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短編小説 (純文学など)

あじさいとちこ

作者: Kobito

 こんもりした小山に、ことしもたくさんのあじさいが咲きました。

 ちこはお父さんお母さんと一緒に、梅雨の晴れ間に、車でその小山に出かけました。

 お母さんは、せっかちだったので、車を降りると、日傘をさして、青や紫のあじさいが咲いた小道を、一人でどんどん公園の方へ歩いて行きました。

 ちこは公園の奥の方の、鮮やかな赤いあじさいのところへ、早く行きたいなと思いながら、足の遅いお父さんと並んで、ゆっくりゆっくり歩いて行きました。

 赤いあじさいは、ちょうど満開で、花も葉も瑞々しく、石段の横の斜面をおおうように咲いていました。

 お父さんとちこは、その花々の間の階段を上って、公園のてっぺんにある展望台を目指しました。

 だんだらの緩やかな坂道を歩いて、やっと展望台の頂上につくと、そこからは、鉄道模型のようにちっぽけな家々の並ぶ市街地が、うっすらした遠くの山々のすそ野まで広がっているのが見えました。ちこはその街並みの中から、自分たちの家を探しはじめましたが、なかなか見つけられないので、お父さんに「私たちの家はどのへん?」とたずねました。

 お父さんは、街外れの海岸の方を指さしながら、「あそこに灰色のビルがあるだろう。それと、横の方の広い屋根の工場ね、あのあたりに家があるよ。」と言いました。

 ちこは、お父さんが教えた場所が、やっぱり見分けられなかったので、

「お父さんはあんな遠くのものがはっきりと見えるんだね。」

とたずねました。

 お父さんは当たり前だというように、

「年を取ると遠視になるんだよ。」

と答えました。

 しばらく、知っているデパートや遊園地の場所を教え合ってから、二人は展望台を下りて来ました。すると、階段の下の開けた芝地では、そろいの青い半そでを着た幼稚園児たちが、大きなビニールのサッカーボールを、親鳥を追うひよこみたいに追いかけまわして遊んでいました。ちこは、展望台の景色もそうですが、こんなに和やかな光景を、お母さんも一緒に見られたらよかったのに、と思いました。

 お母さんは、もう一人で公園の周りを歩いてきたようで、駐車場の前の小道のところで待っていました。そして、ちこたちが近づくと、「こっちに珍しいあじさいがあるよ。」と言って、二人を案内して小道を駐車場の少し先まで歩いて行きました。

 そして、がくあじさいらしいその花の前に来ると、

「このあじさいが一番きれい。」と言いながら、茎をつまんで花が良く見えるように、ちこたちの方に傾けました。

 ちこはその、水色の星形の明かりが、細い柄の先に灯されて、たくさん掲げられたような、珍しいあじさいの花が、自分も一番きれいだと思えたので、嬉しくなってうなずきました。

 それから、三人は、カシの木陰のベンチに腰掛け、自動販売機で買った冷たい緑茶で一服すると、お父さんの運転する車で、それぞれに見たことを、代わり番こに語り合いながら、あの鉄道模型のように入り組んだ街並みの中の家に帰って行きました。


 おしまい



 挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 家族の休日のひとときを書いておられて、気取らない仲の良さが素敵でした。 あじさいが良いアクセントとなって、風景と心情に彩りを与えていますね。 絵も素敵です。 こたかんさんの「かもめーる」の…
[良い点]  梅雨の晴れ間、アジサイの咲く何げない風景。  読み進めるうちに、水彩画を見ているような気持になっていたところ、最後にほんとに水彩のアジサイの絵がありました。
[良い点] がくあじさい、調べてみたら種類がかなりあるのですね。 あざやかな青い花の群れに、水色の星のようなガク?がきれいで見入ってしまいました。 (赤いあじさいって、そういえばあまり見ないです) …
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