第二話 バス停
講義が終わった夕方、葉月は一つ背伸びをした。
「終わった終わったぁー!!」
「どうする?このまま帰るかぁ?」
「んーー!!お腹空いたぁ」
だらぁーっ。と、机に体を乗り出して鞍馬を見つめた。
「そろそろ、黄昏時だな・・・妖町のしぐれで良き?」
「良きっ!!!」
「なんのお話しですか?」
ふと、気配を消して鞍馬の背後に立つ紅葉に驚きを隠せない鞍馬。
「このあと、鞍馬と妖町のしぐれにでも夜ご飯食べに行こうかーって!紅葉兄さんもくる?」
「そうですね、確かにお腹すきましたし行きますか」
「・・・ンだよ、紅葉も来んのかよ」
ボソッと、吐き捨てるように呟きながら舌打ちをする鞍馬。
「おや?准教授の僕にそんな口聞いてもいいのですか?」
「じゅ、准教授がそんな生徒を脅すようなこと言っても良いのかよ」
「脅すだなんて、そんなまどろっこしい事しませんよぉ〜するなら、堂々と脅します」
「アンタ、絶対教員向いてねえよ」
「あははは。紅葉兄さんったら、本当に昔っから変わらないんだから〜」
二人のやりとりを見て、ほのぼのと見つめる葉月に何も言えなくなる鞍馬。
「でも、二人とも?ここで余り、妖のお話しは、やめましょうねー。分かりましたか?特に鞍馬くん」
「なんで、俺特定なんだよ!!」
三人は、そのまま帰る準備をして約束のある場所に向かった。
そこは、もう使われていない筈の古ぼれたバス停。時刻表も擦れてしまい見えない。苔も生えている。
森に近いため、なかなか人も来なければ車一つ走っている様子もない。
「最近は、日が短くなってきたなぁー・・・葉月、寒くねえか?」
「うん・・・少し」
今日は、お気に入りの朝の番組で暑くなると言っていたのでオフショルのワンピースを着てきたが、森の近くという事もあって肌寒い。
鞍馬は、自分が羽織っていた黒いパーカーを脱いで葉月の頭の上から被せた。
「風邪引くだろ」
「あ、ありがとう」
鞍馬が貸してくれたパーカーは、とても暖かくてブカブカだった。
「ちょっと、お兄さんキュンってしちゃいましたよ」
きゃっ。と、手を口元に当てて鞍馬の行動を茶化す紅葉。
「さっきから、俺のことナメてんのかよ!!」
「今頃、お気づきに?」
「この野郎っ!!」
紅葉に殴りかかろうとする鞍馬だが、身長が余り高くない彼にとって長身の紅葉は敵わない相手だった。片手で、鞍馬の頭を押さえながら欠伸をしている。
「あ、バス来たよ」
そんな二人を横目に、葉月は空を見上げて指をさした。
淡いオレンジと紫が混じった不思議な空の中、ポツンとまるで一番星が落ちて来たかのように深い緑色のバスが降りて来た。