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43 婚約事情 2

 マリア様が私にチラリと視線を投げてきた。

 これはあれか、私もこの話題に加われという事か。そうだね、聞いてばっかりじゃダメだね。


「私は兄弟がおらず家を継ぐ身ですので、やはり殿下の婚約者にはなれません(なりたくないし)が、テレーザ様の仰る通り、我が家も様子見の段階ですわ。でも、それも有難い事だと思っておりますのよ?両親が家に相応しい方を選んでくださるとは思いますけれど、これから成長して見る目を養えれば、互いを尊重しあえる方か自分の目でも見定められますもの」


 10歳やそこらじゃね、相手を査定する目は勿論ない。自分の好みも相性が合うかどうかも分かっちゃいないだろう。ある程度の年齢と経験を重ねれば、親が選んだ相手に対しても「この人のここは自分と合わない」とか「この部分で夫婦生活が危ぶまれる」とか物申せると思うんだ。


 まあ、貴族の結婚なんて最終的には親が決めるもんだけどさ。何もわかっていない子どもよりも、成長した淑女の方が話は聞いてもらえるだろう。聞いてもらえても叶うとは限らないけど。


「ですが、シシィ様。跡継ぎでしたら分家から養子に迎えることもあるでしょう?」


 食い下がるマリア様。

 確かにね、子どもがいなかった場合や女子しかいなかった場合に、養子を迎えて継嗣にすることも貴族あるあるだ。


 けど、私は死亡フラグを回避し、そののちに婿取りしてファルナーゼの家に居たいと思ってる。

 お父様もお母様もそうであれば嬉しいと言ってくれているし、養子を取ってまで他家に嫁ぐ意味を見いだせない。


 オブラートに包みつつそう言ったら、なんだか不服そうな顔をされた。

 何故だ。マリア様――というかクスバート伯家とうちは特筆するほどの関係はないのに、レナータ様達の時には何も言わなかったのに、なぜ私にだけツッコミを入れる。


「シシィ様でしたら、王子妃に相応しいと思ったので」


 私が不審に思ったことを察したか、言い訳がましくマリア様が言う。


「まぁ、買い被りですわ。私はそれ程の器ではございません」


 一応、候補に入るであろうレナータ様やヴィヴィアナ様の前で、ファルナーゼ家の私を推す意味が分からない。


 それに、出会ってまだ一月のマリア様が私を持ち上げてくる意図がつかめない。


 意図不明の発言にちょっとムッとするけど、それなりの教育を受けてきたから表情には出さない。――出していないつもりだったけど、漏れてた?レナータ様がフォローするように話題を変えてくれる。


「大変なのは第二王子殿下ですわよね」


「ええ、第二王子殿下は私たちの一つ年下ですけれど、第一王子殿下が婚約者を定めない限り自分が先に婚約者を選ぶわけにはいきませんし」


 ヴィヴィアナ様もレナータ様の発言に乗ってくれた。

 うう、気を使わせて申し訳ないと思う。ポーカーフェイスは令嬢に必須の武器であり鎧なのだから、もっと精進しよう。


 ◇◇◇


「その女を消しますか、お嬢様」


「物騒!なんでスピネルはそう短絡的かなぁ。確かにちょっとムッとしたけど、それより何でそんなことを言いだしたのかが分からなくてさー」


 帰りの馬車の中でマリア様の発言を伝えたら、スピネルの目が座った。

 スピネルは私のことを好きすぎる。好かれるのはとっても嬉しいけど、私はいわゆる箱入りお嬢様ではないから問題ない。

 今まで子供の社交をこなしておらず、深窓の令嬢扱いを世間にされていたとしてもだ。


 いっちゃんやそうちゃんに跨り森を駆け、ミーシャ相手に負け知らずの剣を振るい、膨大な魔力でもって繊細さの欠片もない魔法を打つ事も出来る。


 言われる通り暴れん坊令嬢なのだ。


「お嬢様が強いとかそういう問題ではございません。お嬢様に敵意や悪意を持つものは排除して然るべきかと」


「スピネルは過保護。それに、敵意とか悪意とかじゃないと思うよ」


 一応、王子妃に相応しいって持ち上げてくれたんだろうし。


「お嬢様が望まない未来を押し付けることは罪です」


「いや、押し付けるとかそういう感じでもなくてさぁ」


 なんだろう。私がファルナーゼ家にいることが彼女、或いはクスバート家にとって都合が悪い?とかそんな印象を受けた。帰ったら、お母様にクスバート家との関係を聞いてみよう。


「学園でも暴れん坊お嬢様になれば、そんな妄言を撒き散らす輩は排除できます。おまけに殿下の婚約者候補から外されるでしょうから一石二鳥」


「その代わりに婿の来手もなくなる」


「私がいます。婿入りしても嫁入りしてもらっても問題ありません。お嬢様を一生養う覚悟はございますし、手段の確保も問題ありません。――詳細は言えませんが」


 おおぉぉぉ。スピネル君や。君の気持ちは有難いけど、そこまで友情に殉じなくてもいいんだよ。


「嫁入りかぁ……。実際、私が王子様の婚約者になるならないに関わらず、お父様とお母様はファルナーゼを任せられる人間の選定はしているだろうしね」


「は?」


「だってさ、私は死亡フラグ持ちでなかったとしても、ファルナーゼの一粒種だよ?私が万が一……万が一の話だから落ち着いて聞いてね?」


 無の表情になったスピネルが眉を寄せて頷く。例え話でも万が一の話は聞きたくない、考えたくないオーラが出ている。


「お父様もお母様も私のことを愛してくれていることに間違いはない。疑ったこともない。けど、ファルナーゼ公爵と公爵夫人だもん。私に事があった時に家の存続が危ぶまれるような事態は決して起こさない。二の手・三の手は絶対に打ってる。家族だけの問題じゃない。使用人や領民を守らなくちゃならないし、宰相という立場を考えれば私より国を取る」


 そうじゃなきゃ困る。権力を持ち権利が大きいということは、義務はそれよりさらに大きいのだ。私が命運尽きずとも、ファルナーゼを継ぐに値しないと判断したら後継から外すだろう。


 両親は義務と権利をはき違えたりしない。私への愛情で立場を危うくすることはしない。

 そう断言できるくらい、私は二人を信頼している。


「……そう、ですか。ならば」


「ならば?」


「もしもの時は私がお嬢様を攫ってもファルナーゼ家の存続に問題はないという事ですね」


「なんでそうなる!?」


 いや、私も冤罪掛けられたら逃げる気満々だけどさ。出来ればお父様とお母様の傍に居たいよ。


「万が一、ですよ」


 良かった。やはり大恩がありますから、没落されたりしたら困りますし――


 そう言うスピネルの笑顔が全く曇りの無いものだったので、却って心配になってしまった。




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