第三話 死神
バスが地に着き、プシューッと開くと独特の匂いがした。
中から、研修中と書かれた札を胸に付けている銀髪の如何にもやる気のなさそうな女子の死神が出てきた。黒い燕尾服に、ネクタイ。ガムをクチャクチャと噛みながら、葉月たちを見つめる。
「季節森〜季節森ッス。乗る人は、乗ってくださいッス・・・乗らないんスか?」
「あっ!!!すみませんっ!!乗ります!」
ここまでやる気のない死神に出逢ったのが、生まれて初めてで思わず凝視してしまっていた。
バスに乗ると、運転手の方の死神が頭を下げた。
「すみませんねぇ・・・態度悪くて・・・ここ最近の死神業界も、あまりよろしくないもので・・・こんなのしか、応募してこないんですよ・・・」
「いやぁ・・・全く」と、呟いて心底疲れたような表情を浮かばせる運転手の死神。
「お察しします」
すかさず、紅葉が大人の対応を取る。
「んじゃあ、寿命からの乗車ッスか?それとも、自殺希望?」
「あ、私たちは・・・」
葉月たちは、死神に碧色の瞳を見せた。すると、顔色ひとつ変えなかった研修中の死神は、葉月の目を見た瞬間心底驚いた顔で、彼女の目を興味津々で見つめてきた。
「す、すげーーーーーっ!!!碧色の瞳を持った人間初めて見たッス!!」
「あははは・・・」
こちらとしては、もう失笑だ。
「えっと、碧色の瞳の人間の場合は・・・っと」
ポケットから、小さな手帳を取り出して確認を始める研修中の死神。
「あ、あった。えっとぉ、碧色の瞳を持つ人間は寿命、自殺関係なく妖町までなら朝までいれる。・・・しかも、タダで!?!まじッスか!?羨ましいっ!!あたしら、死神でさえ仕事以外だと、通貨として一部の記憶取られるんスよ!?うわぁーっ!いいなあぁー」
そう、『碧色の瞳』を持つ人間、妖怪はとても珍しいのだ。瞳の色が通貨となり、一部の人間、一部の妖が黄昏時から朝にかけてなら、両世界を行き来する事が可能なのだ。しかし、また『碧色の瞳を持つ人間』を食べると不老不死になるという迷信があり妖に狙われる事も多い。
「こらこら、サツイさん早くして。お客様待ってるでしょ」
「あ、サーセン。どーーぞ!」
やたらと、大きな声でバスの中に案内する「サツイ」と、呼ばれた死神。
乗車する三人はそのまま、一番後ろの席へと腰を下ろした。
妖町までの道のりは、十分程度。窓側の方に座っていた葉月は、窓の外を見つめた。空が真っ赤に染まり、いつもいる街があんなに遠く小さく見えている。
ぼーっとしている間に、妖町に着くのだった。