挑戦状
今日もはじまり、はじまり
「じゃあ始めるわよ。本当に体調はいいのね?」
遺跡鉱山の格納庫でハンガーに固定された「大」を前に、アザレア博士はワッジに尋ねた。
合体状態を保った「大」は様々な計器とチューブに繋がれて、先の戦いで破損した虫の部分の修復もなされている。
「心配いりやせん。やってくだせえ」
辺りを囲む作業員達は落ち武者スタイルに触れず、「大」の中心部である銀のゴーレムのヒトガタに乗り込んだワッジが応える。
一晩中博士がいじくり回したせいか流体金属に覆われた箇所が増え、背中の虫との一体感を増した鎧は邪神のような古代ゴーレムと並んでも違和感を感じさせない。
「昨日一晩で駆動系の操作権は完全に掌握したわ。でも虫が搭載していた量では自己修復に使ってしまった事もあって、火器管制を奪うだけの流体金属が足りなかったのよね」
「そいつをこれから補うんでヤンスね。しかし、神権による認証ってのはどうするでヤンス?」
鈍くうなる機械を操作して、アザレア博士は「大」にありったけの流体金属を注入する。
身体各所に繋がったパイプから銀の血液を注がれて、「大」は苦悶の声を上げるように全身を震わせ、不気味な低音を発するとともにその姿に変化が訪れた。
内部に収まりきれない流体が関節から漏れ出し、全身から結晶が生えるように「大」のシルエットを変化させたのである。
装甲はより鋭角に、手足は一回り太く、銀の泥から這い出した悪意の塊はワッジの魔法と古代ゴーレムを取り込んで肥大して行く。
「問題はそこよね。今回は馬車を奪取する前、勇神が鎧と合体していた僅かな時間があったでしょう?」
「ああ、一斉射撃をかましてくれた時の、それが何か」
「格闘していた時間も含めておよそ100秒程かしらね。その間まで鎧内部のシステムを巻き戻して認証を欺くようにしたの」
「えーっと、それは100秒だけ火器が使える時間を作ったって事でヤンスか?」
「そ。使う度に流体を消費するし、認証を回避した訳では無いから他のゴーレムに応用は出来ないけど、勇神にトドメを差すだけなら充分でしょ?」
計器と睨めっこしながら忙しなく手元を動かす博士。
「では剣神の完全起動はもう暫く先、と言う事でしょうか?私もお父様のために、早く勇神と戦いたいのですが……」
ザッカーと並んで「大」を見上げていたルシルが、珍しくやや不満そうに口を尖らす。
「アレはちょっと独特過ぎるのよね。今回得た鎧の稼働データは使える筈なんだけど、内臓火器に関してはもうちょっと待って。幸い操縦席はつけたから、乗って剣を振り回すだけなら出来るわよ」
「お父様が求めているのは絶対的な力です。勇神も、支援機もまとめて屠れる程でなくては意味がありません」
小さな彼女がぷいと横を向いた視線の先には、重戦士のような黒い巨神が出番を控えて黙している。
「ルシルちゃんが王子様と踊るのはまだまだ先になりそうねぇ……あらぁ?」
壁にもたれるようにして少女と作業を眺めていた白い魔女が、蛇のような笑みを張り付けて笑った。
いかにも凶悪なデザインへと変貌した「大」は背後の虫とも一体化して、純銀の魔神とでも言うべき代物へ進化を遂げた。
黄色の魔法光を出鱈目に吹き出し、今朝ワッジが上げたような咆吼を上げて、身体の周囲に幾重にも魔法陣が出現する!!
「え?」
「は?」
「何でヤンスか?」
「これは……まさか!」
「「「「召喚魔法!?!?!?!?!?」」」」
赤の、青の、黄色の魔法光が荒れ狂い、遺跡鉱山の格納庫に竜巻が吹き荒れる!!
バアアアアアアアアアアン!!
極彩色の魔法陣が粉砕してその残滓が吹雪のように降り注ぐ中。
「大」とワッジはそのままの格好で変化無く、格納庫の中に立っていた。
「せっこい真似してくれるじゃねえかあいつ等ぁ!! 良いぜ、その挑戦状ぉ、確かに受け取ったぜぇ!!」
「召喚!!ブレイブキャリッジ!!」
早朝の草原にアレックスの声が木霊した。
上空に展開した巨大魔法陣からビリビリとした気配が響き、そして割れる!!
バアアアアアアアアアアン!!
極彩色の魔法陣が粉砕し、その残滓だけが立て膝の勇神に降り注ぐ。
まだ斜めに差す朝陽にきらめいて、不発に終わった召喚魔法は風に乗って消えた。
『ふんむ、そう容易くはいかんものじゃのう』
アレックスをその身に取り込み、真紅のラインを走らせた勇神が顎に手をやって呟いた。
一晩のうちに修復を終えた装甲は輝きが戻り、関節から漏れる青白い魔法光も今日は心なしか力強く吹き出す。
「呼べませんでしたねぇ。となると、もう全ての機能が敵の手に落ちたのでしょうか?」
足下のモニカが心配そうに勇神を見上げる。
『いや、召喚自体は発動しておった故その可能性は低い。敵にアザレア博士がいてるとしても、一日と経たずに大勇神の全てを解析出来るものではなかろう』
「じゃぁどうして、馬車は応えなかったのでしょう」
勇神と合身したアレックスが消えゆく魔法を口惜しそうに眺めて拳を握った。
『お主の召喚魔法陣は命あるものを通さぬ。敵が機体に乗っておれば召喚が無効化される事もあろう。じゃが安心せい、駄目元での召喚が不発に終わっただけで、敵の座標は感知しておる』
横に控えたブレイブワイルドを軽く撫で、朝陽を浴びた勇神が立ち上がる。
「それじゃぁ……」
『ああ!待ち構えるばかりが守護神ではない!今度はこっちから攻め込んでくれる!!』
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
「いやっほう!あたしそういうの大得意ですよう!!」
猛々しく咆える猛獣とともに、何故か一際やる気のモニカが飛び跳ねた。
今日はここまで
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