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終われ

化け物はその口に纏わりつく鎖が煩わしいのか振り払うために頭を振る。

取れないことに荒立っているように見える。

なんとかして取ろうと前脚使って顔を拭う。その隙にシーマが駆け出し、大地を蹴り上げ化け物よりも高く跳び化け物の脳天に一撃をかます。自分もまた魔法弾を放つ。


ーーーー!!


化け物は向かいくるシーマを尻尾で弾き、そのまま魔法弾を打つ自分の方向へその尾を地面に叩きつける。砂埃を巻き上げて爆風が襲いくる。その足を地に押し付け、飛ばされぬように堪える。

風が吹き去り、砂埃が明けた。


「ッ!?」


目と鼻の先に化け物の赤い眼光が一つ。

それに気付いた瞬間には飛んでいた。

意識と理解を超える速さに、自分の体は動かなかった。


「ぶっ放せ!!」


その声にハッとする。体は上空、自分の正面には地面と化け物。その横からシーマが走ってきている。武器を構え、速く多く飛ぶように無茶苦茶に打つ。化け物の上空から銀の針のような雨が降りかかる。

動きを止めた化け物。

走り込んできていたシーマは化け物の懐に入り込み、一撃。二撃。化け物を貫通した衝撃波がこちらまでで伝わってくる。化け物の前足が浮いた。

かくいう自分は地面に落下直前。


「よっ、と」


シーマが受け止める。それと同時に、化け物の尾が迫る。

自分を肩に担いだまま一気に加速しさっきまでいた地面とはおさらばしていた。そこに尾が叩き込まれ木々が爆風で薙ぎ倒され、地面にめり込む。

木々を隠れ蓑に一時距離を取る。化け物は自分たちを見失ったようで、あたりの木々を薙ぎ倒し薙ぎ倒しと暴れている。


「シーマさん、ちょっと魔力が、厳しい、っす」

「これ飲め、最大魔力量が少し増加される」


オシャンなガラス瓶を渡される。これもあの保管庫からパクってきたものらしい。


「魔力増加ならシーマさんが飲んだほうが」

「俺は既に限界まで上がってるからな、飲んでも意味ねえんだ」


魔力量は生まれながらに一定の比率で決まっている。魔法魔術を使えるか否かは、生まれながらの素質で決まる。大抵の人間は軽い魔法、魔素の凝固体である魔石を用いた魔術なら使えるが、それをメインに戦える人間は普通いない。その例外が、かつてであったロエのような人か。

ぐびっと一気に飲むと、自分の中に何か戻ってきた気がした。


「まだやれるか」

「うっす」


彼の合図でまた命をかけた地獄の運動会が始まる。

いいところまで行った。

化け物相手にかなりやった方だと思う。ただの人間が、だ。


まさかまさかの連続だった。

まさか、第二形態があるとは思うまい。

まさか、魔力調整補助機能がぶっ壊れるとは思うまい。

まさか、化け物に巻きつけた鎖が切れるとは思うまい。

まさか。まさか。まさか──


目の前に強大な死の光。化け物の口から放たれた光線は空へ向かい。空中で枝分かれし、流星の如く降り注ぐ。木々が飛散し無作為に落ちてくる光に逃げ場はなかった。

シーマに至っては化け物からのヘイトが大きく、真正面から化け物の咆哮を喰らっていた。

自分は何がなんだかわからぬまま、衝撃に沈む。


音がしない。ああなんだ、まだ生きてるのか。思考ができている。

目をあければ地面に転がり、空を見上げていた。体にのしかかる重みを自覚すればどうやら木片に埋もれてる。

視界の隅で素早く動く赤色。


「かっかっかッ!そう来なくちゃおもしくねえよなあ?!」


あの咆哮を受けても笑って立ち上がっている。あの化け物に向かって走り出す。

面白い面白くないとかじゃない。

脳内分泌液ドバドバに出ているのかその口元は弧を描いている。さっきの攻撃を受けても尚、立ち上がる勇気はどこからくるのか。あの一歩が自分との違いの一歩だとつくづく思う。


「タナカァ!!」


自分の名を彼が呼んでいる。

生きているだろ。

まだ立てるよな。

ついて来いよ。と聞こえて仕方がない。


木片に埋もれた体は動かそうとすると、ミシミシと痛む。異世界にきても変わらない痛み。不思議な布のおかげで緩和された気もするが痛い。前の世界じゃ一生感じることもなかったであろう痛みだ。


「ぁ……ぁああああ゛!!」


痛い痛い痛い。マジで痛い!

これで生きてるとか人間おかしいんじゃないのか!?

動こうが動かまいが何したって痛いんだ。今やれることをしろ!それから死ね!


転げるように前に這う。

運よく近くに転がっていた弓銃を手に取り、力いっぱい引き絞る。

なけなしの魔力全部くれてやる。


自分は天才でもなくて、勝利に導く思考も持ち合わせてない普通より劣った人間だ。世の中の普通のハードルが高すぎんだよ。これが自分の精一杯なんだよ、笑え。助けたい人も満足に手助けできない、でも応えたい。逃げればよかった。逃げて知らないふりすればよかった。そうすれば自分の世界にはなんの影響もなかった。今ここで打つのをやめてしまおうか。


化け物は周りをちょろつく蝿にイラつきを見せている。

シーマに向かい再びその口を開けたとき──


「クソッタレ──!」


彼が自分を助けてくれた事実、目の前で失われるかもしれない命、体は勝手に動く。

引き絞った魔力の弾丸を顔めがけてぶっ放す。


助けたいと思うしなんかしたいと思ってしまう。知っている人間が死んでしまうのは嫌だ。これは自分の心の平和のため。生きてほしい。死ぬな。


なんの幸運か、その攻撃は化け物の目に命中した。

流石に痛いのか一瞬その動きを止める。


「かっかっかっか!!」


信じてたぜ、タナカ!あとは任せろ。

そこを逃さず、シーマがその体を捻り回転するように化け物の顔から体に剣を切り付けていく。同時に、体内に爆薬を放り投げたのか化け物の口から火煙が上がった。

そのどでかい巨体が揺れ、地面に崩れ落ちた。


「ヒリアの爆胆嚢あったんだ……!」


先程まで轟音が嘘のようにあたりは静かになり、シーマの笑い声だけが響いていた。

やっと終わったのか?

終わろうが終わらなかろうが自分はこれ以上動けない。







──ゼシオンより報告。

戦闘中の冒険者が『魔獣ベリル』を撃破。

魔力消滅が確認された。

──追加報告。

同所、討伐を果たした冒険者よりドラゴンを確認。色はブラッド。

歴戦個体と思われる。



情報過多です。

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