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62 フラグの無い生活

 王子様とお話しした後は、もう、気分スッキリで毎日朝が来るのが嬉しくて仕方ない。晴れても降っても希望の朝なのだ。


 お父様とお母様にも、詳しい話は第一王子殿下の私的な部分があるから言えないが――と前置きして「死亡フラグは無くなったっぽい」と話してある。二人ともとても喜んでくれたけど、じゃ、婚約者を決めちゃおう!という押せ押せオーラを出してきたので、それはやはり17歳まで待ってとお願いした。


 王子様も私と話をしたことで前回の踏襲は無いと判断したようだけど、やっぱり婚約者は18になってからという決意は変わって無いようだし、まだ、慌てる時間じゃない。



「スピネル、おはよう」

「おはようございます、お嬢様」


 朝の挨拶をするスピネルの視線は私に向かっているようでいて、微妙に逸れている。傍から見れば私を見ているように見えるだろうけど、受ける側からしたらずれているのは良く分かる。


「スピネルはどうしたのかなー?何か、私に怒ってる?」

「お嬢様に対して怒るなんて滅相も無いです」


 じゃ、なんで私の目を見ないのかな?ん?


「お嬢様、学園に到着いたしました」


 馬車の中でも心ここにあらずと言った風情のスピネルは、必要最低限しか口を開かなかった。私に怒っているのではないとすると、何か悩み事かなぁ。


 王子様の前回と私の前世の話をしてから10日。学園ではまだ私の悪女説(?)が蔓延っているようだけれど、近々コウドレイ侯爵の罪が発表されるらしいので気にしていない。

 元々、噂自体よりもそこから引き起こされると予想していた死亡フラグが怖かっただけだし、友人たちもクラスメートも私を信じてくれているので、動じる必要も無い。


 冷静になれば12歳の子どもが犯せるような罪じゃない事は分かると思うんだけど……噂ってコワイねっ。


 そんなことよりも目下の問題はスピネルの挙動不審だ。


 最初は王子様に前世の事を話したせいで拗ねているだけだと思ったので、スピネルが大事だよー、一番のお友達だよー、大好きだよーとアピールしていた。実際に王子とのお茶会が不満だったこともあったようで、多少機嫌は治ったんだけど、それだけじゃなかったようで。


 この十日ほど、微妙に私を避けているのだ。お姉さんは寂しい。



 そして、もう一つの変化。


「おはよう、ファルナーゼ嬢」

「おはようございます、第一王子殿下」


 私の方を見てひそひそと囀っている人たちを横目に、王子様が私に挨拶をしてくるようになったのだ。王子様が私に声をかけると、陰口を叩いていた人たちが顔から血の気を引かせてピタッと口をつぐむ様は見ていて面白いと言えない事も無い。


 王子様は私の噂を払拭するためにか、この十日ほどはあちこちで声をかけてくれる。

 お茶会の時に言われたように、私には友人も味方もいるし、コウドレイ候の発表があったらみんな掌返しするだろうから気にしなくていいのに。

 王子様は前回のトラウマのせいか、私が謂れの無い噂を立てられるのを良しとしないようだ。


 これはこれで別の噂が立つと思うんだけどね。ほら、婚約者だとか婚約者候補だとかさ。

 王子様にも私にもその気は無いし、ホント、ただ挨拶しているだけだから噂が立っても関係ないけどさー。


「おはようございます、レナータ様」

「おはようございます、シシィ様、スピネル様」


 王子様と挨拶を交わした後に教室に辿り着くと、いつも通り可愛いレナータ様がいて挨拶を交わす。レナータ様、いつも私より朝が早いんだ。


 マリア様の机を見ると、鞄はかけてあるので既に登校済みのようだ。相変わらず授業中以外は教室にいない人だ。


 私の視線に気づいたレナータ様が、苦笑して頷いた。このやりとりも朝の定番になっている。


 午前の授業を受け、セバスチアーナ様、テレーザ様、ヴィヴィアナ様、レナータ様と一緒に昼食を取り、また午後の授業。


 死亡フラグが粉砕された今、冒険者になるのは夢となったなーと思いつつも将来の為にお勉強を頑張る。


 このまま平和に学園生活を満喫し、学生でいる間に出来れば魔法剣をモノにしたい。

 卒業しちゃったら、そういう趣味に時間を取るのも難しいだろうし。


「お嬢、まだ魔法剣を諦めてなかったのか」

「何で諦めていると思った」


 先生に呼ばれたスピネルを廊下で待っている最中、周囲に人気がないので、学園内だけどプライベートモードでミーシャとお喋りだ。


「だって、全然上手くいってないんだろ?とっくに諦めてるかと思った。っつうか、魔法剣なんてお伽噺だぞ」


 そうなのだ。この世界は剣と魔法の世界のくせに、魔法剣は存在しないのだ。何故なら、魔法使いは剣に魔法を纏わせるより直接相手にぶつけた方が早いし、剣士は良い剣で相手をぶった切ったほうが早いから。


 ロマンを求める者はいないらしい。


「いや、イケる」

「根拠は?」

「ない」

「ないのかよっ!?」


 いいのっ。私がパイオニアになってみせるのだっ。


「あっ……」

「どうしたの、ミーシャ」


 急に声を上げ挙動不審になったミーシャに声をかけると、彼はスマンとでもいうように片手拝みをして「俺、行くわ。危険物がこっちに来る」と耳打ちしたと思ったら、脱兎のごとく駆け出し去っていってしまった。


 危険物とな……。

 いや、ミーシャがそういう反応を示す相手は分かってますけども。物じゃないんだから、危険人物と言おうよ。そういう問題じゃないか。



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