表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/129

35 10歳になりました

「お嬢さんはさぁ、公爵令嬢だろ?そんなに強くなってどうすんだよ」


 大熊先生との鍛錬の後、何度目かも分からない再戦を申し込んできたミーシャが、タオルで額の汗をぬぐいながら、理解できないと言う顔で私に尋ねてきた。

 汗にまみれシャツは濡れて体に張り付いている。


 勝敗は、ミーシャ呼びを改めていない事から分かるように、今のところは私の全勝だ。子供のうちは性差によるハンディは無いけれど、そろそろ体力や膂力では敵わなくなってくるだろう。

 ま、勝敗を決めるのはそれだけじゃないから負ける気は無いけど。


「強い方が格好いいから」


 最初はそうだった。ただ単に体を動かすことが好きで剣と魔法が好きでのめり込んでいた。

 けれど、記憶を取り戻してからは自身を鍛えることで、死亡フラグが立った時に選択肢を増やすために頑張っている。

 か弱いお嬢様のままだったら、冤罪掛けられて処刑コースかもしれないのだ。お父様の事もお母様の事も信じているけれど、万が一のことを考えて悪いはずがない。


 お父様とお母様でもどうしようもない事態になったら、事故か何かに見せかけて出奔する。

 そのために強さは必要だし、金を稼ぐ手段も見つけたいと思っている。


 10歳になったから冒険者ギルドに登録できるんだけど、周囲の反対で今は成し得ていない。


 そのうち、変装してこっそりと登録に行きたいけれど、未だに箱入りお嬢様で一度王宮に行った時以外はファルナーゼ家の敷地内のみで過ごしているので、未知の世界に不安もある。


 敷地は広いし、裏の森でいっちゃんやそうちゃんと遊べるし、スピネルはずっと一緒に居てくれるし、剣術や魔術は先生が来てくれるので生活には困っていないけど、世間知らずが加速していくことは怖い。


 幸い、王子様からの婚約申し込みはお茶会から一年経っても無い。

 これで一安心とはいかないのは、私だけではなく誰も王子様と婚約していないからだ。なんでだよ。綺麗なお嬢さんがいっぱいいたじゃないか。どのお嬢さんも家格は申し分なし(そういう条件でお茶会参加者が選ばれているからね)容姿だってそれぞれ趣の違う可愛らしさや美しさを持っている。その中の誰かに決めておいてくれれば、フラグが折れたー!と喜べたのに、婚約者の席が空いている今は、手放しで喜んでいい状況じゃないよ、ほんと。


「ミーシャはなんで剣を習ってるの?」

「俺は騎士になるから!」


 子熊ちゃんはミーシャと呼ばれても抗弁しないようになっている。彼の中で負けている間は抗議する資格がないと納得しているらしい。自分が弱いせいだから、強くなってやる!と。最初の印象は悪かったが、家風的に女子供は守る者だという空気の中で育っており、自身も子どもでありながら守る立場だと認識していたようだ。言葉遣いが悪く表現の仕方がへたくそだっただけで、悪い子じゃなかったので、来るたびに立ち合いをしてはお喋りするようになった。


 こうしてミーシャと話していると必ず背中に冷たい視線が刺さってくる。


 もちろんその主は友達第一号であるヤキモチ焼きスピネル君である。

 ちゃんと、スピネルが大好きだよーと愛情表現は欠かしていないつもりではあるのだが、彼のヤキモチは変わらない。

 先住猫がいる家に二匹目をお迎えすると、最初からいた子がヤキモチを焼くと言う話は前世で友人から聞いた事がある。そういう時は、先住猫を優先して可愛がってやらないといけないらしい。

 スピネルの事を可愛がっているんだけどなぁ。

 それに、スピネルはうちの子だけど、ミーシャは我が家にお迎えしたわけじゃないんだよ?どうしてそこまでヤキモチを焼く。


 私はスピネルを拾って二年。私の傍に居るせいで彼もファルナーゼの敷地内しか知らない。交友関係は限られていて友人を作る機会も無い。スピネルの友達は私といっちゃんとそうちゃんだけだ。あ、いや、私もスピネルといっちゃんとそうちゃんだけだけど、私は記憶を取り戻して17歳の意識がある。前世での友人たちのことも覚えている。


 けれど、そういう基礎が無い彼は不安になるんだろう。まだ、子どもだし。


 私が拾ったのはスピネルだけです。安心していいんだよ。


「騎士かぁ」

「おう!うちに生まれた男は強くならなくちゃダメなんだ。俺は三男だし家を継ぐこともないから、強くなって騎士になるんだ」


 なるほど。ミーシャは伯爵家の三男で、いずれは一人立ちしなくてはならない立場だ。家風的にも騎士を目指すのは当然か。


「あ、お嬢さんはさー、学園の初等部はいかないんだな」

「うん、ミーシャも行ってないよね」


 この国では10歳からの二年間は無償で教育が受けられる。それが初等部だ。


 家庭教師を付けて家で学ぶことが出来る貴族は行かない事も多い。

 通うのは庶民が多く、次に教育にお金や時間をかけられない下級貴族、あとは王都での暮らしにならすために地方から貴族の子弟子女が入学することもある。地方にも学校はあるけれど、いずれ貴族社会を泳ぐことが決まっている場合は、交友関係を広げるために子どもの頃から顔つなぎを兼ねて中央で勉強させることも多い。


 12歳からの三年間は中等部。15歳からの三年間は高等部。


 家庭教師を付けていても中等部からはほぼ全ての貴族の子は通う。中等部からは学費がかかるので、逆に庶民は一気に減る。


 10歳の今の段階で敷地内に引き籠りな私は、当然中等部からだ。家に引き籠っている訳ではない。敷地から出してもらえないだけだ。私と一緒に居るスピネルも家庭教師からの教育を受けているので、初等部には通っていない。


 中等部入学まで二年も無いんだから、そろそろ外の世界も知りたいところではある。

 女友達も欲しい。――スピネルは女友達にも妬くんだろうか。それはちょっと困ったなぁ。


 初めての友達で大事な友達でずっと大好きだよと囁き続け、中等部入学までにはヤキモチ焼きからの脱却を目指したいと思う今日この頃。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ