第百二十八話
「…夢幻を突破されたか」
「はい…勇者達に捕まったあと…すぐ解放された模様です」
「ふん…偽善者め…そんな事で私達の心が動くとでも思っているのか」
フーリエは立ち上がる外へ向かう
「…そろそろ来る頃だろう、迎え撃つぞ」
「…はっ!」
「坊っちゃま…」
どうかご無事で…
「…着いた」
木の壁に守られた巨大な街…エルフの里
「こりゃ…里って言うより…国じゃねぇか?」
壁だけでその広さが予想できる、これは人族と戦争なんて起きたら勝てるか分からないぞ…
「…どうする?潜入する?」
(国相手にどこまでやれるか…)
「…私も流石に国相手は厳しいぞ」
「…何とかして入れてもらおう」
里の門へと近づく、その時だった
「貴様が勇者か…!」
声がする方を見ると1人の女性とエルフ兵と思われる者達が待ち構えていた
「よくもここまで来れたものよ…!勇者…お前達人族に受けた苦しみ…ここで返させてもらう!」
兵たちが弓と槍を構える
「おいやべぇよ…」
「…こんな数…一旦逃げよう…!」
(そうですね…!ここは退いた方が良さそうです)
「…あ…あんたは…」
俺はその顔をよく知っていた、いや雰囲気は違うが何処と無く似ているのだ
「…カレン…?」
「ちっ…我が愚妹の名前をその汚い口で呼ぶな」
カレンが妹って…
「あんた…カレンの姉なのか…?」
「だからどうした?…やれ」
「リュート…!逃げよう!」
ルシュが俺を引っ張る
「カレンは…カレンは無事なのか!」
「さぁな、出来の悪い妹なぞ知らん」
嫌な笑みを浮かべ、こちらを見下す
「…ふざけるなよ!妹だろ!」
「くっ…土魔法:絶壁!」
カナリーが矢と槍を防ぐ
「ご主人!大丈夫か?」
ガルスケも槍を蹴り落としていく
「…人族の味方などエルフの恥さらし、今頃死体となってるかもしれんな?」
「…っ!」
「落ち着けリュート!ここで手を出したら相手の思うつぼだ!」
「…ああ…分かってる」
「なんだ逃げるのか?カレンはいいのか?見捨てるか?くはは…薄汚い猿は情もないか」
「…くっ…何故…あなた達は協力してくれないんですか…俺達は…世界を救うために…来ただけなのに」
「…分からないのか?どれだけ私が…同胞がお前達に酷い目に合わされ、憎んでいるのか!」
そう言うとフーリエは袖をめくり腕を見せつける
「これが証だ!お前達人族に付けられた傷跡だ!」
「…っ」
腕にはおびただしい量のムチの跡や火傷の跡があった
「…どれほど私が苦しんだか分かるか?痛くて苦しくて…泣いて泣いて…でも誰も助けてはくれない」
「…そんな」
俺達で…説得なんて無理だったのか?こんなの…俺ではどうしようも…
「…話は終わりだ、逃げるなら逃げるがいい…どちらにせよもうすぐ私達エルフとお前達人族の戦争が始まるからな」
「…えっ…!そんなの聞いてないよ!」
「なんだ知らなかったのか?はん…まぁ今知った所でどうにも出来ん、せいぜい人族同士最後の一時を楽しむんだな」
「…行こう…リュート」
「くっ…」
俺達はドライへと引き返した
「…もうすぐ…人族は…滅ぶ、その時は同じ目に合わせてやる…」
フーリエの憎しみの炎は消えない
…
…
俺達は宿屋へと戻り、部屋で話し合っていた
「…くそっ!こんなの勇者の試練とか言ってる場合じゃねぇぞ!」
「…どうしよう…これから…」
(困りましたね…私達では…あの憎しみを取り除く事は無理でしょう…)
「…カレン…」
どうすれば…このまま放っておいたら戦争が起きてしまう…
『かなり根が深いですね…邪神の前にこんな壁があったとは…』
「…差別なんて起きなければ…!誰なんだよ…あんな酷いことをした奴らは…許せねぇ!」
ルシュがベットを殴る
「戦争…起きちゃうのかな…?」
「…俺たちが止めなければ…起きるだろうね」
「こんなの…あんまりだよ…」
(カナリーさん…我が神エルシュラ様…どうかお導きを…)
話し合うが解決策は出ない、時間だけが過ぎていった
「…」
「…」
「…もぐもぐ…」
夕食を食べるが味がしない…エルフの事で頭がいっぱいなんだ
「…勇者様…元気ないわ」
「ノエラが慰めてあげたら?」
「…ええ?わ、私なんかが慰めたってきっと無理よ」
「そうかしらねぇ…案外ノエラだからこそ…って事もあると思うけど」
お母さんはそう言って宿の仕事へと戻って行った
「私だからこそ…」
…
…
「…」
エルフの憎しみをどう取り除けばいい?俺がそんな事出来るのか?
「…無理だよ…そんなの…」
あのエルフ達の表情を見たら…俺が説得した所で全て無駄だと思ってしまう
「悪いのは人族…か…」
悩んでいると扉がノックされる
「あ、あの!勇者様!お、起きてる?」
ノエラ先輩?
「…何の用だろ」
扉を開けると顔を少し赤くするノエラ先輩がいた
「あの…その…す、少し、話さない?」
「…」
今は…これからの事を考えたいし…断るかな
『気分転換に行ってあげたらいいじゃないですか』
ステさん…まぁそうか…何か変わるかもしれない
「いいですよ、行きましょうか」
「よ、良かったわ…ほっ…」
俺とノエラ先輩は宿屋の裏の椅子へと座る
「それで…話っていうのは…」
「…戻ってきた勇者様達…その…元気無かったから」
「ああ…それで…」
心配してくれたのか、優しい人だ…ノエラ先輩は
「大丈夫ですよ、少し…悩んでいただけですから。それより昨日はすみません…やり過ぎちゃって」
「あ、い、いいの!私もごめんなさい…その見苦しい姿見せちゃって…」
「いえ…でも言ったことは本当ですから」
「…勇者様…ありがとう…貴方にそう言って貰えるなんて私幸せ者ね」
照れながらも微笑むノエラ先輩
「…ノエラ先輩みたいに…エルフ達も俺の言葉で変わってくれればいいんですけどね…」
「え…?」
「実は…」
俺はノエラ先輩に全て話した…本当は無関係だから話すべきじゃ無いはずなのに…誰かに…吐き出したかったんだと思う
「…そんな…酷いわ」
「俺…どうすればいいんでしょうね…」
いくら強くても人の気持ちを変えられないようでは勇者は名乗れない…そんな気がする
「…私…そのエルフ達の事を見てもいないし、上辺だけの気持ちを伝えても…違うと思うわ」
「そうですよね…すみません…関係ないのに聞かせちゃって…」
何を話してるんだ俺は…ノエラ先輩を巻き込んで…
「でも…貴方は違うでしょう?」
「え…?」
「…エルフの苦しみを誰よりも考え、悩んでる。そんな貴方の言葉はきっとエルフ達に伝わると思うの」
さっきまで照れていた表情ではなく、真剣に…俺の事を思って言ってくれているのが分かる
「だから諦めちゃダメよ、私も貴方の言葉で自信がついたもの。大丈夫…根気よく説得したらエルフ達もきっと聞いてくれるわ」
「ノエラ先輩…」
「あ、ごめんね…部外者の私が言ってもダメよね…」
「いや…ありがとう、俺…やってみるよ」
「勇者様…」
「そうだよ…俺は前向きに進み、決して諦めないのが俺の強さだ」
また挫けそうになっていた、だがノエラ先輩のおかげでまた気づくことが出来たんだ
「本当にありがとう、頑張るよ!俺」
「元の勇者様に戻ってよかったわ」
「はい!じゃ、俺ちょっと行ってきます!」
「え、どこに…?」
「エルフの里!ルシュ達には心配するなと伝えてください!」
俺は聖霊の森へと走る
「ええ!?い、今から?それは無茶なんじゃ…」
行ってしまった…と、止めた方がよかったわよね…
俺は1人、夜の森へ入り。里へ向かった




