オークション
「皆さんお待たせいたしました」
スポットライトに照らされた、仮面を被った男が丁寧にお辞儀をする。
先程まであった商品は舞台から下げられて、真っ暗な中。舞台中央に魔法陣が光だす。
「本日の大目玉商品!不幸を呼ぶか、幸せを運ぶか、悪魔の異名を持つ人体の神秘『プレト』! 」
魔法陣の中から現れたのは自分。
集中砲火の光に目が眩む。小さい玉のようなものが自分の周りを浮遊する。
背後のスクリーンのようなものに自分の髪やら目が映し出されている。
お客さんはどよめき興奮に満ちていた。
「黒鳥の濡羽のような髪、全ての色が混じり合った果てに存在する混沌の瞳。なかなかお目にかかれないその部位を手に入れるのはさらに難しい」
仮面の男は間を取って言った。
「しかし、本日の商品……なんと生きています」
生きてんよ。
生きているだけで湧き上がる空気。
「このような素晴らしい出会いがあるでしょうか。一生に一度の奇跡です」
生きているだけで誉められるって素晴らしい。
「愛でるもよし、剥製にするもよし、食べるもよし、悪魔と契約するのもいいでしょう、所有者の自由でございます。早速800から始めさせていただきましょう」
それを皮切りに次々と大きな数字を仮面の男は読み上げていく。
ハクセイ? タベル? ケイヤク?
人間相手に商売してんのよな?
誰か助けて。
それか今覚醒してくれ。
ここにくるまでに何度も挑戦してみて体を力ませば屁をすかすだけ。自分の体はあの出来事以来うんともすんとも言わなかった。
ロエは途中まで一緒だったのだがいつの間にかいなくなっていた。
どうにか逃げ出す隙はないかと考えて、考えて、ついにここまで来てしまった。
逃げ出してもお客人が逃しはしないだろうな。と1500にいくか行かないかの瀬戸際だった今一気に3000台まで跳ね上がった数字を聞いて思った。様子見していたお客が複数いらしたようだ。
誰が激レアアニマルを手に入れられるかの駆け引きが行われている中で、どうにかできないかと周りを見渡す。
その時光に影が触った気がした。
天井の光源あたりを目を凝らしてみればそこに人影がうっすら見えた。
あ、あれは……
落札価格が4000と上がった瞬間。
スッと光が消えた。
会場は暗闇に包まれてお客人たちがどよめきだつ。自分もついでにどよめく。
自分は暗闇の中、目をかっぴらく。少しでも何が起きているのか状況を把握しようと視界を凝らすが、すぐ近くでガラスが割れるような音と同時に何かに体を引き寄せられて足が宙ぶらりんになる。
誰かに抱えられている。
その正体はハナノスケだった。
騒動に紛れて会場からの華麗な脱出をキメタ後、人気の少ない石畳の裏路地を通ってボロい倉庫の中に転がり込んだ。
彼は切らしていた息を整える。
追手は来ていないようだ。
それらがわかるとハナノスケはこちらに向かって怪我はないかと聞いてくる。
ないことを伝えると、緊張の糸が切れてふわっと彼の顔が緩む。
「よかった」
と本気でそう思っているように言うのだ。
迷惑かけたことを謝り、感謝を伝える。ハナノスケはなんでもないようにはにかんだ。
見事な手腕、白い怪盗をやっていても遜色ない。顔もいいし。
ところで、ヤブラン少年がいないことを聞いてみると。
ここにくるまでに奴隷は二等分された。片方は一般向けの奴隷市場のところへ、もう一つは上流階級向けのオークション商品として。ヤブランは恩人が奴隷になっているのを見つけたから、ともう一つのと行ったらしい。一応のためにハナノスケはそれを許しこちらへ来たのだった。
恩人といえば、ロエさん。
「ハナノスケ、黄色い髪の少女見てないか?」
「うーん、見覚えはないな」
「そっか」
奴隷市場の方に連れて行かれたのだろうか。
ハナノスケになんて言おうか悩んでいると、彼は立ち上がった。
「こっちでは見てないけどヤブランの方にいるかもしれない、行こう」
頷き、立ち上がる。
彼の背中を追って駆け出した。
言葉も出ねえよ。
ヒーローってのは高人のことを言うんだろう。