒りに変わる。ついぞ爆発ってところでしょうよ。余所者という格好の的、しかもそれが来てから悪化する一方ときた。排除するのが村の平和のためと考えるのが無難だろう。満場一致。後は追い出し完了という結果。
「あぁ〜〜〜〜!!」
あれから2日目。取り敢えず生きやすくするためにお金を稼ぐことにしたので、今日も朝から薬草採取のクエスト中。
思い出す度腹立たしく、薬草をあの村人たちの頭を思い出しながらハゲしく毟る。根こそぎガッッと引っこ抜く。そもそもあっちも自分がプレトだと分かってて受け入れたはずだ。これなら最初から優しくしないでよ!……優しくされた覚えねえな。普通にムカつく。
「うるっせェ!この前のこと忘れてんのか!」
「あ痛っ」
遠くで採取していたヤブランに怒りの声が届いてしまったようで、猛ダッシュでやってきた。
小声で怒りながらケツを蹴り飛ばすヤブラン。段々と容赦がなくなってきている。
「というか、ヤブランはどうして怒らない。こんな理不尽怒ってもいいと思うんですが」
「あ?まだ言ってんのかよ。怒ったところでどうしようもねえだろ」
「あ。雑草入れんなって言ってんだろうが」と自分が詰めた袋からぽいぽいっと草を捨てている。ヤブランならもっと怒ると思っていたがこの諦め様は一体なんだろう。まるで慣れてるような……あ。
「──もしかしてこういうの初めてではない?」
「まぁな。一箇所に定住するには向いてねぇ性分らしい」
「その性格じゃあご近所付き合いも難しいよな」
「うるせぇ」
「あいたっ」
脳天一撃。ヤブランはそのまま薬草集めに向かっていった。
言っては見たものの少年にご近所付き合いも何も無い。無愛想もくそもなく保護されるべき対象のはずなのに一体どうしてなのか。そういう世界観、風潮といえばそれまでだが、聞くにはまだ壁があるような気がした。いや、自分に勇気がないだけだ。他者を知る勇気が。




