さらば王国+
豪華絢爛な小さな宴も終えて。
数日もすれば、ヤブランの体力も気力も回復した。
ヤブランと共にお城をお暇することにした。
ここから南方に向かえばとても住みやすい国があるのだとか聞いたのでとりあえずの行き先をそこに決めた。
日が明けると同時にコガラシ王国をでた。
しかし。
「ハナノスケまでどして」
隣にはのほほん顔のハナノスケ。
ハナノスケは懐からまっさらな手紙を覗かせてニッコリ微笑む。
「王様のお使い」
南の国の同盟国まで、信頼絶大なハナノスケに超重要機密文書を頼んだのだな。
「長旅になるだろうからよろしく」
ま。いいか。
楽しい旅になりそうだ。
途中は珍妙な生き物が引く馬車(?)でのんびりゴトゴト揺られながら景色を楽しんだあと、ヤブランとハナノスケとの歩き旅が始まる。
今のところ特に問題もなく目的地へと近づいていった。
──そのころ。
「悪い」
ヘリオトがベッドの上でそう言ったが、ついさっきテント内でヘリオトと歓談していた男──ハシドイは衝撃に叫ぶ。
「俺が代わりに報告!?」
「ああ、ヘリオトがこんなんじゃあ流石にな」
と近くにいた隊長がいう。
ドラゴン捕獲後、改めてピアによる全身検診を受けたところ、ヘリオトは肋骨を折り、内臓が傷ついていた。
それも軍医ピアによって一日もあれば治るのだが、その一日に本部への報告にいかなければいけなかった。しかし、そのヘリオトは動けない。それならば誰かが代わりに行かなくてはいけない。
ちょうどヘリオトと話していたハシドイに白羽の矢が立った。
あの誰もが震え上がる地獄にだ。絶対に嫌だ。
「他のやつは!?」
そうだ、自分の他にいるはずだ。さっきまで話していた同僚とか。
しかし、隊長から発せられた言葉に耳を疑う。
「なんでもみんな自前の腹痛やら頭痛やらが酷いらしくてな」
ハシドイはパチクリと目を瞬かせる。が、その言葉の意味を理解した途端目を瞑り青筋を浮かべる。
(あいつら〜〜)
誰もが分かる通り嘘だ。絶対に嘘だ。どうして信じる隊長!
この流れはまずい。なんとしてでも回避しなくては。
「お、俺も自前の腹痛が」
「さっきこいつお給金貰ったんで飲みに行こうって言ってました」
「ヘリオトおまっ」
仲間の裏切り。
隊長のことだからみんなと同じ戦法でいけると思ったが、本当の敵は近くにいた。
もちろん隊長はヘリオトの言葉も信じる。
「おお元気そうだな、俺が行く訳にも行かんし、次は確実に死ぬからな。スマンが頼んだ」
隊長がハシドイの肩に手をポンとおく。
「立っておくだけだ」
とヘリオトはいう。
「それがむりだって言ってんだろうがよお。あんな圧掛けられて立ってられるのはお前くらいだバカヤロう!」
もう泣いた。
余命宣告もなく確定宣告。泣くしかないわこの野郎。
ハシドイは腕を目に当て涙を堪える。
やりたいことがまだまだあるのに。
「俺まだ結婚もしてねえのに」
「まず彼女いないだろ」
「うっ」
鋭い釘が急所ど真ん中に打ち込まれ、膝から崩れる。
ううう。と項垂れる。
地面でメソメソとしていると、隊長がピンと人差し指を立てる。
「じゃあ、今度女の子を紹介しよう」
「へ?」
「酒奢る」
「……」
二人からの褒賞。女。酒。
そんなことで死ねるわけがない。
ピクリとも動かなくなったハシドイを見て、もう一押しか?と二人は思った。
しかしこの男には十分すぎた。
「そう来なくっちゃ!俺行ってきます!!」
ピュうっと疾風の如く行った。