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いい流れが来てたはず

なんと、ヘリオトさんの計らいでヤブランの傷が治るまでの間、宿に泊めていただけることになった。神降臨きたかこれ。

ヘリオトさんは隊に戻るが、ここの宿泊代は全額負担してくれるらしい。神降臨きたなこれ。

全力でヘリオトさんに感謝を言うも、早々に立ち去ってしまう。


ヤブランを寝台に寝かせ、包帯その他もろもろを買ってきたので傷を処置できた。部屋は木製、あの吹き抜け洞窟と比べると温かみが半端ない。あ、なんか泣けてきた。

うおーんと泣いていると「うるせぇ」とヤブランから怒られてしまった。


夜も明け、今日も今日とてギルドに向かう。


「タナカ!調子はどうだ?」


ギルドの門前でお世話になったシーマとかち合った。


「シーマさん!おかげさまでヤブランの調子も良くなりました」

「かっかっか、そりゃよかった!」


シーマはクエストの帰りなのか背後にそびえる彼の背丈をもこえる大きな袋が目につく。

中身がなんであれ一人でこれを運んできたのか。その見た目からは想像もできない力に圧倒される。


「シーマさんはクエストの帰りですか」

「いや、俺の村で暴れていた魔獣を捕獲してきた」

「魔獣、捕獲……」


魔獣といえば、噂に聞いたがそんじゃそこらの獣や魔物と比較にならないほどに凶暴で凶悪なのだと聞いたが、それを捕獲。口が空いていることに今気づくくらいには驚いた。

ほれ。と言って袋の中身を見せてくれるが、グデっと舌を垂らした獣顔が出てきた。


「生きてるんですか、それ」

「生きてるぞ。今は薬で眠らせてあるだけだからな」

「ひえ」


でもどうして捕獲なんだろうか。

彼によると、魔獣の生態は未だ謎に包まれたままだという。生きたままの姿でその生態を研究することは稀であり、長くは持たない。そもそも生きたまま捕まえること自体至難の業とのこと。

「いやあ、手加減するのは骨が折れた」とあっけらかんと笑う彼は多分自分の想像より何億倍もすごいんだと思う。あれ?異世界転移とか転生ものでは本来こういうことする役割は自分ではないのか。俺TUEEチート無双はいつできるんだ!?


「今からクエスト行くがタナカもくるか?」

「いえ、シーマさんの行くクエストは死ぬ気しかしないので遠慮しときます」


遠慮なんざいいというが、いやガチで死ぬんで。

前回のご協力でしっかりとレベル差を理解しましたから。

本日も簡単なクエストを受けようと脳内で想像していたのだが、シーマがふと気づく。


「そういやタナカ、武器は持ってるか?」

「武器?」

「冒険者なら一つや二つ持ってた方がいいぜ。襲ってくる相手は魔物や獣、自然相手だけじゃねえからな」


自然相手じゃないとなると……人間?

確かに、考えもしなかった。

バイト感覚でいたが改めてこの世界観を思い出す。

現実世界の如く電話ひとつで警察が飛んでくるわけでもなく、自分の身は自分で守れとヤブランも言っていた。

酒場でバイトしていた時もよからぬ噂が飛び交っていた、自分にはどこか関係ないと思っていたが前回のように襲われることもある。一応持っておくのもあり。


「ついてきな」

「へっ?」


突飛に驚く。

ゼシオンの扉をくくり、どこかの倉庫へとやってきた。

中には立ち並ぶ大量の武器と思われるものたち。

シーマさんはその一つを手に取っては戻し、取っては戻しと繰り返していた。


「あの、ここは」

「ん。ここはゼシオンが保有する武器庫だ。持ち主を失った武器たちが眠る安置所──お、こういうのはどうだ?」


そう言って渡されたのはクロスボウのような形状をしたもの。


「タナカは見るからに筋力なさそうだし、武器を扱ってる経験も少ない手をしてる。これは魔力を込めれば弓矢のように魔力の球が発射するんだ。その威力大きさは魔力量に比例する。魔力誘導補助機能付きで小型で常備できるから初心者に超おすすめだぜ」


魔力コントロールさえうまくできれば、同時に複数発射や連続で打てるようにもなるという。


「おお!こりゃすげえ、テッピの毛皮マントにウエシロの錠鎖か!こっちにも──」


その珍しさから布切れとチェーンを手に持ったまま次々に目移りを繰り返してはその腕に抱えていく。


というわけでやってきた。射撃練習場ではなく森。

実践の方が慣れるだろうという計らいで監修の元打ってみることになった。

動くものに当てるのは非常に難しく、まずは動かぬ木からと思っていたんですが。


「ぜぇ、ぜぇ……なんで」

「かっかっか、木が動かないとは限らねえよ」


さっきからどんなに打ってもクネックネと木の幹が曲がりまくるのだ。

何十発と打ってはみたが、ひとっ擦りもしない。

なんだか力が抜けてきたような感覚を覚える。地面に座り込み呼吸を整える。


「小玉六八発でこれとなるとそこらの子供にも負けてるな」


かかかと彼は笑う。それ笑い事ではないのでは。

才能もなければ、化け物級の魔力量があるわけでもない。じゃあ自分は一体なんのためにここにいるのだろうか。ああ帰りてえ。


その時、轟音と共に疾風が木々の間を突き抜け地面が揺れる。




ギルドゼシオンへ警告

当国近辺で高濃度の魔素が確認。強力モンスターの出現が予想される。

警戒されたし。


ゼシオンより緊急報告。

国境森でアルファ個体の出現を近隣にいた有力冒険者より確認された。

画像データを入手した。転送する。


画像確認。

データ照合、一件合致。

『魔獣ベリル』危険度超過。

応援を急行。

足止めを求む。


ゼシオン了解。

近隣にいた有力冒険者が『魔獣ベリル』と戦闘を開始。

単体で交戦中。









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