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次は俺の番だ

 亮磨先輩は無事にデビュー戦を勝利で飾り、次は俺の番だ。


 まぁアマチュアキックボクシングのデビュー戦だから亮磨先輩よりはずっと気楽だし、比較は出来ないけれど、格闘技の実績を積む良いチャンスだ。


 暴走族つぶしのチーム「麗」はアマチュアキックボクシングのピン級・ミニフライ級のトーナメントで優勝経験がある麗衣やボクシングの全日本アンダージュニア45キロ級で優勝経験がある勝子を筆頭に殆どのメンバーが何らかの大会で優勝経験がある。


 体格で劣る女子が男子の暴走族に対抗するにはその位強くて当然かも知れないが、まだキックを始めて半年に満たない俺は他のメンバーの様な実績に欠けていた。


 俺が格闘技を始めた目的は力を誇示したり、称賛されることではない。


 麗衣の代わりにタイマンをしてやれる位の強さが欲しいからだ。


 麗衣は代表を立ててタイマンを行うメンバーを麗衣自身と勝子は確定している。


 姫野先輩は麗からの引退が決まっているので、代わりは硬式空手の大会で実績がある澪か総合格闘技を使い麗衣とも良い勝負をした恵と決めており、俺は選ばれていない。


 その為には客観的な強さの証しを見せなければならない。


 これから様々な大会に出て実績を積めば麗衣も認めてくれるだろう。


 俺は当初フェザー級(54~57キロ)での参加を希望していたのは現実の喧嘩を想定して少しでも大きな相手と試合をしたかったからだ。


 ところがトレーナーでありジムの会長の娘である大和妃美やまとひみさんからダメ出しを喰らい、渋々言われた通りバンタム級(51~54キロ)でアマチュアキックボクシングの大会に応募した。


 だが、俺が今回参戦予定のビギナーズリーグにバンタム級の選手が居なかったらしく、フェザー級の選手との試合が可能か打診された。


 この団体のルールでは、募集体重の少ないクラスの選手は階級を越えての組み合わせも可能であり、事前に両選手に打診し、両者の合意が取れた時点で組み合わせ成立する。


「バンタム級の選手が応募無かった何て珍しいわね……御免なさいね小碓君」


 妃美さんはそう俺に謝った。


「いや、減量も殆ど無かったから影響は殆どないし、元からフェザー級の選手とやりたかったから丁度都合が良いですよ。それに対戦予定相手はメキシコからの留学生っていうのも珍しいから興味ありますね」


 対戦相手はルイス・ネロ選手。19歳の大学生だ。


 メキシコと言うとボクシングの本場というイメージがあるが、キックボクサーとは珍しい。


 ビギナーズリーグの規則では格闘技経験者は参戦出来ないのだが、実はボクシングの経験があるんじゃないのか?


 だったら面白いのになと期待していた。



 ◇



 試合と同日に行われる計量当日、呆れるような事態が起きた。


 今回はフェザー級の試合という事で通常体重の55キロまで戻した俺は計量をクリアーしたが、体重計に乗ったネロ選手の目方はフェザー級リミットよりも3キロも重い60キロを超えていた。


「オイオイふざけんなよ! ライト級の体重じゃねーか!」


 俺の代わりに麗衣が掴みかからんばかりに怒っていたが、日本語を理解していないのか? それとも故意なのか?


 こちらの神経を逆なでするかの如く、ペットボトルの水をがぶ飲みしていた。


「再計量までに体重を減らすって気は始めっから無いみたいね」


 勝子も呆れ気味だ。


「まぁ今から第一試合開始10分前までに3キロ減量するなんて不可能だもんね」


 俺が冷静に言うと何故か麗衣が俺に怒りの矛先を向けてきた。


「武! そんな落ち着いていて良いのか? 実質的にほぼバンタム級の体重でライト級とやる様なものだぜ?」


 確かに55キロじゃフェザー級リミットよりもバンタム級の方が近いもんな。


 アマチュアキックボクシングのレベルで1階級差程度であれば大した差は無いとも言えるが、バンタム級とライト級では2階級差ある。



「私がトレーナーだったら選手の安全を考えて試合を中止させるけれどね。アンタはどうするの?」


 勝子は俺がどうするつもりなのか聞いてきた。


 通常は第一試合開始10分前までに申告体重まで体重を落とさないと失格になる。


 但し、相手選手の了解を得る事が出来れば、クローブハンデでの試合が認められる。


「構わないよ。実戦でデカイ相手とやりたかったしね」


 俺は妃美さんに試合の実施を了解したことを伝えた。

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