今年の干支は お題:来年の狸 制限時間:15分
狐は化かす、狸は化けるともうしますが、とにかく狸ってえ生き物は、狐よりだいぶお間抜けともうしましょうか、ちょっとほのぼのとしたところがありますな。
私が昔聞いたところでは、こういうことがあったってえ実話なんですがね。
今からじゃもう五十年もまえになりますか。
私の祖父から聞いた話なんですがね。
祖父の生まれは九州鹿児島の山奥で、もうほんと山奥も山奥でして。
私も中学高校くらいの時分に親に連れられて祖父の実家にいったことがあるんですがね。
そもそも道が舗装されてない。もうガタガタ道が何時間続くんだってくらいの先に、ぽんと突然村がある。学校まである。
私の祖父の、そのまた祖父は地元の神主さんでしてね。
まあ戦争前あたりに、財政難でなにもかも売っぱらっちまって、神社もないって話だったんですが、祖父の話によると、この話はその祖父から聞いた話なんだそうで。
私の頃でさえそんな山奥なんですから、祖父の祖父の時代なんて、もう森ですわな。腐海の最も深いところみたいなところでさ。
で、当然動物もたくさんきますわな。
その中には狸もおったんですって。
それで、これは私の祖父がそう話たんですよ。私の話じゃないですよ。
祖父の話によると、その狸はですね、なんと祖父の祖父に頼み事をしてきたっていうんですよ。
狸がいうことにはですね。こういったらしいんですよ。
「どうしてボクは、干支に入っていないんですか」
私からすりゃあ、動物が言葉を話したっていうところでもう眉唾もんですが、その動物がいうにこいて干支の話ですかって話ですよ。
だって狸はおろか、狐だって干支には入っていないわけですよ。
狸のライバルといやあ狐と決まってる。その狐が入っていないのに、どうして狸は自分が干支に入っていないのを気にするんですかね?
祖父の祖父--もうめんどくさいんで祖父ってことにしますが、その人も聞いたらしいんですよ。
「それ、君の気にすることじゃないよね」
って。
いやその返しもどうなのって思いますが、さすがは神官とほめるところなんですかね、ここは。
で、狸としては、ネズミが入っているのに猫も狸も入っていないのは納得がいかないっていうんでさ。どうも狸という生き物は、猫が自分の同類だと思っているようなんですね。
それで敵討ちをしたいとかなんとか。そんなの言われたほうも困っちまいますよ。
ただまああまりに必死にいってくるもんだから、祖父も音をあげちまったらしくてね。
それでその土地では、子のかわりに狸が入っているんだそうですね。
だから今年は狸年なんだそうだ。