第百二十七話
「…おい、勇者達の様子はどうだ?」
「馬鹿の一つ覚えで何も気づかず進んでいます」
「ふん、所詮人という事か…そのまま幻術をかけ続けろ」
「はっ!」
…
…
「…って今頃は言ってんだろうな」
俺は影探りで見つけたエルフ達を監視しながら歩いていた
「本当に近くにいたんだな…」
「聖霊術を使うには対象の近くに居なきゃダメって前に知り合いのエルフに聞いててね」
それで影探りで見てみたらビンゴって事じゃよ、ありがとうカレン…聞いててよかった
「…でも見つけたんだからさっさと倒せばいいんじゃない?」
「…いや…相手がどんな力を持ってるか分からない以上は気づいてないフリして出方を見た方がいい」
幻術が使えるなら催眠や睡眠術とか使えてもおかしくなさそうだし…用心に越したことはない
(それで状況は?)
「…今の所はこっちを見てるだけだな」
「ご主人が命令してくれれば、そいつらの首を持ってこよう」
たまに恐ろしいこと言うなこの虎
「それはまたの機会にお願いするよ」
「そうか…」
少ししょんぼりするガルスケ
「よしよし、後でいっぱい撫でてやろな」
「…!分かった」
垂れ下がった尻尾が元気になる、チョロい…いつもは鋭い眼差しに無表情だが尻尾は正直のようだ
「…まるで何処かのイリスのようだ」
…
…
「はっ!今リュートが私のことを!」
「お姉ちゃんあそぼー」
「尻尾もふもふ〜」
「こら、尻尾引っ張るなー」
…
…
「…交代だ、勇者達はどうだ」
「疲れて寝てるようです」
「ふん、そのまま永遠に彷徨うといい」
「そうですね…では私はこれで…」
「ああ、ふぅ…夜の森は冷えるな」
「ええ、そういえば今日はやけに冷えますね」
「そうだな、普段はそんな事…ないんだ…が…」
エルフの1人が倒れる
「隊長?はぁ…はぁ…なんだ…寒い…足が凍る」
「なら温めてやるよ」
「なっ!いつの間に!」
「てい!」
「かはっ…」
ルシュがエルフを気絶させる
「こっちも気絶させたよー」
(うまくいきましたね)
「油断したのはお前達だったって事だな」
「ふぅ…氷魔法は便利だな」
「流石ご主人だ」
「にゃふ」
「よし、エルフ達を縛ろう」
それからしばらく後
「ん…はっ!お前たちは!くっ…離せ!」
「すみません、でもこうしないと俺達を攻撃するでしょう?」
「ちっ…私たちは何も喋らないぞ!」
「まぁまぁ…別に手荒な真似はしませんって…ただ何故俺達の邪魔をするのか聞きたいだけですよ」
「はっ!私達の里にお前達のような下衆な人族共を入らせる訳にはいかんからな!」
「…人族が憎いですか?」
「ああ!憎い!憎くて憎くてたまらない!お前達は私達の同胞をどうしてきた?蔑み…汚してきたではないか!」
「そりゃ…でも俺達はそんな事…」
「黙れ!人族など皆同じだ!下衆で野蛮な猿どもめ」
「そうですね…俺達では無いにしろ貴方達を酷い目に合わせたのには代わりはありません…すみません」
「はん…今更謝罪か?謝って済むとでも?」
「リュート…」
「でも…後数年後には邪神が攻めてくるんです、今は争ってる場合じゃない…今この時だからこそ協力しなければいけないんです」
「そんなの知ったことでは無い!私達の敵はお前達人族だ…!」
「お願いします、少しでいいんです…!俺たちにチャンスをください!」
頭を下げる、これで何とかなるとは思ってない…でもやらなければ…邪神を倒すには全ての種族の力が必要なんだ
「…断る」
「っ…」
「…お前達から受けた屈辱、そう簡単に消える訳がないだろう」
「…それでも…お願いします…」
「…無駄だ…私達を殺すなら殺せ、力づくで奪うのがお前達人族のやり方だろう」
「んな…そんな事…!」
「…言ったでしょう、手荒な真似はしません」
ナイフで縄を切る
「…!」
「おい、いいのかよ」
「縄切ったら襲われない?」
「いいよ、その時はその時だ。術も解けてるみたいだし行こう」
(リュートさん…)
「…ま、俺はリーダーに従うぜ」
「そうだね、行こっか」
「…ご主人がいいのなら…」
「にゃふ…」
(エルシュラ様の御加護があらんことを…)
俺達はエルフを背に里へと向かう
「…ふざけるなよ人族…!聖霊術:かまいたち!」
『後方風の刃が向かってます!避けてください!』
「リュート!」
「…いいよ何もしなくても」
風の刃が俺の腕に突き刺さる
「っ…い…」
「なんで…なんで避けない…!」
「貴方達も…こんな苦しみをずっと…受けてきたんですよね…?」
イリスも…アリアも…カレンも…この痛み以上の苦しみをずっと…味わってきたんだ
「あ…ああ…違う…こんな…筈じゃ…」
「…これで…気が済みますか?」
「…あ…私は…」
エルフはペタリと地面に崩れ落ちる
「…行こう」
「…大丈夫なのかよ…!」
「…エルフの人達が受けた苦しみに比べたら無傷みたいなもんだよ」
「だからって…真正面から受けることねぇだろ…!」
(すぐに治します!神聖魔法:女神の涙)
傷が治っていく
「ありがとう…ユーナ」
(無茶しないでください、気持ちは分かりますが貴方は勇者なのですから)
「…ごめん」
「…もう…心配させちゃダメだからね?」
「大丈夫だよ」
「…ご主人…大丈夫そうな顔をしてないぞ」
今俺の顔はどうなってる?多分人には見せられないような酷い顔をしてるのだろう
「…きっとエルフの人達は…本当は優しい人達ばかりなんだ」
森を愛し、仲間を愛し、聖霊に愛された心優しき種族
それがエルフ
「…俺を殺そうとはしてなかった…狙うなら急所を狙えたはずだ」
同胞を傷つけ、汚してきた憎い敵でも殺すことを躊躇する…
「悪いのはあの人達じゃない…」
手に力が入る
「…なんの罪もない他種族を人として扱わない奴らだ」
俺達がどうにかしなければ…これ以上新たな犠牲が生まれる前に
「…里に行って説得しなきゃ」
「出来るのか…俺たちに?」
「…分かんない」
(こればかりは…なんとも言えませんね…)
「やるのさ…やらなきゃいけない」
『あまり気を負わないように…リュート様』
大丈夫、俺は俺に出来ることをやるだけだ
エルフの里はすぐそこだ




