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そのご


「覚えてません!」


ヘリオトの『覚えていないのか』という何度目かの問いに叫んだ。

でもまあ嘘とも言える。本当はぼんやりとだが覚えている。

気を失ったあと、夢現とした感覚に陥った。

勝手に動く体、しかしある程度自分の意思を反映していた気もする。傍観するようとも言える不思議な感覚だった。どれだけ疑おうと完全回復している体が事実の証明、疑いようもない。

ここに来てチート覚醒は嬉しい反面、逸物の不安が心につっかえていた。


「アイデテテテテッッ!!!」

「十分生を実感できていいじゃないか」

「もっと優しくっ!」

「馬鹿にはこのくらいしないと理解できないだろう」

「超した超理解した!」


隣からシーマさんの悲鳴とピアさんの治療する声が聞こえる。

振り返ってみてもよく生きてたなあの人。

生身の状態でベリルの咆哮受けるわ、竜には突っ込んでいくわ、全身串刺しにされるわ、竜にのし掛かられてたはずですよね、確か。

そういえばドラゴンを一人で倒した猛者にまだ感謝を言っていない。どこにいるんだろうか。


「ああ、それなら隊長といる」


ヘリオトさんに聞けば簡単に見つかった。

事情があって町に入ることができなかったためとすぐにでも医療を施せるように軍の簡易拠点に今お邪魔してる。

森の外観に完全に同化したテントから出ると声が聞こえる。


「いやあ、ほんとに助かったよありがとう」

「はい──だけどもっと……もっと早くきていればこんなに傷つくことも」

「いやいやいやいや、俺らは正直命を賭す覚悟だったからみんな儲けもんだって喜んでるよ。君のおかげでまた美味い酒が飲める、ってな。だから感謝は言えど恨むやつはこの隊にはいないよ」


もう一度隊長さんがありがとうといえば青年の表情は軽くなった。


「……はい!」


声の元は隊長さんと、もう一人──ドラゴンを一人で倒したという噂のあのひと。

隊長さんと話に花を咲かせているようだから、また後にしよう。


「無理だと思ってた捕獲も達成したことで延命……してほしいなあ」


去り際に聞こえた言葉に、大変だなあと思いました。






シーマさんは今回の報告のことでギルド連盟本部より呼び出しを受けたから今からにでも向かうらしい。傷は大丈夫なのかと問えば、「治った」とにこやかに言ったが「絶対安静だ馬鹿者」横からピアさんの鉄拳が飛んできた。自分もそう思います。

ヘリオトさん達はこれから捕獲したドラゴンを輸送するために本拠へと帰るが、ギルドまでピアさんの見張り付きで送られることになったシーマさんも連れて行った。

かく言う自分は、ドラゴンの鱗をお裾分けしてもらって換金したらヤブランの元へ帰るつもりだった。


「よかったら一緒に行きませんか」


と、ドラゴンを倒した猛者──黒髪の君からお誘いがかかる。


「いいんですか」

「もちろん」

「よ、よろしくお願いします!」


彼もどうやら街に用があるらしい。

腕の立つ人がいるならこちらとて道を歩くのも、森を歩くのも安心できる。

空が色づいた帰り道、たわいもない会話をした。


彼の名前はハナノスケ。

温厚で気弱で謙虚で、しかしとても話しやすい人柄だった。そもそも名前からして懐かしい。彼もまた自分の名前を聞いて故郷を思い出したと言う。この世界にも和風な地域があるのだろうか、あるなら一度行ってみたいと思う。


ああそうだお礼だ。

助けてくれたことに感謝の言葉をいった。

彼は照れくさそうにわらった。

まだ少年のような雰囲気もあり、年も近く、堅苦しいのはお互いにいいとなり、それなりに打ち解けた気がする。なんやかんやと仲良くなって、気づけば街の街灯が見えていた。

ヤブランと合流し、ことの説明をする。


「あ、そう」

「反応薄っ」

「ハナノスケだったか、タナカが世話になった」

「え。あ、うん?全然」


薬が効いたのか、けろっと元通りのヤブラン。

ヤブランは死にかけても相変わらずヤブランだった。好きだぜそういうとこ。安心した。


「それでタナカは住む場所探してるんだったよね」

「おん」


先程の帰り道で自分の経緯を少し話していた。

ハナノスケはふと思いついたように言った。


「二人がよかったらなんだけど──」

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