ある朝の出来事 お題:軽い火 制限時間:15分
「軽い火……って、なんだと思う?」
彼女はぼくのヘッドフォンを無理やり外すと、そういった。
ぼくはちょうどゲームがいいところだったので、多少むっとしながら彼女のほうを見た。
見て、その手に持っているものに視線がすいこまれた。
「その手にもっているのって……」
「そう……軽い火……」
「いや、それは『軽石』、だろ」
「そうともいう」
「それ以外の表現方法を聞いたことがないよ」
彼女はすっと立ち上がり、おもむろにカーテンをあけた。
眩しい朝日が部屋にさしこみ、ぼくは思わず目を細めた。
「軽い火……」
「いや、それは『明るい日』でしょうが」
ぼくがいうことをなにも聞かず、彼女は無言でテレビをつけると、チャンネルをすばやく切り替えた。アマゾンプライムを再生して、『ゲーム・オブ・スローンズ』が流れ出した。その中で、銀髪のキレイな女性が出てくると、彼女が画面をズビシッと指差した。
「軽い火……」
「それは『カリーシ』……」
「……なにがいいたいの?」
彼女の表情はかわっていなかったが、あきらかに頭にきているのがわかった。
「それはこっちのセリフだよ。そもそも軽い火ってなんなのさ」
「あ、ライトファイア……」
彼女はおもむろにアルコールランプをつけだすと、どこから持ち出してきたのか、指先から細かな粉末をパラリと落とした。すると、明るい赤色だった炎が、緑色、青色、黄色--次々と変化した。
「ライトファイア……」
「あのね、たしかに同じ『Light』だけど……」
「じゃあ、なにが軽い火だっていうのよ」
「なにがって……」
ぼくは手のひらで空気をなでるようにふり、気づかれないように呪文をとなえて、空中に炎を出現させた。それはしゃぼんだまのように宙を漂う。
「こういうのだろ」
彼女のひとみがパッと輝いた。
「やっぱり……できたのね……」
そりゃそうさ。だってぼくは魔法使いだからね。