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俺はお前の弟じゃない!

「麗衣! 来ていたのか!」


 ふざけた会話をした後に別れた麗衣がまさかここに来ているとは思えなかったが、麗衣の後ろから恵まで現れた。


「わぁ……本当にそっくり……話はさっき聞いたけれど、この子が麗衣さんの弟さん?」


「ああ。……たった一人のかけがいの無い弟だ」


 麗衣はすっとタケル君の額に手を当てると穏やかな笑みを浮かべた。


「御免ね武。やっぱり麗衣ちゃんには伝えておくべきだと思って、アンタと合流する直前に麗衣ちゃんに連絡しておいたんだ」


「いいや。元はと言えばあたしが早くこの事を話しておけばよかったのに何と無く言いそびれてな……」


 勝子が俺に謝罪すると麗衣は勝子の頭を撫でながら言った。


 つまり、別れた後すぐ俺達の後を着いて行ったという事か。


「タケル君が俺と同じ名前だからか?」


「そう言う事だ。ぶっちゃけお前の気分が悪くなると思ってな……」


「俺がそんな奴に見えるか?」


「そんなわけねーだろ! お前はあたしの最高の友達ツレだ! ……でもよぉ……」


「でも?」


「正直、あたしの方はお前に対して弟のタケルと同じ面影を追っていたかも知れねーんだ……」


 妃美さんに恋人同士でもないと言われるほど異性の友達としては過剰気味なスキンシップをしても平気だったり、弟分扱いするのは今までタケル君と俺を重ね合わせていたという事なのだろうか?


「お前は多分、恩返しのつもりであたしになんか着いて来てくれたと思うけど、失望しただろ? だとしたらお前が麗を辞めても止めはしないぜ?」


「麗衣ちゃん!」


「麗衣さん!」


 麗衣が俺を辞めさせようとしている事をなだめるように勝子と恵は声を上げた。


 だが、そんな事は始めから答えが決まっている。


「麗衣にどんな事情があったとしても、俺は麗を辞めるつもりは無い」


 麗衣の瞳が大きく見開かれ、心なしか、その瞳は何時もよりも潤んでいるように輝いた。


「そうか……ありがとよ」


 勝子と恵も安堵の様子を浮かべていたが、次の一言で空気が凍り付いた。


「でも俺は弟さんの代わりになるつもりはない」


「えっ?」


「俺は美夜受武じゃない。小碓武だ。美夜受武になるつもりは無い」


「そりゃそうだけどよぉ……一体何が言いたいんだ?」


「麗衣。この後、俺とスパーリングしてくれないか?」


「あっ……ああ。良いけどよ。いきなり如何したんだ?」


 麗衣は困惑気味に訊ねた。


「大会で優勝した時に聞いてくれって我儘あっただろ? もしスパーリングで麗衣に勝ったらアレを叶えてくれよ」


 俺は敢えて麗衣の代わりにタイマンをさせてくれという直接的な言い方ではなく、キスにより反故にされた約束の方を挙げた。


「……お前があたしに勝つつもりなのか?」


 スッと麗衣の雰囲気がタイマン前のような殺気に満ちたものに切り替わった。


「俺は勝つつもりだ」


 鋭い眼光で麗衣は俺に睨みつけてきたが、俺もその刃の切っ先の様な視線を逸らさず真っすぐ見つめ返す。

 十秒近く続いた睨み合いの末、麗衣は短く舌打ちをすると俺から背を向けた。


「良いぜ。身の程を思い知らせてやるよ。後であたしの家に来い」

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