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44 公爵令嬢は見た!

 入学して三ヵ月。夏季長期休暇も近くなってきた。

 一学年Aクラスの女子六人でランチをしていたのも最初の頃だけで、今は五人だ。


 抜けたのはマリア様。


 ああ、お母様にクスバート家とファルナーゼ家の関係を聞いたけど、特に付き合いがある訳でもなければ敵対している訳でもないらしい。じゃ、マリア様のあの態度は何だったんだろう?


 最初は「他の子に誘われたから今日はご一緒出来なくて」と申し訳なさそうに言っていた彼女だけど、週に一度から二度三度と増えて今では別々に食べることが当たり前のように声かけもなくなった。


 それは別にいい。


 同じクラスだからって一緒にご飯を食べなきゃならない訳じゃ無し、別のクラスの子で気の合う子がいるならその子と一緒に昼食を取りたいだろう。


 だが、そのお相手が男の子ばっかりというのがなぁ、うん……。

 貴族令嬢として教育されてきている筈の彼女が、婚約者でもない男の子と二人きりでご飯を食べるのはよろしくない。しかも相手は日替わりだそうだ。

 お相手にも婚約者がいる訳でなし、誰に迷惑が掛かっている訳でもないんだけどねぇ。


 マリア様曰く


「皆様のお話を聞いて思いましたの。殿下が18歳になるまで婚約の動きが活発化することもないなら、今のうちに沢山の方と交流を持って将来に備えておくことに利点があるでしょう?」


 だそうだ。


 そうなのかな?そう言い切られるとそんな気がしないでもないけど、やっぱりそれはちょっと違うよなーとも思う。


 案の定「はしたない」「慎みがない」「尻軽」などと噂されている。淑女として失格だと判断されれば、却って将来の不利益になるだろうに。

 割と刹那的な方なのかもしれない。


 彼女の日替わりメニューには含まれていないものの、アプローチを掛けられて困惑しているのがミーシャことレオナルドだ。

 ミーシャは女の子より剣の方が大事で、年齢的にも家での立場的にも若いうちから結婚を見据える気はさらさらないという。なのに、ちょっかいを出されていて鬱陶しそうにあしらっている。


「レオナルド様、先ほどの剣術の授業ではとても格好良かったです。先生とも対等に渡り合うなんて、レオナルド様はとってもお強いのですね。将来は騎士を目指していらっしゃるんでしょう?」


「え?授業を見てたって……クスバート嬢も授業があっただろうに何してんの?」


 あからさまに不審がるミーシャにマリア様は慌てて弁解する。


「え、あの。ちょっと気分が悪くて養護室に向かう途中でしたの。通りすがりにレオナルド様の雄姿を垣間見まして――」


 確かに、具合が悪いと言って授業を抜けたことがあった。けど、担任の先生が養護の先生に様子を確認したところ、マリア様が養護室に現れていない事が判明。

 ミーシャを見るためにサボったと考えるのは穿ちすぎでもないだろう。


 当のミーシャは褒められて嬉しがるでもなく引き気味だった。

 マリア様、美少女だけどね。ちょっとこの国とは別物の常識で生きているのか、ずれた行動をとることがままある。そういうところがミーシャを不快にさせているんだけど、マリア様はそれを分かっていない。他国育ちだからなぁ。


「あの、どうぞ私のことはマリアと呼んで下さい、レオナルド様」


「いや、遠慮しておく。俺の事はシュタインと呼んでくれ」


 真っ向からお断りだよ。ミーシャ、もうちょい言いようがあるだろう。

 あー、でも仕方ないか。初対面に私に放った暴言よりはずっと柔らかく言ってるし、ミーシャだし。


 言うだけ言って踵を返したミーシャの背に向かって。マリア様が舌打ちしているのを私は見た。

 おいおい、美少女令嬢が舌打ちはないぜー。いや、暴れん坊お嬢様の私に言われたくはないだろうけど。本人には言わないけど。


 なにかブツブツ呟いたあと、マリア嬢は校舎に戻っていった。


「なんというか……独特な感性のご令嬢ですね。子熊を狙っているんでしょうか」


 スピネルが言う。


 ちなみに今いる場所は校舎からはちょっと距離のある図書館へと向かう小路だ。校舎内にも図書室はあるんだけど新しい本が多い。私たちが今向かっている図書館は書庫も兼ねていて、図書室には収まりきらない本がたくさんあるのだ。


 ちょっと調べたい魔法があって向かっていたのだけれど、まさか、マリア嬢がミーシャと二人でいるとは思わなかった。


 ミーシャが図書館に用があるとも思えないので、マリア嬢に呼び出されたのかも?褒めていい雰囲気を作って告白とか?


「うーん……」


 マリア様がミーシャを好きならそれでもいい。


 けど、日替わりメニューの男子をキープしている状態だったら、お付き合いは賛成できない。元々ミーシャにその気はなさそうだったから関係ないけど、やっぱり8歳のころから知っている幼馴染みたいな子だから、誠実な子とお付き合いして幸せになって欲しいと思う。


 私はミーシャのお母さんじゃないんだし、大きなお世話か。


「見なかったことにしよう」

「そうですね」

「行こうか」

「行きましょう」


 マリア様にもミーシャにも余計な事は言わないでおこうとスピネルと頷き合って、私たちは図書館へと向かった。




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