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なんとか生きた

何かが出てくる前に逃げる。

危険を避ける最大の手段は危険な場所に行かないことだってばあちゃんが言ってた。

ここは異世界の可能性が高い。何が出てこようと自分の想像を超えてくるに決まってる。逃げるが勝ちってな。


「はあ、はあっ……っは」


どれくらい走ったか。

木の根に躓きすっ転んだので一息つく。喉が渇いた。仰向けになり汗でべっしゃりな顔をTシャツの腹で拭く。全身に血液が回る感覚が鼓動と共に感じられる。凄く喉乾いた。体力はそこそこ平均的だが、山道を全速力で駆け抜けるという経験はしたことが無い。もの凄く喉乾いた。


しばらく息を整えていると水の音が聞こえる。

今、何よりも望んでいるものの音が聞こえる!


「み、みず……!」


運良く近くに川を見つけて、命の水を補給。川面に口をつけてがぶがぶと飲む。そのまま、火照った顔を水中に浸す。呼吸がもたず、勢いよく顔を上げた。


「……はあっ、生ぎがえるぅ」


運動したあとの水ってどうしてこんなにも美味いのだろうか。水が美味い。

本当に一息ついて、大自然に囲まれた状況に目を配る。現実的ではない光景に虚しいような気になる。

今がサバイバルじゃなけりゃ、ブリッジしてるような木や、荒ぶるクリオネらしきものに心躍らせ、満喫できたのに……


ギュルルルルル


その時ついにお腹の虫が鳴きだした。

まずは食料問題をどうにかせねば。空腹は余裕も気力も無くしてしまう。腹も膨れにゃいくさも出来ぬ。


この世界に自分の知ってる生き物がいればいいなと思うが、期待しても意味が無さそうだ。

ハズしたら天国行き、アたれば地獄のロシアンルーレット。さあ、まず最初の獲物はーー


「よし、君に決めた!」


手のひらサイズの黒い果実。

肉が無難かと思ったが、そもそも捕まえることができなかった。野生動物に勝てる戦闘能力はない。

これが食べられるものと願って!


「いただきます」


ガジッとちみっこく口に含む。

舌の上で転がすが、何の違和感もなし。飲み込んでは見たが、特に変化なし。これは……


「いける!」


あぁ、空腹は最高のスパイスとはよく言ったもんだ。

美味い!この上なく美味い!

むしゃむしゃと頬張っては顔がほどける。右手に1個左手に1個その果実を持ち……夢の二刀食い!


交互に貪り始める。程よく甘い果肉が口内を潤し喉を滑る。

兄弟がいたからなんでもわけっこ。そんな機会があってもはしたないと怒られる。無作法に食べられる優越感がさらに味を美味しく感じさせた。


腹も膨れて、日が暮れて。

その日は適当に集めた草の上で寝た。


後日から本格的に人探し。と決めていたが、なんとまたまた運のいいことに、川を辿って行くと小さな村を見つけた。そこで村長さんに記憶喪失という体にして事情説明をすると、快く村に居させてもらうことが出来た。

始まりとしては上々すぎて、この先何とかやっていけそうだ。


村で過ごして数日が経った。


「おい!」


まだ日も開けぬ早朝。支度をしていると、外から呼ぶ男の子の声が聞こえる。

村で宿泊場所を提供してくれた少年ヤブランが庭先で籠を背負って立っていた。それを窓から確認すると急いで外へ出た。


「遅い」

「ごめんごめん」

「今日はこれ全部売るかんな」

「応よ!」


ヤブランと一緒に隣町まで彼が作った作物を売りに出かけた。


さっきまでいた少年の村はカ・ポラといって、これから向かう街はサンスクワット領主が治めるデデ・ンデンという場所らしい。


この数日、記憶をなくした自分のために親切にもこの世界の常識や、知識を惜しげも無く教えてくれる。神よ。聖人ならここにいる。その節穴な目かっぽじってよく見てください。


森から来たという記憶喪失の怪しい服を着た人間に宿と食事と服と仕事の提供をしてくれる12歳くらいの少年ってどうだろう。人が良すぎて少しというかかなり心配だ。


そんなこんなで早朝に作物を売りに行き、帰ってきたら畑をし、たまには狩に出かけ、共に食事をし眠りにつく。ひと月くらい彼と共に生活をすることになった。








──その頃。


「なぜだ、なぜ見つからない!!」


ダァンッと卓を白の外套を着た男が叩き叫ぶ。卓に置かれた調度品が軽く浮いた。(ヘリオト)は重厚とした扉を背に立ち、その御姿を正面に捉えた。


「ひとつき……一月だぞ!?」


彼の言う通りこの1ヶ月間、異世界より召喚したはずのお方が行方不明のまま見つからない。

俺たち捜索隊が片っ端から探してはいるが、見つかるどころかその手掛かりさえもない。


「ふぉ、そもそも召喚できていないのでは無いのかね?」と卓の右側に背丈より大きな杖を抱え込んで座するフードを被った尊老がおっしゃる。


「そのはずはありません。星は見えています。いまだあの御方の輝きは潰えてはおりません」と卓の左側に鎮座する盲目の女性が水晶を見て仰った。


「おかしいだろう、星のある場所を捜索しているにも関わらず見つけることも出来ないなど!」

「常に星の位置が変わってしまいますもの。着く頃には別の場所にいての繰り返し。直接私が迎えられればいいのですが、私はこの城から動けませんし……困りましたわね」


星の結果を聞いてその場所へ赴くにはどうしても時間がかかる。この場所は特殊な環境下にあるため、魔法による情報伝達が難しい。


「不思議なのが接触できるような距離にいらっしゃるはずですのに、報告が上がらないということ。巧妙に隠れていらっしゃるとしか考えられませんわ」

「なぜそのようなことを」

「ふぉ。そもそもその御方の容姿を見たことがない。その御方を探すのは至極困難」

「いいや、一目見ればわかる。召喚時、我らに呼応したあの常人ではない気配……」

「……ふぉ」

「……そうですわね」



「ムリです」 と言いそうになるもグッとこらえる。


御三方は思い出すように沈黙する。

彼らは俺の上司(隊長)の上司。この世界で一番力がある存在の3柱と呼ばれている。異世界から召喚したのも彼ららしい。


俺は召喚時に同席できる地位も力もないために知り得ないのだが。上位貴族の御三方が言うのだ、きっとすごいのだろう。だが、見たこともない人物を気配で探すのは難しい。


「ふぉ。あの御方は今どこにおられるのか」


白髪の尊老が問われると盲目の御方は水晶に手をかざした。

すぐにわなわなと震え出す。


「北西“モルタルの尾”……ああっ!光が、あの御方の光が弱々しくなっておられます」

「なんだと!?今すぐ捜索隊はモルタルに向いなさい!」


外套を着た男からけたたましく命令を受ける。あの場で発言することは俺には許されてないので、俺はその場を去ることでそれに応えた。

本来は隊長がこの場に報告に来るのだが、御三方に『あの御方を見つけるまで顔を出すな』といわれてしまっているかため、代わりに下っ端の俺が近状報告をしに来ている。


報告しなかったらしなかったでどやされるのも隊長だ。

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