第七十二話
俺が実家に戻って1ヶ月が経とうとしていた。その間イリスと姉上でクエストを受けたりミリシャとマリン姉ちゃんで一緒に遊んだり、充実した日々を送っていた。
だがそれは突然起きた
毎日みんなが交代制で俺と一緒に寝る事も変わらず今回はイリスと共に寝ていた時だった
「ん…なんだ…重い…誰か上に乗ってるのか?」
どうせイリスが寝ぼけてるだけか…?いや、何だこの感じ。嫌な予感…この感じ前にも味わった事がある
「…はっ…殺気だ!」
目開けるとそこには見たことも無い形のナイフを持った顔を隠している男性が俺の上に居た
「ちっ…バレたか…眠れ!」
「無属性魔法:魔力超速:6倍速!!!」
俺はナイフをスレスレで避けると殺そうとした奴に蹴りを入れる
「ぐっ…」
「お前は誰だ!」
「はっ…誰が教えるかよ、…しょうがない連れ去るのは無理か」
男は扉を蹴り飛ばし去っていく
「逃がすか!イリス!敵だ!何者かに襲われている!」
「んあ…あと2時間寝させて…眠い…」
「寝ぼけるのはいいから!みんなが危ない!」
敵は複数か?分からないがみんなが危ない!早く行かなければ
「んにゃ…はっ!本当…?リュート!」
「ああ!俺は家族を見てくる、イリスはマリン姉ちゃんとアリアを見てきてくれ!」
「分かった!」
俺は全速力でミリシャと姉上を見に行く、父上と母上は俺が思ってるほど強いしセバスチャンも居るはずだ
「くそっ!誰なんだ、あいつは…!」
賊か?いや…あの匂い、どこかで嗅いだことがある
「とりあえず早く行かなきゃ」
俺はミリシャと姉上の部屋へと着いて扉を開ける
「ミリシャ!姉上!」
「んー…リュート…?どうしたの?怖い夢でも見た?」
「よかった…姉上は無事か…」
あいつも居ない、これで安心…ちょっと待て
「ねぇ、ミリシャは?」
「えっ?ミリシャならここに…居ない?」
「なっ…」
嫌な予感が頭をよぎる、ダメだ…皆を守るんだ…失敗は許されない。もう死なせない
「くっ…!」
「あっ…!リュート!何が起こってるの!」
「姉上は母上と父上の所へ行くんだ!」
探さなきゃ…ミリシャなら無事だ…きっと…早く…
「どこだ!ミリシャ…!」
「…リュート!」
「母上、父上!」
玄関へと向かうと母上と父上、そして隣ではセバスチャンとカレンが複数人の襲撃者と戦っていた
「無事だったのね!良かったわ…!」
「くっ…こいつらは一体…!リュート悪いが力貸してくれないか!ったく領主の仕事で腕が鈍ってやがる」
「…このレギオス家を襲うなど、愚の骨頂…私がそのような事はさせませぬ」
「私を甘く見るなよ賊…メイドの底力見せてやる」
「はっ…リュート!後ろ!」
後ろに強い殺気を感じる。なんなんだ…コイツらは俺の家族を傷つけ、俺を連れ去ろうとしている
「…無属性魔法:圧縮魔弾:6連」
「ぐっ…あああ!!」
「なにっ!ぐわああ!!」
「見えな…ぐっ…」
魔弾は襲撃者達の足を貫き動きを封じる
「みんな無事?」
「ええ…助かったわリュート…」
「ああ…本当、危なかった」
「私の力不足故…すみませぬ」
「坊っちゃま…すみません」
「いいさ、それよりミリシャは見た?」
「いえ、まだ見てないわ…まさかミリシャは!」
「なっ…探すぞ!セバスチャン」
「はい、かしこまりました」
「お母様!お父様!」
「サラ!良かった無事だったのね!」
「母上と姉上はカレンと一緒に来客用の家に避難するんだ」
「リュートは…?」
「俺はミリシャを探す」
「そんな…危険だよ…」
「大丈夫、俺は死なない…そしてミリシャも死なせやしない」
「…わかった」
「俺たちは屋敷を探す、リュートは屋敷の外を探してきてくれ。ただし無茶だけはするな、わかったな?」
「分かった」
俺は外へ出て周りを走る
「無事で居てくれ…頼む…」
周辺を探すがミリシャは居なかった、襲撃されてどれほど時間が経った?もしかするとミリシャは…
「くそっ!まだ諦めないぞ…!」
「お母様ぁ!!」
その時姉上の声が聞こえた
「母上…?」
俺は声のする方へ向かう
「あっ…ああ…」
そこには襲撃者と戦っているカレンと、ボロボロのイリスとアリア…そして腹部にナイフが刺さった母上に寄り添う姉上が居た
あの時の光景がフラッシュバックする、俺はまた失敗したのか?また失うのか?
「う…ああ…ああああ!!」
「ちっ…勇者の奴…もうきやがったのか、おい足止めしておけ。俺はこの小娘を持って退く」
「ああ」
…いいのか?アイツが逃げてしまうぞ?私に代われ、全部終わせてやる
魔王の声が聞こえた、あの時と同じだ。魔王に代わればアイツを殺してくれる…全部終わらせてくれる…
いや…それじゃあ…あの時の逃げている俺と一緒じゃないか、今度は俺自身で殺らなきゃ
「…まず先に母上を治さなきゃ」
「な、なんだ…なんだその黒いオーラは!こんなの聞いてないぞ!」
「どけよ」
俺は襲撃者の1人の腹を殴る
「ごふっ…」
「はやい…!」
すぐに母上の元へ駆け寄る
「…り、リュート…」
「ごめん母上…俺がもう少し早く来ていれば…」
「りゅ…と…」
中癒回復で傷を治す、なんとかギリギリの所で間に合ったようだ。
「はぁ…はぁ…ごめんなさい…迷惑かけちゃったわね…母親失格だわ」
「そんなことない…俺が悪いんだ…でも待っててくれ、すぐにアイツらを…消すから…!」
力が溢れてくる、最高の気分だ…!
「貴方…リュート…なの?」
姉上が恐る恐る俺を見る
「何を言ってるんだ、俺は俺さ…くはは…!」
黒いオーラが俺を包み込む、とても心地がいい
「おい!あんな状態の勇者は報告に無かったぞ!」
「想定外だが、小娘さえ連れ去ればこっちのモノだ。本当は勇者も連れ去る予定だったが仕方がない…」
「…ミリシャを返せよ」
「そりゃ無理だな、じゃあ後は頼むぞ」
「ちっ…はぁっ!」
襲撃者3人が俺へと向かってくる、俺の大切な人を傷つけた報いを味あわせてやるよ
俺は襲撃者の後ろに自分が居るイメージをする、何も考えず。ただ相手を殺すことだけに全ての意識を向け
無駄を無くす
「無属性魔法:魔力瞬進」
俺は一瞬で襲撃者の元へ移動する
「はっ?なんだ今のは…瞬間移動でもしたのか?」
そうか、これが力の使い方か…俺は魔力の調節や動き方を考えすぎて無意識に制御してたんだ…
変な感じだ…身体が自然に相手の命を奪おうと動いてくれる。居心地の良ささえ覚える
「なに…速い…!きえて…」
俺は後ろに回り込み1人を蹴り飛ばし、もう2人の腕を掴む
「無属性魔法:魔力干渉」
「ぐうわあああ!!」
「魔力が!吸い取られ…!があああ!!」
「はは、俺の大切な人を傷つけたんだ…苦しめ、苦しんで苦しんで後悔するといい…!くはははは!!」
ああこのまま身を委ねれば、どんなに幸せなのだろう
頭の中の歪んだ声の歪んだ指示に従えば…
「たすけ…」
「あ…が…」
「…あはは…死んでしまえ」
そうだ…俺が全てを消して…
…バカタレ、私と同じ過ちを繰り返すな
ふと魔王の声が聞こえた気がした
「リュート!」
「リュート様!」
イリスとアリアが俺を抑える
「ぐっ…離せ!コイツらを殺せない!」
「ダメです!今殺してしまったら!リュート様はきっと戻れなくなってしまう!」
「そうだよ!今のリュートは人を殺すことを楽しんでいる!」
人を殺すことを楽しんでいる?俺は…今楽しんでいたのか?
「…俺は…そんな…」
…ちっ…失敗か…
「今の…声は…」
今のは魔王の声じゃ無かった…
そして俺の意識は途絶えた




