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92 事件Ⅱ 4

「きゃーっ!先生っ!いやっ。やめてっ!」


 あっさりと先生を見捨てる選択をした私とは対照的なのがヴィヴィアナ様だった。


 そりゃそうだ。荒事に慣れていない貴族令嬢が、味方優位の状況でこそ非現実感を観劇でもするかのように楽しめたとして、不利な状態を目の当たりにしたら、そりゃ怯えて青ざめるだろう。


 先生はというと、こちらも蒼白だ。おかしいなー、ドSというのは暴力沙汰もどんとこいかと思ったらそうでもないのかな?ソチラ方面に造詣は深く無いので、分からない。


 仕方ない、ヴィヴィアナ様に嫌われたくはないし、先生も助けるとするか。


「……ぷっ」


 いや、ごめん。そんな場合じゃないとは分かっているけど、ドエス先生が学園の女子制服を着ている男子に拘束されている姿を見たら、つい、吹きだしてしまった。だって、絵面おかしいって。

 笑った私にムカついたのか、先生と女装男子が揃って私を睨む。いや、睨まれてもなぁ。ってか、先生、私を睨む余裕があるなら自力で拘束解いてほしい。


「先生、自力で抜けることは?」

「私は頭脳派であり肉体派ではない」


 そうかい。すまんね、肉体派で。


「じゃ、これを機会に鍛えましょ?えー、先ず、拘束を抜けるには、相手の左手を左手で握り、そのまま身体を右にずらしたら自分の手のひらを上に向けて肘でみぞおちに一発。さ、やってみてください」


「無茶を言うな」


「うー。じゃ、相手の手を固定して人差し指を逆側にひねる。前かがみになって相手の足の甲を踏む。これならどうです?」


「そもそも、この会話を聞いている相手にそれが通じるのか?」


 そもそも論が来た。


「じゃ、多少の怪我は我慢してください。私がそいつをぶっ倒し……って、ありゃりゃ」


 悠長に拘束から抜ける方法を伝授していた私が悪い。そういえば、無傷の人間がもう一人いたよ。こいつを倒してから先生を救出する予定だったんだ。絵面のおかしさについ気が緩んでしまった。


 最後の男は、そっと私たちから離れ無関係の子どもを抱えて戻ってきた。まだ二つ三つくらいの幼い男の子は、何が起こっているのか分からずに目を潤ませている。泣き叫ばないだけ強い子だ。ごめん、こんな事に巻き込んで。


「動くな。お貴族様のお優しいお嬢さんは、無辜の民が自分のせいでお陀仏になるところなんざ見たかねえだろう?」


 こちらは荒事に慣れている。私が突っ込む姿勢を見せただけで躊躇せずに短刀を振るうだろう。


「おい、その男を落として、お嬢さんを後ろ手に縛れ」

「はっ、はい」


 女装男子は、ナイフを懐に収めるとドエス先生の襟をクロスさせて絞め落とした。あれは送襟絞だ。ナイフは不慣れでも格闘術は得意なのかもしれない。


「お嬢さん、抵抗はするなよ?とりあえずアンタの命を奪うつもりはねぇんだ。大人しくしていた方が身のためだぜ?」


 アンタ――ってのは、私か。

 狙いはヴィヴィアナ様ではなく、誰でも良かったわけでもなく、私か。ドエス先生ならともかく無関係の子どもが人質に取られていては、抵抗も出来ない。とりあえずここで私を殺す気は無いようだから、大人しくして機会を伺おう。


 ヴィヴィアナ様も私に続いて拘束されてしまったのは、大変申し訳ない。絶対に助けるから。


 私たちは路地の奥へと連れて行かれ、そのまま用意されていた馬車に乗せられた。絞め落とされた先生も放置せずに引き摺って、私たち三人が馬車に押し込められたのち、子どもが解放されたのを女装男子の言で知る。


 あの位の子どもに証言能力はないし、大人に見たままを話しても信じても貰えないだろうから、連れて行っても邪魔になると判断したのだろう。

 良かった。

 ちゃんと保護者の元に戻れますように。そして、この事は忘れてくれますように。傷になりませんように。


 しかし、コイツ等クズだなぁ。なんで何のかかわりも無い子供を人質にするんだろう。関わりがあったらいいと言う訳ではないけど、そのやり口が卑怯すぎる。


 馬車に揺られる事30分。何処に到着したのか分からないが、男たちは私たちを建物の中に押しやった。ドエス先生は未だ意識が回復していないので、またも引きずられてである。


「依頼主に聞いた通りだな。アンタは貴族だが、庶民であろうが目の前で誰かが脅かされれば助けようとする。俺らには楽な案件だって。くっくっくっ。聞いたときは滑稽至極だと思ったが、実際にその通りなんで、笑いが止まらねぇ」


 目の前で子ども使って脅されたら、その子が貴族でも庶民でも知っていようがいまいが助けようとするだろうよ、そりゃ。

 それにしても「依頼主」「聞いた通り」と来たもんだ。


 狙いが私だという事は分かっていたが、そんな言葉が出てくるあたり私に恨みがある人間の犯行なんだろうか。


 私は、誰になぜ恨まれているんだろう。


 全ての人に好かれているなんて思っちゃいないし、私の言動で迷惑を被った人もいるかもしれない。けど、人を雇って誘拐まで企てる程の遺恨を持たれる覚えはない。――と思っているけど、そうじゃなかったって事だろうか。


「ヴィヴィアナ様、相手は私に恨みがあるようです。巻き込んでしまって申し訳ありません」


「い、いえ、シシィ様のせいだなんて思っておりませんわ。きっと逆恨みです。でも、私たち、これからどうなるんでしょう……」


「大丈夫です、ヴィヴィアナ様。絶対にスピネルが助けに来てくれますから」


「え……ええ、きっと助けが……でも、私たちの居場所が……」


「大丈夫ですわ。私の婚約者であるスピネルは、例えどこであろうと私を見つけてくれますから」


 百歩譲って私に問題があったとするのなら、狙われるのも仕方ない。けど、私一人の時に狙えばいい。ヴィヴィアナ様を巻き込んだんだ。そのツケはきっちり払ってもらおうじゃないか。




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