永遠の愛
窓から差し込む光が朝の訪れを告げる。
カーテンの隙間から見える青空は雲ひとつなく、
小鳥たちのさえずりも心なしかいつもより楽しげに聞こえる。
隣に寝ていた彼女は既に目を開けていた。
「…おはよう」
いつものようにボクは、ベッドに横になったままの彼女に朝の挨拶をした。
彼女の髪の毛は相変わらず寝癖でボサボサだ。
誰かが整えてあげないといつまでもボサボサのままだろう。
「…いい天気だよ」
病弱な彼女は、最近は外に出ることもめっきりなくなったが、
それでも天気がいいと気分も良くなるだろうし、
それに、柔らかな日差しの中で妄想にふけるだけでもきっと楽しいはずだ。
「…昔はよく手をつないで散歩したよね」
彼女が元気だった頃は、近くの森へ2人でよく出かけた。
木漏れ日の中を進むと大きな木があって、そこで手作りのお弁当を広げて…
お決まりの散歩コースだったけど森はいつも違った景色を見せてくれた。
彼女が喋ってボクは聞き役。よく話が尽きないなと感心したものだ。
「…体調はどう?」
最近は安定したようだが、前はしょっちゅう咳き込んで、
呼吸もできないような酷い咳が一晩中続いたこともあった。
あの頃と比べると、起き上がれないとは言え だいぶ良くなったはずだ。
「……」
部屋を見渡すと、
テーブルの上にはとっくに冷めてしまった料理が並んである。
「…食べないの?」
ボクに遠慮しているのか彼女は手をつけない。
「…ボクは大丈夫だよ。お腹すかないから」
彼女はよく手料理を披露してくれた。
料理が得意で色々なものを作れたし、どれもとても美味しそうだった。
「……」
彼女が掃除をしなくなってから部屋もだいぶ汚なくなってしまった。
キレイに整頓された棚は彼女の几帳面さをよく表しているが、
よく見ると薄っすらとホコリが溜まっている。
ボクが掃除をできればいいんだけど…
「……ん?」
玄関の方から物音が聞こえる。
「……まさか…」
人の気配だ。
しかも一人や二人じゃなさそうだ。
嫌な予感がする。
「…誰か来ることになってた?」
彼女に確認するが答えはない。
やはり招かれざる客のようだ。
「……静かに」
彼女に警告すると同時にガチャリとドアが開き、複数の男たちが部屋に入ってきた。
そして、こちらの存在を気にすることなく部屋を物色しはじめた。
男たちの方からは、こちらは死角になっているようだ。
彼女はボクの言いつけ通り静かにしている。
それとも恐怖のあまり動けないでいるのか。
ボクたちは身動き一つせず、このまま男たちが去ってくれることを祈る。
しかし祈りも虚しく男たちの一人がこちらに気付くと、
仲間を引き連れてゾロゾロとやってきた。
「…く、来るなっ!出て行け!!」
男たちは一瞬顔をしかめたが、返事をすることもなく彼女に近づき、
申し合わせでもしていたかのように全員で彼女を持ち上げた。
「…彼女に触るなァ!!」
男たちはボクのことなど気にも留めず、
まるで人を入れるために作られたかのような、大きな箱の中に彼女を寝かせた。
彼女を攫って行くつもりなのか。
「…彼女を連れて行かないでくれ!」
懇願するボクを、大柄な男が片手で軽々と持ち上げ、
そのまま乱暴に袋に押し込むと、ドサリと床に落とした。
先ほど男たちが部屋を物色していた時にゴミか何かを詰め込んでいた袋だ。
「…彼女と一緒に居させてくれ!!」
引き離されたら二度と会えなくなる…
そんな不安が押し寄せてくる。
離れ離れなんて考えられない…
ボクたちは…彼女が小さな時からずっと一緒だったんだ…
はじめて言葉を喋った時も…
友達とケンカしたと泣きながら帰ってきた時も…
恋人との初デートで舞い上がっていた時も…
結婚して、子供を産んで、その子供も結婚して、
夫に先立たれて一人になってからもずっと……
すると一人の男が、
床に置かれた袋からボクを取り出し、
横たわる彼女の傍らにそっと置いた。
…そして、涙で滲んだ目でボクを見ながら呟いた。
「これは、母さんがずっと大切にしていた人形なんだ……」
やがて、2人を入れた箱の蓋が閉められ、ボクらはどこかへと運ばれた。
しばらくは人々の話し声や泣き声、そして祈りの言葉が聞こえたが、
今は完璧な静寂の中にいる。
「…これからもずっと一緒だね」
きっとボクらは永遠に離れることはないだろう。
永遠に…
初投降です。
感想いただければ幸いです。