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91 事件Ⅱ 3

「ですが、アレクサンドエス先生……。私たちと同じ制服を着た女子が」

「ええ、話は聞いていました。学園の生徒でしたら、あなた方ではなく私でいいでしょう、ソルミ嬢、ファルナーゼ嬢」


 おお、担任どころか教科も受け持っていない私たちの名前を知っているのか。それはビックリだ。


 娘っこを保護したと言う男たちは、先生を見て嫌そうな顔をしている。やはり怪しい。

 君子危うきに近寄らずと言うが私は君子ではないので、進んで遭遇したい。この男たちの狙いが私なら、そのうちまた来るだろうからスルーでいい。

 けど、狙いがヴィヴィアナ様だったり不特定の学園女子だったりしたら、ここで見過ごせば犠牲者が出るかもしれない。


 僅かな確率だけれど、本当に女の子を保護しているという事もあり得るし。


「わが学園の生徒を保護してくださってありがとうございます。案内をお願いします」


 先生だって怪しんでいるだろうに、しれっとお礼を言って男たちを促すあたり場数を踏んでる?

 ぱっと見厳つい男たちだが、その立ち姿を見ただけで戦闘能力がたいしたことないと言うのはすぐに分かった。不意を突かれるのならともかく、この程度の相手なら三人いたってヴィヴィアナ様という保護対象がいたとしても問題ない。


 問題は奥にもっと人数がいた場合だが、路地とは言え貴族街に風体の怪しい男たちがそう大勢いるとも思えない。


 男たちは顔を見合わせて逡巡する素振りをしたが、先生がいても問題ないと判断したようで顎をしゃくって路地へと足を向けた。


 路地の奥に、本当に学園の女子の制服を着た人が蹲っていた。けど……


「……男性じゃないですか」


 なるべく華奢で小柄な人間を選んだのだろうが、蹲って顔を見せないようにしていても、骨格がどう見ても男だ。

 え?その制服、何処で手に入れたの?

 こっちの世界にもブルセラとかあんの?こわっ。


 幸いにも、蹲っている女装制服男子の周りに人はいない。周囲を探っても気配も無い。


「え?男の方ですの?」


 ヴィヴィアナ様には分からないようだ。女装制服男子と私とに繰り返し視線を向けている。いや、本当に男だよ。骨格が違うし、華奢だと言っても制服から出ている手足がゴツイ。


 先生も同意のようで、ヴィヴィアナ様を見て頷いた。

 男たちは見破られると思っていなかったのか、慌てた様子で散開して腰から短刀を出し構える。


 囮役を用意するにしても女性はいなかったのか、荒事になるからと男性を選んだのかは不明だが、一目で破たんするような計画は情けない。あの女装男子は、学園の女子制服のままここまで歩いてやってきたのかな……と考えるとちょっと不憫だ。下っ端の若い子なんだろうその女装男子は「だから無理があるって言ったのに……」と涙声で男たちに訴えている。気の毒だとは思うけど、そういう組織にいるのは自分の選択なのだろうから、自業自得だと思う。


 しかし、これで襲われそうになった女子生徒がいなかったことが判明したので、あとは騙りのコイツ等を捕縛して警らに突き出して仕舞だ。


 狙いが私なのかヴィヴィアナ様なのか、それとも無差別なのか。その辺りは本職の尋問で判明するだろう。


「ヴィヴィアナ様、私の暴れん坊っぷりは初めてお目にかけますが、引かないで下さいませ?」


 付き合いも三年を超え、すっかり仲良くなったヴィヴィアナ様達には、私が剣や格闘術、魔術の鍛錬をしている事を話してある。ノリノリのセバスチアーナ様との剣術談義にはドン引かれた覚えがあるが、それでも仲良しは変わらない。


 目の当たりにしたら怖がられるかなー。でも、これが私なので受け入れてほしいものです、是非。


「大丈夫ですわ、シシィ様。ふふふっ。セバスチアーナ様に自慢してしまいましょう」


 よーし、言質取ったぞ。大丈夫って言ったからには、今後ともお友達で宜しく。


「……何の話です?」


 ああ、そう言えば先生もいた。ま、今後関わらない、関わるつもりもない相手なので、ドン引きしてもいいよ。


 私の左手に先生、私からかなり下がってヴィヴィアナ様。

 私よりも男性である先生を警戒して、そちらを挟むように男性が二人、私の正面に一人。やはり、見た目が見た目なので私は余り警戒されていないようだ。怯えた振りでもする?いやいや、演技力は鍛えてないからやめておこう。


 距離は2メートル。私は構えもせずに自然体で相手に向かう。ギョッとした男だが、好都合だと思ったのだろう、無警戒に手を伸ばしてきた。その手を躱し、それほど身長が高くない相手だったので脇を締めて正拳上げ突きで顎にクリーンヒット。

 警戒無しのでくの坊だったので綺麗に入った。ヴィヴィアナ様が「シシィ様、格好いいですわっ!」と声をかけてくれたので、ドン引き案件ではないことに安心する。


「てってめえっ」


 先生を挟んでいた男の一人が短刀をこちらに突きつけながら突進してくる。内回し蹴りをナイフを持った手に当ててナイフを落とさせた後に、刻み突きからの逆突きを決めた。さて、あと一人。


 そう思って振り返ったら……先生、なにやってんの。荒事万歳な男たちに怯まなかったから自衛くらいはできると思ったら、いつのまにか立ち直っていた女装男子に後ろを取られてナイフを首に当てられてるって、ダメダメじゃん。


「てっ……抵抗すると、この男がどうなるか……分かってんだろうなっ」


 えー、私は別に先生の保護者じゃないしー。手を出したら罪が重くなるだけだと思うしー。女装男子くんの手が震えているところから、彼はあまり荒事に慣れていないと推察し、このまま続行――先生、少々怪我くらいはするかもしれないけど、頑張れ。


 ドSって痛み耐性あるのかな?




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