まだあくまで設定です
「おいしい! こんな味なんだ!」
初めて食べたカレーにエミは盛り上がっていた。
「ねえお兄ちゃん! これ毎日食べたい!」
「そんなに美味しいかな、作ったかいがあったわ」
「明日は別のだよ、安心しろ、多分エミが食ってたものよりはおいしいから」
おい! 兄妹設定忘れんなと足でつつく。
「毎日私の料理食べてたでしょ、間食でもしてたの?」
誤魔化せそうだ。
「してない! してないよおかあさん! すごく美味しいカレーだなって思ったから」
「そう言うならカレーの回数増やそうかねえ」
そう言うと食事は終わった。食後にエミの笑顔の端が涙で滲んでいた気がする。そうして部屋に戻る。
「で、なんで一緒の部屋にいるんだ?」
「私の部屋無いもん」
しれっといいやがる。確かに家の構造は変わってないもんな。
「私の設定は『お兄ちゃん大好きな妹』だからね! 何も問題ないよ!」
「設定で好きなのか……」
自分のスペックを考えるとそれでも凄い嬉しいことなんじゃね!? とは思うんだが。
「大丈夫! ちゃんと好きだよ! これは嘘じゃないんだから!」
「ホントかよ……本当に志願制だったんだよな?」
「何度も言ってるでしょ、私はお兄ちゃんに一目惚れしたんだよ! 未来を舐めてるでしょ。
結婚できそうな男の人は軒並み兵役についてて、子供でさ兵役やってる人もいたんだよ。
結婚できそうなのは全大戦を生き抜いてきたお年寄りと、大量の税金払って兵役を回避した人だけなんだよ……そんな人たちは性格がね……」
僕も大概性格が悪いのは自覚してるんだがな。
流石に妹一人に生活を任せるのは兄としてのプライドがやめろと言っている。
「就活すっかなあ……」
ぼやいてみる……こんなの情けなさすぎるだろ……
「ダメです!お兄ちゃんが他の女との接点は認められません! お兄ちゃんは専業主夫をやってください。
あと家計は私が管理します。お小遣いはあげますけど領収書もらっといてくださいね!」
あれ……やばくね?! なんかこの子だんだん外堀埋めてくるんだけど、こわい!
「いやでも、一応兄らしいこともしたいし……」
「今までニートやってたんですよ! 今更私に頼るのになんのためらいがあるんですか!」
まるで人の考えを見透かしたようなことを言う……当たらずとも遠からずだが。
「周囲の目とかさ……」
「おかあさんの記憶ではちゃんと『法律通りに』婚約しているってことになってますよ」
「僕の意志って一体……」
「ぶっちゃけると私が面倒見るって言ったら二つ返事って感じになってます、意外と自己評価高かったですか?
お兄ちゃんがおかあさんの立場だったらお兄ちゃん引き取って養います! って誘いを断りますか?」
「心をえぐってくるな、ぐうの音もないです」
それはともかく、とエミが言う。
「お兄ちゃん、カレーおいしかったんですけど辛いですね、喉が渇きました、買ってある水飲んでいいですか?」
「ん、うちは水は買ってないぞ、お茶でも入れようか?」
「お茶を入れる水は要るんじゃないんですか?」
「水道水でいいだろ、グルメなのか?」
「水道水が飲めるんですか! いい時代ですね! 私の時代は水道水自体規制されてて飲用にならなかったんですけど、
ふつうに水道水が飲めるんですか!」
「苦労したんだな、風呂も普通に入れるから入ってこい、僕は後でいいから」
「お、お風呂ですか……私は最後じゃいけませんか? その……あっちじゃお風呂なんて不可能だったから汚れてるかも……」
「そうだな、別に嗅ぐわけじゃないが湯船に浸かるんなら今日は最後のほうがいいかな……明日からは僕の先に入っていいぞ」
「あ、明日からは一緒に入りますか?」
言っておいて真っ赤になっている。流石に年なりの女の子なんだな。
「赤くなるなら言うな、時間はたっぷりあるんだ、ゆっくりいこうや」
「そ、そうですね、こういうのって順番が大切なんでしたっけ、急ぐ必要なんて無いですよね……」
まったく、アレだけ積極的だったのにやっぱり女の子なんだなあ…… そんなことを考えながら湯船に浸かった。




