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114 藪から棒

「シシィは聖女になる気があるかい?」


 夕食が済んで食後のお茶を飲みながら、お父様が唐突にとんでもない事を言いだした。


「ありません」

「だよねぇ。じゃ、王子妃になる気は?」

「ありえません」

「うん、当たり前だよね」


 ちなみに答えたのは私ではなくスピネルである。お父様もお父様だ。私に質問したのに答えたのがスピネルだというおかしな状況をスルーして話を進めないでいただきたい。


「教会と王家が?」

「ああ、うちの娘には婚約者がいると言ったんだが、教会は神託の聖女はシンボルになるべきだというし、陛下は聖女を教会にとられるくらいなら息子の嫁にと言うしで。ああ、シシィが選んだ王子を次期国王にするから好みはどっちだろうと聞いて来たな」

「そうですか。いっそ、竜の姿で教会と王宮にお邪魔してみるべきでしょうか」

「それもいいかもしれんな」


 物騒!お邪魔するって、こんにちはー、遊びましょーっていうような平和なもんじゃないでしょ?暗黒竜ごっこはあっちにしてみたら遊びにならないから!


「スピネル、私は教会にも王家にもいかないから」

「うん、分かってるよ、シシィ」

「お父様、スピネルは本当にやりかねないんだから、冗談はおよし下さいませ」


 やるよ?スピネルはオッケー出たと思って本当にやっちゃうよ?


「まぁ、シシィ。お父様がそんな事で冗談をいう訳ないじゃないの」

「……はい?」


 お母様、お父様の言葉が冗談じゃなかったら本気だという事になっちゃうんですが。

 優雅にお茶を飲みながらにっこりと笑うお母様をじっとりと見るが、気に介した様子も無い。そうですか、それがお父様の通常運転ですか。


 ああ、そういえば、うちのお父様は私が捕縛してきた誘拐犯にヤクザキックするような、武闘派だった。文官トップの宰相と言う地位にいるのに。


「……それはおいておいて。そもそも私は聖女じゃないですし。神託をゆがめたら、その方が教会も王家も問題があるんじゃないでしょうか」


 神様は”聖なる乙女”とか飾ってくれたけど、要はスピネルが暗黒竜にならなかったのは私のおかげだよ、良かったねって話だったんだろうに。なんか特別な力がある訳じゃないのに。


「うちの娘は飾っておきたいくらいに美人だからねぇ」

「必要なのは見た目だけですか」


 それは気分がよろしくない。

 確かに私は整った容姿をしているが、教会やら王家やらのお飾りにはなりたくない。


「君を知らない人間からの評価なんて気に留める価値も無いよ、シシィ」


 ムッとしたのが分かったのだろう。スピネルは優しく私に微笑んでくれた。まあね、彼のいう事が道理だ。私を知らない人から何をどう思われたって知るもんか。


「ともかく、どちらもお断りです。そもそも第一王子殿下はこの話を止めて下さると仰ってました」


 王子さまが私との結婚を望むわけも無い。前回の事があってシシィ・ファルナーゼに対して思う所はあるだろうが、レナに説教されて私と前回のシシィを同一視することは間違いだと理解したようだし。


 前回のシシィは王子さまの事をどう思ってたんだろう。魂が傷だらけだったという彼女は、マリア様がいなかったら傷だらけのままで王子妃になり、王妃になったのだろうか。

 私には想像も出来ない事だけど、それはきっと辛い生き方になったのではないだろうか。


 狭間でその傷が癒えることを願う。


 次の人生は幸せなものでありますようにと。


 そういえば、いっちゃんそうちゃんの棲家も狭間って言ってたな。狭間っていっぱいあるの?それとも、神様の言う狭間といっちゃんそうちゃんのいう狭間って同じなんだろうか?

 いっちゃん達は狭間に魂がふよふよしているとは言ってなかったけど、見えないだけかもしれない。


 いっちゃん達の狭間に行ったら、もしかしたら前回のシシィ・ファルナーゼが漂っているのかもしれないなぁ。


 ――いやいや、シシィだけならいいけど、というか会ってみたい話をしてみたいと思うけど……幽霊がいっぱいいるようなところはちょっと怖いじゃないか。見えても見えなくても。


「ともかく、私は聖女じゃないですし、婚約者がいるので王家に嫁ぐ事も出来ません」


「そうよねー。スピネルがいるものねぇ」


 そうだよ。そんな事になったらスピネルが暗黒竜になっちゃうじゃないか。


「うん、返事は分かっていたけどね。一応そういう話が来たことだけは伝えておこうと。後はお父様に任せておきなさい」

「よろしくお願いします」


 教会のお偉いさんだとか、王族の方々だとか、そういう面倒くさそうな人の相手はお父様に任せるに限る。


 それにしても神託の影響力の大きさにはビックリだ。


 私は、勇者からうっかり神様の残念っぷりを聞いているからか、今回の神託が嘘八百だと知っているからか、神託にありがたみを全く感じていない。


 こういう経験をしたら誰だってそうだろうと思うが、今後もしも神託を聞いても頭から信じることなんて出来やしないと思う。

 そう考えると、神様に振り回された勇者が気の毒になってくるが、暗黒竜と戦わずに済んで結果オーライだったと笑う勇者を思い出し、あの位に前向きな人だからこそ勇者に選ばれたのかもしれないと思った。





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