終わった
GYAOOOOOOO!!
あ、終わった。
その風貌を見た瞬間無理を悟った。ファンタジーにおいて避けることはできないほど超有名モンスター、大抵の想像や妄想における概念と姿形が一致する。
ドラゴンとか無理ゲー。
目を瞑りその死の衝撃を待ってはいたが、思ったものはなかった。
「──無事か」
聞いたことのある声がしたと思えば、目の前に立つのは黒髪の兵士。
「ヘリオト、さん!」
彼を筆頭に周りには隊長率いる隊員たちがいた。
と同時にすぐそばに人影があった。
「──人間、限界ってものがあるだろう」
「ピアさん!」
お久しぶりですぅ!
呆れた様子で、自分の手当を素早く丁寧に行ってくれた。その字の通り手を当ててもらっただけだが、息がしやすくなった。
「でもどうしてここに」
「ちょうど上からあの竜を捕獲しろと命令が降りてな」
「捕獲できるんですか」
「できるできないじゃない。するんだ」
こんなところで聞きたくなかった名言、言ってる本人の目が死んでいるのも怖い。
その時「ちょっ!?」と隊長さんの声が聞こえた。
薄目にだが、あのドラゴンに向かっていく赤髪が見えた。化け物か。
「ベリルを倒しただけでも馬鹿かと思ったが、あれに正面からいくとは阿呆か」
ピアさんもそういうのだ。正真正銘のネジぶっ飛んだ人だと思う。
「あの阿呆を私の前に連れてこい」とピアさんが近くにいた兵士の一人に言い放つ。
「え。あれを!?」というが、有無を言わさない雰囲気に兵士さんは泣きながら走って行った。
二人だけであったのが何倍のも人数になったのだから安心する。
しかし、現実というのは優しくなかった。
シーマは瀕死、隊員たちも必死の形相で竜に立ち向かう。
壊滅状態と言わずしてなんという。誰もあれを止められない。人の力でどうこうできるものじゃない。
──強すぎる。
ドラゴンの尻尾が目前に迫る。
意識が飛んだと思った。
竜が暴れまわり、その尾が来たと認識した瞬間には遅かった。
一瞬か、どのくらいか意識が飛んだ。
ヘリオトは朦朧とする視界の中立ち上がる黒髪を捉える。
「タ……ナカ」
無事か。声に出そうとしてみるがうまく息ができず掠れた息が出る。
タナカはヘリオトを静かに見下ろしている。
その雰囲気は今までのタナカのものではなく、威風堂々と揺れることない確固たる存在に感じる。歴然たる魔力量はここにいるあらゆるものを凌駕していた。
「寝ておれ」
タナカは背をむけ骨を鳴らす。
「あゝ、不快な」
タナカの傷口が塞がり、体内で骨がぶつかり合うような音が聞こえる。
同時にその足は大地を離れ空を上昇する。
暴れ回る竜の全容を捉えるとその動きをとめ、瞬きひとつする間も無く竜が地に伏せた。
突風が砂を巻き上げる。
それと同時に空中にあったタナカの姿は消えており、地に付した竜の巨体に立っていた。
「これまでか」
そうつぶやくや否や瞼が閉じその体は力なく崩れた。
体を引きずりながらもヘリオトはタナカに駆け寄る。
先程の威圧感は消え失せ、竜の傍らですやすやと眠るタナカの姿があった。
──grrr
「っ!?」
気を失っていただけだったのか!
立ち上がり、こちらに首を向ける竜と目があった。
その口から煙が上がり膨大な熱を集約し始める。竜自体も頭に血が登ったか自分もろとも消し飛ばす気だ。
ヘリオトはタナカを抱え、これ以上何ができるか竜を見上げ脳内フル回転動作中。光が増し溢れでる。竜の首がゆっくりと傾く。
ヘリオトは呆然と竜の首が倒れる様を見ていた。
落ちた。
竜は気絶していた。
すたっと地面に降りてきた黒髪の人間。細長い刃渡りの剣を持ち、汚れのない白い面妖な服。人間は体制を整え、ヘリオトたちをその黒い瞳に映す。
あどけなさを残し微笑んだ。
「間に合ってよかった。大丈夫ですか」