第百二十九話
「やっぱりこの時間はエルフの監視も手薄だな」
俺は森を走っていた
「里の場所はもう分かる…あとは…説得するだけだ」
『別に明日皆で行けば良かったのでは?』
「いや…これは勇者である俺の仕事だ。ルシュ達を巻き込めない」
『本当に1人で大丈夫ですか?』
「うん、もし失敗しても…すぐ逃げるよ」
しばらく走ると里が見えてくる
「道を知ってるからはやく着けたな」
「…ふぅ…ん?ゆ、勇者!何をしに来た!」
「俺!貴方達を説得に来ました!」
「…分からん奴だな…お前ごときの説得で気持ちが変わるわけないだろう!皆に伝えろ、勇者が来たぞ!」
「…諦めるな…俺…!」
少し待つと大勢の兵とフーリエがまた現れた
「こんな夜更けに…奇襲でもしに来たか?」
「それはすみません!でも俺、貴方達に協力してもらいたいんです!」
「…それは無理と言っただろう」
「お願いします!確かに俺達人族があなた達を傷つけたのかもしれない…でも!人族にはそういう人達だけじゃないんです!優しい人も沢山います!」
「…だからどうした…人族は皆野蛮でクズ以下の下衆共だ」
「…違います…!俺が…きっと変えてみせますから…!差別も全部…!だから俺たちに…あと1回…チャンスをください!」
「…やれ」
「はっ!」
『来ます、前のように避けないのなら死にますよ』
「…分かってる、纏い:剛円」
俺は矢と槍の嵐を魔法で防ぐ
「お願いします!俺たちの話を聞いてください!」
「…ちっ…しつこい!聖霊術を使ってやれ」
「聖霊術:かまいたち!」
とてつもない量の風の刃が襲いかかる
「っ…剛円じゃ防ぎきれない…!」
そして…剛円が砕け…俺の腹と足に刃が突き刺さる
「ぐあ…あ…」
『リュート様…!』
「…ふん、これで懲りたなら戻ってお仲間に慰めて貰うんだな?いや…見たところ1人か…とうとう仲間にも見捨てられたか?」
見下した笑い声が聞こえる
「はぁ…はぁ…お願い…します…!辛いのも分かります…憎いのも分かります…でも…でも協力しないと…アイツには勝てない!」
「…っ…まだ…立つのか…」
「何度だって立ちます、何度だって説得しに来ます…貴方達が分かってくれるまで…ずっと」
「…なんなんだ…お前は…」
フーリエは恐怖していた、今までのどの人族よりも目が…心が…強いと思ってしまった
「…やれ!」
「…は、はい!」
エルフ達も勇者の姿に押されていた、だが…その矢が止まることは無かった
『リュート様…ダメです逃げてください!』
「…はは…さっきの聖霊術で…足が動かない…」
回復も間に合わない…ミスったな…これじゃ死んでしまうじゃないか
「…でも…この死で…貴方達が変わるなら…それも…」
「…っ…お前…」
「ご主人!」
矢が当たる寸前、炎の壁が俺を庇う
「大丈夫か!」
「…勇者の仲間の獣人族か…」
「ガルスケ…なんで…」
「ご主人が1人で森に行くのを見た、だから跡をつけたんだ…なんて無茶を…」
「ごめん、ちょっとミスった」
「…ご主人がいないと…皆悲しむぞ?私だって悲しい…」
「うん…ほんと…ごめ…ん」
意識が…遠のく…
「ご主人…!…貴様ら!」
エルフ達を睨みつける
「…お前には関係ないだろ獣人族」
「関係大ありだ!お前達は何故ご主人を攻撃するんだ!」
「それはそいつが人族だからだ」
「…人族人族って…ご主人がお前たちになにかしたのか?お前の仲間を傷つけたりしたか?」
「…それは…」
「…私にはお前達の事が分からない…でも…お前達のやってる事は…お前の言う人族と同じ事だ!」
「っ…うるさい…!お前に何が分かる!」
「分からない!!」
「…なに…」
「でも…ご主人を傷つけたのは絶対に許さない」
ガルスケはリュートを背負い、街へ戻っていく
「…その目はよく知ってる…お前達の目は獲物を弄ぶ屑たちの目だ」
「…!」
ガルスケ達の姿は森へと消えていった
「何を…くっ…!私達が屑たちの目をしてるだと?」
この時だけは言い返せなかった事にフーリエは余計に腹がたっていた
「…そんなはずは…」
…
…
「…あ…ここは…」
「…よう…目さめたか」
「ルシュ…」
ひと目でわかる…相当怒ってるな
「…ごめん…」
「なんで…1人で里へ行ったんだ…ガルスケが来なかったらお前…死んでたんだぞ…!」
胸ぐらを捕まれる
「ごめん…ある程度…危険だと思ったら逃げる…つもりだったんだ」
「そんな事はどうでもいいんだよ…お前は…俺達を置いて…1人で行ったんだ!」
掴む手が震えている
「そんなに…信用ないか…?俺達」
「違う…ルシュ達を…巻き込めないと…思って…」
「そんなの…お前が勝手に決めた事だろ?何故相談してくれなかった!なんで…なんでだよ…」
「…ごめん…ルシュ…」
「お前はいつもだ…1人で全部…やろうと…俺を…頼ってもくれない…話してもくれない」
「…そんなつもりじゃ…」
「俺が弱いからか?カナリーもユーナも皆お前より弱いからなのかよ?」
「…そんな事思って…!」
「なら1人で全部やろうとするなよ!俺達にも重荷を一緒に背負わせてくれよ…!」
「…あ…ルシュ…」
ルシュは泣いていた…
「…休んでろ、これは俺達で何とかする」
掴まれていた手が離れる
「そんな…!これは…俺じゃないと」
「…できないのか?俺達を甘く見るなよ、俺達は勇者の仲間だ…!勇者にただ守られるだけの村人じゃない」
ルシュが部屋から去っていった
「…俺…間違ってたのかな…」
『…それは…いえ…誰も間違ってないのです…リュート様の言うこともルシュさんの言うことも…誰も…』
「…難しいな…勇者…」
俺は1人…部屋で過ごした
…
…
それから2日が経ったある日、扉がノックされる
「…あの…勇者様…」
「…ノエラ先輩…」
「…ごめんなさい…あの時止めるべきだったのに」
「…いや…これは俺が悪いんだ…1人で思い込みすぎたんだ…」
ノエラ先輩は俺の横に座る
「ルシュ君たち…凄く頑張ってたわ」
「そう…ですか…」
「うん…何とかエルフ達に協力してもらおうと…してた」
「…」
「私…本当は勇者様に傷ついて欲しくないの…」
「…先輩…」
「傷だらけで貴方が戻ってきた時…とても辛かった…私が言ったせいでこうなったんだって…」
「それは違います!」
「…いいの…私は宿屋の娘だから…勇者様に言える立場じゃないのは分かってる…でも…あの時…本当に言いたかったのは…」
ノエラ先輩が俺の手を握る
「…もっと…自分を大切にして欲しいの…」
「…っ…」
「ずっと…貴方は…自分を、守る対象から外してる…」
「…」
「ただの勇者様の1ファンだった私でも分かるぐらい…痛々しい程に…」
「そんな…事…」
「私勇者様のことを尊敬してる、どんなに苦しくても辛くても前に進む貴方が私の憧れなの」
ゆっくりと抱きしめられる
「でも…それ以上に貴方が傷つくのを見ていられない…もっと弱くてもいいの…もっと周りに弱さを見せてもいいのよ」
「…ノエラ先輩…」
「…勇者だって…人なのよ」
前に姉上に言ったことを思い出す…そうか…俺は…
「…貴方には仲間が居るでしょう、貴方が挫けても泣いても…仲間が…きっと助けてくれる」
「…うっ…ぐす…先輩…俺…」
「よしよし…いっぱい泣いていいのよ」
「ああ…うぁぁ…うっ…」
あの時姉上に言ったことは…もしかすると自分に言い聞かせてたのかもしれない。その事に今気づいた
「…そう…泣いていいの…全部吐き出しなさい…」
人族とエルフの戦争が起きるまで残り2日




