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47 事件 3

 過保護スピネルは「お嬢様をここから出しません」という意思を目に浮かべ、尚且つ扉のすぐ横に陣取っている。さっきまで普通に対面に座っていたのに。


 信用の無さが浮き彫りになってちょっと悲しい。


 そう言えば今更なんだけど、この三ヵ月の間、私とスピネルは二人っきりで馬車に乗ってるんだけど、年頃(?)の男女が密室空間に二人でいていいのだろうか?


 今まで気にもしてなかった私も問題あるけど、スピネルにも両親にも問題ありなんじゃなかろうか?


 それをスピネルに言ったら「今更ですか」と鼻で笑われた。

 確かに今更だというのは同意だ。なので話題を変えることにする。


「夏季休暇明けにはマリア様も噂も落ち着いてくれるといいね」


「そうですね。理由は分かりませんが、彼女が本気で言っているのか何か企みがあっての虚言か、或いは空想癖があって現実にあったと思い込んでいるのか、被害妄想癖持ちで何でもないようなことを大袈裟に言っているのかが気になるところです」


「それと、ミーシャとの事も」


「アレは見なかった事にしたのでは?」


 確かに人気のない場所でミーシャにマリア様が迫っていたことは見なかった事にした。しかしそれは、当人たちや第三者に言わないという事であって、私とスピネルの間で話すのは問題ないと思う。


「んー。そうなんだけどさー。マリア様が日替わりメニューで男子と居るのさえやめてくれれば、ミーシャとお付き合いなり何なりして落ち着いてくれるのもアリっちゃーアリかなーと」

「あー……ですが、子熊は女子の事をあんまり個別認識していないですよね?」


 そうなのだ。ミーシャは12歳にもなってまだお子様なのか、女子に対するアンテナがまるで立っていない。好きなものは剣術。一緒に遊びまわれる男子とは仲が良く友達も多い。けれど、気を使わなくてはならず、剣術の話も出来ず、一緒に動き回る事も出来ない女子は一人一人を識別するのではなく「女子」という大きな括りでしか捉えていない。


 もちろん個人個人の名前くらいは把握しているが、女子Aが「ピンクのバラが好き」と言い女子Bが「苺のクリームが好き」女子Cが「運動は苦手」と言ったとして、彼の中ではピンクのバラが好きな女子がいる、苺クリームが好きな女子がいる、運動音痴の女子がいる、とインプットされるだけで、それぞれが誰の事だかは脳に刻まれないのだ。


「その中でお嬢様は、”とりあえず女子”っていう大きな括りじゃなくて”シシィ・ファルナーゼ”として子熊の中に確立されています」

「私はミーシャにとって女子じゃないからって言いたい?」

「いえ、そうではなく。いや、それもあるのかもしれませんが私が言いたいのは……」


 あるのか!確かに、屋敷に来るたびに剣を交えている私は、ミーシャにとって女子枠ではないかもしれないけども、スピネルの発言は私に失礼じゃないだろうか。


「私が言いたいのは、もしクスバート嬢が子熊に思いを寄せていたら、お嬢様の事は邪魔に思うのではないかと」

「え?それが苛められてる発言の元?まさかー」


 だって、私だけじゃないよ?レナータ様たちだって一緒くたに加害者扱いされてる。あ、ヴィヴィアナ様の悲しそうな顔を思い出してしまった。キュン。


「稚拙ではありますけどね。騎士も貴族もレディーに対して紳士であれという風潮がありますから、弱い自分を見せれば味方にすることは然程難しくないと思います」


 そうかなー。そういうものかなー。幾ら女性を守ろうとする紳士でも真偽確認くらいはするでしょう。


「男は単純ですからね。頼られれば力になりたいと思うものです」


「……ス……スピネル、も?」


 ええっ!?スピネルもか弱い女性に頼られたらコロッといっちゃうわけですか!?それはヤダ。友達増やせと言っておいて申し訳ないが、そんなあざとい女子には引っかからないでほしい。世の中にはちゃーんと真っ当な女子がいるから!


「私は紳士じゃありませんから。私が尽くしたいのはお嬢様だけですよ」


 スピネルが満面の笑みで言ってくれてホッとした。


「お嬢様は、私が他所の女性に優しくしたら嫌ですか?」

「え、嫌って言うか……ん?あれ?嫌、なのかな?」


 スピネルの独占欲を笑えない。私も初めての友達に固執しているのかもしれない。いっちゃんもそうちゃんもいるのに。レナータ様達もいるのに。


「お嬢様、その意味を私が都合の良いように汲み取ってはいけませんか?」

「都合の良いようにってどういう……あっ」


「どうなさいました?」


 会話の途中で突然窓に張り付いた私に、スピネルが当惑したように尋ねてきたがそれどころではない。


「スピネル、扉を開けて!」

「え?嫌です」

「嫌ですじゃ無ーいっ!今、そこで!私の目の前で女の子が路地に無理やり連れ込まれた!行くよ、スピネル!」

「私が行ってきますからお嬢様は馬車の中で待って……いてはくれませんよね」


 分かってるじゃないか、スピネル。

 私を一人で残したって止める者がいない馬車の中で大人しくしている訳ないぞー。


 渋々……本当に渋々とスピネルが馬車のドアを開けてくれたので、彼の肩をポンと叩いてから路地に向かってダッシュする。

 大丈夫、ちゃんとスピネルが私の後をついてきてくれるから。


 それにしても、やっぱりこの辺りは危険な場所なんだろうか……。

 



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