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34 死因……は考えても仕方ない

 まったく考えもしなかったけれど、前世の私はなぜ死んだんだろう。

 17歳までの記憶しかないから17歳で死んだ?それとも、それ以降は思いだせていないだけでもっと生きていた?死んだときの事を全く覚えていないのだから、どちらの可能性もある。


 覚えているうち一番最期であろうものは、まっつんと乙女ゲームの話をした日の記憶だ。まさかその世界に転生するとは思いもしなかったが、前世と同じく家族に恵まれているし前世よりよっぽどハイスペックな脳と身体能力があってラッキーだと思っている。


 死因か……死に至るような病を持っていた訳ではないし、順当に考えると事故、かなぁ。


「ま、考えても仕方ないか」


 思い出す時が来ればともかく、考えたって答えに辿り着くはずもない。この件は棚に上げておこう。


「考えることを放棄しないで下さい」

「え、だって、いや、考えたって分からないよ。自分の死因なんて」


 正直、思い出したい事でもないし。痛かったこととか怖かったこととか辛かったこととか、忘れていられるならその方がいい。


「そうじゃないです。殿下があのような事を発言した意味を考えましょうと言っているんです」


 ”考えてください”じゃなく”考えましょう”なところが、スピネルの優しいところだよねぇ。私のポンコツ具合が分かっていて任せられないせいかもしれないけど。


「うん」


 スピネルの気持ちが嬉しいから頷いておく。


「……うん?あれ?ひょっとして王子様も前世の記憶がある……とか?」


 そうでもなければ、見舞いに来た席で「死んだときの事を覚えていますか?」なんて台詞は出てこないよ。いや、王子様が転生者だとしても意味が分からないけど。


「僕はそう思いました。そして、前世でお嬢様とかかわりのある人物だったのではないか、とも」

「いやいやいや、ちょっと待って。前世の私と今の私では見た目も年齢も賢さも全く違うから、並べてみても類似点なんて人間であることと女である事くらいだから」


 前世の家族や友人たちが今の私を見て「きさま、獅子井桜だな!」と看破することは難しい。いや、不可能なんじゃないだろうか。


「消しますか、殿下を」

「物騒!なんでそうなる!?」


 スピネルの思考の飛躍具合が分からない。

 もしも、前世での知り合いだったとしたら乙女ゲームの話をして婚約を回避でき、死亡フラグが木っ端みじんになる案件だと思う。


「僕の知らないお嬢様を知っているとしたら不快なので」

「快・不快でそんな剣呑な考えに辿り着くスピネルの脳内が不安だよっ」


 こわっ。

 初めてのお友達を大事にするスピネルの姿勢は嬉し恥ずかし有難し。けど、そこまで嫉妬するのはなんか違うと思う。

 彼女なり奥さんなりが出来たら監禁するタイプか?ヤンデレ系?こわーっ。


「殿下にお目にかかってどうでしたか?」


「さすが王子様、キラキラしてたねー」


 貴族も上に行けば行くほど美形率は上がる。

 なぜなら、婚姻を結ぶ相手を選び放題だからだ。年頃の釣り合い、容姿、才能、賢さなどなどを鑑みて、自分が「いい」と思った相手を選べる。「な、こんなもんでいっか。自分だって大したもんじゃないし、割れ鍋に綴じ蓋だし」とかなんとか妥協することなく、上等な結婚相手を選び続けた結果、美しく能力が高い子供が産まれ、その子供もまた優れている相手と結婚する。そりゃ、美形揃いにもなる訳で、王族と言うのは選び放題の集大成と言ってもいいくらいだ。


「――心惹かれたり、とか」

「ないない」


 死亡フラグが無くたって、ないわ。いや、相手は王族なので、公爵令嬢と言えどこっちが選ぶ立場ではないけれど。


「スピネルも知ってるでしょ。私がキラキラ系が好みじゃないって」


 まだ子供だけれど、王子様は剣の鍛錬なんかもしているんだろう。バランスの取れた体型だった。いかにキラキラしていてもひょろひょろだったりでっぷりだったりしたら魅力は半減するだろう。


「それに、私は17歳までの記憶があるんだよ。10歳の子ども相手に邪な気持ちにならないって」


 なったら犯罪である。


 あ、いや、そういう気持ちが芽生えるだけならいいのか。イエス・ロリータ ノー・タッチという格言もあるくらいだ。前世の友達にも「可愛いは正義!」と子供を遠くから愛でている子がいた。可愛いは正義ってそういう意味じゃないと思う。


 そして、彼女は本当に鑑賞するだけであって、恋愛対象はちゃんと別であり他校に一つ上の格好いい彼氏がいたのだ。彼氏が彼女の癖の強い趣味を知っているかどうか、私を含めた周囲の友人たちは心配していたものである。


 だがしかし、私にはそっちの性癖も素養も無いのでお子様は範囲外だ。


「……なるほど。子供は対象範囲外、ですか」


 スピネルが眉間に皺を寄せて考え込んでしまった。ああ、私の婚約者探しの難しさを心配させちゃったか。

 前世の記憶の関係で相手を17歳以上とした場合、その年ごろで公爵家に婿入り出来る位に家格が高い相手は婚約者が既にいる可能性が高い。いなかったとしても、9歳のお子様を選ぶかどうかというと……。


 ま、暴れん坊お嬢様でも公爵家というメッキがかかっているんだから、全く無いという事はないだろうし、今すぐに婚約者を決めなくてはならないと言う訳でもない。


 肉体年齢が17歳になっても公爵令嬢だったとき、すなわち乙女ゲームの死亡フラグが完璧に折れたことを確認できたときに考えればいい事だと思う。

 そうじゃないと、婚約者にまで迷惑がかかることになるだろうし。


 もちろん。王子様の婚約者にならず義兄をもたずに生きていき、絶対に冤罪からの処刑コースは回避するつもりだけどね。


 万が一のときの事を考えると、柵を作るのは得策ではない。


 スピネルにそう言うと、ちょっとは安心できたのかにっこり笑ってくれた。


「そうですね。本当なら王家から殿下の相手と目される前に、婚約者の一人でもいた方が防波堤になるかとも思ったんですけど、例え壁にするだけのためとはいえどお嬢様に婚約者が出来たら……」


「出来たら?」


「ムカついて消しちゃうかもしれませんもんね、僕が」


「物騒!」


 良い笑顔を作ったって、言っていい事と悪い事があると思うよ。


 


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