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ベリル

「なんじゃありゃあ!」


とシーマは嬉々として言った。

どうしてそんなに面白そうなのかすごく理解に苦しむ。

木々の背を軽く超えてぬっと突然現れた巨大生物に声も出なかった。


「一応ギルドに報告入れる、アイツ見といてくれ」


みといてくれと言われても。

藍色の毛に覆われ、犬、オオカミ、獅子、なんだ。獣ならではの顔だ。異様なのは目が歪に複数ある。体から棘が生えている。四足で立つ。

その顔を空へ向ける。


オォーーーーーン


遠吠えのようにないた。

音が空気を震わせる。肌がひりつく叫びだ。


「タナカ」


その時報告を終えたのか、シーマが自分を呼ぶ。


「どでかい的なら当たりやすいだろ」

「は!?」

「これ着とけ、ある程度の攻撃威力を緩和してくれる、即死は回避できると思うぜ」


と、何やら先ほど見たことある白い布を被せてくるが、それよりも自分の耳を疑う。どでかいマトならアタリヤスイ?あれに向かって射撃練習続行する気ですか?!


「やっぱり慣れるなら実戦が早えからな!好きにぶっ放せ」


かかかと笑う彼はどこかおかしいと思うのは自分だけですか。

状況はわからないが、なんとなくあの化け物はやばいと平和ボケした神経でも警告している。全身が怖いと震える。確実な死がある気がした。


「とまあ、あれは流石に強いからなあ、ギルドに戻りたきゃ戻ればいい」

「シーマさんは」

「俺はアイツをぶっ倒す!ギルドからは足止めしろって言われてっけど、足止めできる相手じゃねえっつの」

「倒せないじゃないですか!」

「俺は街の奴らが好きなんだ。ここでぶっ倒さなきゃ後ろの奴らが死ぬ」


魔物は人間を食う。人の気配には敏感で、より多くの人間が食える街に向かうのは必然。ここで足止めしなきゃ化け物は一直線で街に向かう。街には多くの人がいる──街にはヤブランが、いる。

化け物は人間を食べる。ここでぶっ倒さなきゃ後ろの奴らが死ぬ。

ここで止めなきゃヤブランが──


「死ぬ」

「ああそうだ、だからぶっ倒す」


化け物は口を大きく開け……開けるとその裂け目は首にまでおよんだ。鋭い歯が陳列しているのが見える。さらにその奥、化け物の口奥が光り始める。


「ニゲロッ!」


同時に、衝撃が全身を打つ。

鼓膜が死にぞこなう。いやそれよりも痛みが今きた。

いつの間に閉じていた目を開ける。

森にいたはずなんだが、横一線焼け野原。化け物は次の攻撃を撃とうとチャージを始める。


「させねえよ」


後ろから声がしたと思えば、化け物の真上に赤髪が煌めく。

光に照らされ反射するのは銀の鎖。

化け物はそれに気付き上空へその口を向ける。あ、まずい。

気づけば体は勝手に動いていた。

魔力調整無茶苦茶に、化け物の顔面向かって弾をぶち込んでいた。

どうして……自分がやる理由なんてないだろ。自分よりも強い人が他にいる、その人たちに任せりゃいい。


威力はないが意表をついたか、化け物の頭は小さく揺れた。その光線はシーマを避ける。

シーマは重力に任せそれを化け物のノズルからぐるぐると巻いていく。化け物の首当たりにまできた時、化け物が大きくはねた。


「うおっ」


シーマはその鎖から手を離し地面に降り立つ。

聖人君子の少年は人類の宝。

見知らぬ誰かのために動けるああいう人間こそ生きるべきだ。

優しい子だった。失われていいはずがない。

笑顔で助けてくれる親切な人だ。人類の大きな損失になる。

何もできなくても守りたい。ただそれだけ。

目の前に頑張る人がいて、共に頑張りたいと思った。ただそれだけだ。

それだけでいいだろ、なあ!!


「ナイスタナカ!」


つくづく理由がなけりゃ納得できない自分がいやだ。

理由付けなんざ後でもできる。体は示した。心は既に知っている。頭、お前は後でいい。納得できなくても今はただついてこい。

シーマはこちらに向かってグッと親指を突き出す。

それに大きく応える。


「応ッ!」


とは言ったものの、正直シーマの足手まとい。

ただの人間が何倍も大きく口から光線ブッパしてくる化け物相手にどう戦う。あ今、殺虫剤持った業者人と虫の攻防を思い出した。

なすすべなく虫は殺されていた。

一匹の蟻の背後に蟻塚がある。業者人は一匹を気にせずずかずかと蟻塚を破壊するんだ。

目の前にいるのが獣でよかった。目の前にある餌に食いつく獣でよかった。

さあ、餌はここだ。






──その頃。

「やばいですわ。あの暴れん坊が目を覚ましたようですわ」

「ふぉ。暴れん坊というとあのガキンチョか、何十年ぶりかのお」

「どうせ、陛下がお隠れになったのを察したのだろうが、人間どもとの間に今いざこざを起こすわけにはいかん」

「ふぉっふぉ。人間嫌いじゃからのお」

「どのあたりだ」

「ガルバリウムの喉頭ですわ。近くに捜索隊もいるようです」

「ちょうどいい、ハコベに捕獲させよう」

「ふぉ。良いのか、感知能力に優れたものを集めたと聞いておるが」

「そこは抜かりない、一応腕は立つ。心配はいらないだろう。我が国が誇る軍医もつけてある」

「休みなく捜索させるためではなかったのですね」

「いや、そんなわけもある。さて、この伝令を飛ばしてくれ」


のちに、連絡が届くや否やハコベは卒倒した。


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