冬の闇夜 お題:高貴な門 制限時間:15分
左之助は、瀟洒な門構えが見える角に身を潜めると、鯉口を一度切って具合を確かめた。
雪の降る宵闇。明かりといえば、薄い雲に隠れてほとんど見えない月しかない。闇夜に慣れた左之助といえども、二十尺先がようよう見えるといったぐらいだった。
「やつは、今日の夜、あの門を出る」
左之助はそう聞いている。
やつの顔は今でも忘れることはない。何度も夢に見た。
一族郎党皆殺し。
左之助と同じ血を持った人々はみな殺されてしまった。
おそるべき手練れ。国元では名の通った忍びの家系であった左之助たちは、完璧に準備した罠にはめた上で、文字通り返り討ちにあった。
もはや、あのときの準備も、人数もない。
ただ左之助は独り身で、擦り切れた薄い着物の下に帷子を着、額にははちまきを締めている。いずれも、鉄は入っていない。ただの布にすぎない。それは、左之助にとって死装束であった。
ぎい、と音がなり、左之助は寒さで飛びかけていた意識が戻った。
かすかに開いた門の影から、提灯のあかりが漏れ出し、するりと人影が抜け出してきた。暗がりの中では、そのあかりは太陽のようにあかるい。それに照らし出された顔は、たしかに覚えのあるものだった。
相手は分厚い着物をぬくぬくと羽織り、寒さげに肩をすくめていた。片手で提灯を持ち、その棒は袂の中に入っている。
腰回りには、刀はみられない。
しめた、と左之助は思った。
相手が後ろ手に門をしめたとき、左之助は自慢の忍び足で駆け出していた。
五尺まで迫ったとき、左之助は刀を引き抜いた。そのままの勢いで相手に体ごとぶつかる。
相手はあっという間もなかった。
刀は相手の脇腹から反対側の肩口まで貫通していた。
「……役目は果たしたぞ……」
忍びが敵討ちなど、片腹痛いといわれてもしかたがない。
しかし左之助は、確かな喜びに満ちていた。