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一話

 俺が《それ》を知ったのは、偶然以外のなにものでもなかった。


 窓から黙々と上がる煙は小さな村の中でずいぶん目立っていたが、煙があるところには火があるものだ。普通は近付かない。


 けれど俺は本能的に、その煙は無害なものだと理解した。それどころか妙に惹きつけられる匂いがして、気が付いたら窓枠に足をかけて部屋を覗いてしまったのだ。


「うぅー。失敗しちゃった」

「仕方のない子だねえ。ほらほら、クアレの水を持っておいで」

「はぁーい」


 十歳ぐらいの少女が、老婆の指示に従って戸棚へと早足に向かう。苦笑しながらその後ろ姿を見守っていた老婆が、ふと眉を寄せてこちらを振り向いた。魔力が感知されたのだろう。


 人間は俺たちを見ると問答無用で襲ってくる輩もいるので、老婆がそういう類の人間だったら飛んで逃げようと身構える。


 しかし老婆は、俺に悪意を向けなかった。


「おや、まあ。野生のフォニアかい? 人の前に姿を見せるだなんて、珍しいこと」

「あ! 小さい鳥さん。綺麗ー」

「そうだね、まだ下級種だねえ。愛らしくて綺麗だから、人前になんかめったに出てこない魔鳥だよ」

「まちょう……魔鳥、魔物!?」

「魔物だけど、無害な鳥さ。大人しくて、綺麗な声で鳴くだけのね」


 老婆が憐憫を込めて俺を見る。俺たちフォニアの声は神々さえ魅了し、寵愛をほしいままにするのだという。もっとも神々が愛するのは上級種まで到達したフォニアだろうが。


 しかし俺たちには寵愛を得る可能性があるということに変わりはない。そのフォニアである俺が、なぜ哀れまれるのか。理解できない。


「綺麗な声? 聞いてみたい!」

「フォニアは人のためには鳴かないよ。ほら、そんなことより片付けるんだ」

「はーい」


 少女が戸棚から持ってきたのは、神力を帯びた水だった。とはいえ上等なものじゃない。少し神気の強い場所でならどこででも採取できそうだ。


 クアレの水、と言っていた。もしかしたら水神シャーレクアレのことだろうか。


 少女はその水を煙の元であった乳鉢へ注ぎ込む。中にあるのは灰……に見える。土の魔力と火の魔力を感じた。不安定で危険な気配で、すぐにでも爆発しそうだ。触りたくない。


 クアレの水がその上に溜まるが、だから何だというのだろう。


融合(ユニオン)

「!?」


 灰と水を混ぜながら少女が唱えると、まったく別の物質だったはずの灰と水が溶けあっていく。始めは魔力と神力が繋がり、そのせいで物質としての形までもが変化する。


 灰と水は魔力と神力、打ち消し合う力だ。二つの力は融合しながら消滅していく。

 けれどどうやらそれは無作為じゃない。少女は力を操作して、火の魔力と水の神力だけを打ち消していく。


 ややあって最後に残ったのは、ほんのりと土の魔力を残しただけの灰だった。畑に撒いたら土が喜びそうなやつ。


「低品質肥料の完成です!」

「作ってたのはヒールポーションのはずだがね」

「あぅ」

「ま、これは畑の肥やしにしよう。さ、もう一度始めから」

「はーい」


 少女は素直に返事をする。


 俺はしばらくの間、少女と老婆の元を頻繁に訪れた。彼女たちは錬金術士。物質と物質を特殊な方法で分解、結合させ、新たなる物質を作り上げる奇跡の持ち主。


 その存在を知った俺は、その美しさに強く惹き付けられた。

 己の手でやりたいと思い始めるのに、時間はかからなかった。

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