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捜索隊

目を開ける。


見知らぬ天井だ。

嗅いだことのない匂いが鼻腔をかする。

上半身を起き上がらせ辺りを確認する。

他にも白いシーツの掛けられたベッドがおかれている。布幕で囲まれているようだから、もしかするとテント?あの道端で倒れてる間に誰かが助けてくれたのか。夢から覚めたのかと淡い期待を抱いたが部屋の風貌とは似ても似つかない。


その時、入り口の幕からぬっと男が入ってきた。

兵士や兵隊が身につけるようなザ隊服を身につけている。久方ぶりに見た黒の髪のショートヘア。

男と目が合ってしまった。


「目が覚めたようでよかったです……すみませんが今医者は出払っていていません」


なので代わりに俺がと男は自分の寝ている寝台の脇に手に持っていた木箱を置き、なかみをいじり始める。

これは……助けられたでいいのよな。状況判断的に。


目の前の男に話を聞くと、探し物の最中道端で倒れている自分を発見し、捜索編成チームの一時拠点まで連れてきたという。そしてここは医療結界内だという。

よくはわからなかったが、助けられたことには変わりない。

けれど、大事な任務中。しかも貴重なベッドを一般人に貸していいのだろうか。はて理由は。


「あの、一体どうして」

「月桂樹の実食べましたよね」

「ゲッケイジュの実?」


どうも、聞きたい内容とは違う解釈をされてしまったらしい。ゲッケイジュ……それが何か聞いたこともなかった。けど、なあんとなくわかる気がする。うん、それ以外にない気がする。

今日食べたものと言えばひとつしか思い当たらん。


「丸くて手のひらくらいの黒い実」

「タベマシタ」


あっは、やっぱり。

特徴がまんま同じで疑いようもありません。

あれか、やっぱりアレだったのか。


「あの実、味は美味いが猛毒です。大概のヤツは中毒起こして死ぬ」

「シヌ!?」

「まれに生き残ることがあるらしいがそういう話はあまり聞きません」

「……」


絶句だ。

ありがとう神様、ありがとう恩人。

本当に人生からリタイアするところだった。

感謝なむなむしている中、男から小瓶を差し出される。


「これ、一応飲んでおいてください。毒を中和する薬です」

「ありがとうございます」


色は透明、味は水。

異世界の薬は最高だな。

ぐびっと一気に煽って空いた小瓶を返す。


「あなたがいなければ死んでました。本当に感謝します」

「あんたの運が良かっただけです。後で医師がくるんでそれまでゆっくり休んでください。失礼します」


そういって男は木箱を持って白い布の向こうへ消えていった。

淡々とした青年という印象だが、おかげで助かった。また改めてお礼がしたいな。あ、名前聞きそびれた。

また出会えたらいいなと思う。

そして、日は傾き始めるとともに、体調は回復した。


身体から痛みと苦しさが引けて。もう動けそうだと思い上半身を起こした時だった。


「失礼します」


その時、女性の声が出入り口の外よりした。

すぐに幕は開けられて、すごく美人なお姉さんが入ってきた。彼女は軍医のピアさんと言うらしく、自分の体調を見てもらうと、この日一晩ここで過ごすように言われた。しかし、軍のベッドを自業自得ともいえよう自分が使うのは気が引けた。


「お、元気になったみたいだな」


その時背後で男の声がした。

その声にピアさんは眉を顰める。


「隊長、確認もなしに中に入ってくるなと言っているだろう。全くここの男連中ときたら」

「す、すまん。今朝見たその子の様子が心配で、つい」

「それとこれとは」

「つ、次は気をつけるよ」


隊長と呼ばれる彼は、すごい傷の量となんとガタイのいいことか。しかし、若干気がよわそうに見える。

彼は自分のほうを見ると、温和な笑顔を見せる。


「ああ本当に顔色が良くなった。今朝は顔面蒼白で今にも死にそうだったから心配だったんだ」

「お陰様ですっかり良くなりました。大事な病床や薬品を使ってしまい申し訳ない」

「気にするな。君が無事で本当によかったよ」


そう言ってゴツゴツとした大きな手がさげた頭に乗っけられる。軽くわしゃわしゃとされたが不快感はない。


「誰彼構わず頭を撫でるのはよしなさい」

「あでっ」


ピアさんに引っ叩かれてしまった。意外に強かったのか隊長さんは叩かれた手をさすっている。


「あぁそうだ、ちょうど良かった。先ほど見立てた候補者の能力測定結果だ」

「早いな。もうできたのか」


ピアの懐から透明の結晶板が出てくる。

こちらからはただただ透明な板の表面をいじっているようにしか見えないが、この世界における電子機器みたいなものなのだろうか。


「おそらく違うだろうな。どれも特筆した点はない」

「そうかあ」


まさにがっくしと効果音がつきそうなため息。

そういえば探し物しているんだったか。


「あの」

「ああ、すまない。病人の前でする話ではないな」

「いえ、少し気になったので聞ける範囲で聞きたいんですが。探し物って──」


ピアと隊長は顔を見合わせる。

やはりまずったか、これは。まあ、なんか重要そうな話だし、好奇心で聞くようなやつに話せることもないだろう。好奇心は猫をも殺す。引くのが吉。


「助けていただいたのでお力になれればと思っただけなので、すいません忘れてください」

「ああ、いやいや、気持ちは嬉しいよありがとう」

「いや隊長、あっち側に知られなければ済む話だ。今はイコの手だろうがクモネズラの目だろうが借りたいぐらいさ。話すくらいいいだろう。今は何よりも情報がほしい」

「……そうだな。このことは極力他言無用で頼むな」


本気かい。




──事情を聞いた。

心の底より隊長へ同情した。

どこの世界にも理不尽で無理難題を押し付けるブラックな上司はいるもんだな。

気配で探せって忍びの世界か、侍か。スタンドでも見える世界線なのかここは。はは、無理ゲー。


「大変、ですね……」

「ああ、うん。うん。そうだなすごく大変……大変だなあ」


目が遠い。

しみじみとした隊長さんの言葉に心中お察しします。


「それで、もし君の直感でヤバいやつが居たなら教えてくれ。私のコードを教えておくから連絡するときはそれを使ってくれ」


そう言ってピアさんから名刺のようなものを貰った。

使い方はもちろんわからなかったので教えてもらった。一回きりの一方通行。名刺にメッセージを書き千切ると組み込まれた魔法が発動して、それがピアさんの透明な端末に送られるというもの。届くのに一日程かかるのが注意らしい。

体調も戻ったし、これ以上の長居は無用か。

協力することを伝えてお暇することにした。


「ありがとうございます。ぜひお手伝いさせてください。この御恩は一生忘れません」

「いや、こちらこそありがとう。もう行くのか?」

「はい、お世話になりました」

「達者でな」

「はい」


彼らにサヨナラを告げて家に帰る。

とっても暖かい人たちだった。またどこかで会えたらいいなと思えるくらいには。

空はすっかり暗く、2つの月が顔を光らせていた。


……ヤブラン怒っているだろうか。













──その頃



「ハコべは、何を、やっている」


空気が冷たい。

白い外套のお方は今にも頭の血管がはち切れそうなご様子。

そろそろ隊長が殺されそうな雰囲気が漂う中、俺はただその場に立つ。

隊長がこの場に現れないことは見つからないことを示している。


「ふぉ。これこれ、そう怒りなさんな。ハコべはあの御方の一切を知らぬ」

「ならば私自ら探す」


是非ともそうしてほしい。

外套の御方は席を立ち上がったが、尊老の御方に止められる。


「ふぉっふぉ。多くの有力者に顔は知れ渡っておるのだ、お主が動いては人間どもが何を勘繰るかわからぬ」

「好きにさせておけ」

「我らの計画のため、果てはあの御方のためである、今は耐えなされ」


尊老の御方に言われて、外套の御方は席に座る。

しかし、何も解決できないのが問題だ。


「ふぉ。今日はあの子の姿が見えぬな。どうしたのかの」

「ああ、彼女は外せない用事があるらしい。なんでも締切がどうのとか」

「珍しいの。あの子が仕事を終えていないとは」


『あの子』とは水晶の御方のことだろう。

大体は御三方がお揃いだが、どうしたのだろう。と下っ端の俺が考えても意味はない。


「最近は星を見てもらってばかりいるからな……休暇をやるべきか」

「ふぉ。それがいい」


“休暇”

切望しているのが一名いることを俺は知っている。

そろそろ休まねば胃に穴が開きそうだということも。


『捜索を続けよ』という何度目かの命を受けて、その場を去った。






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