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戦う理由 勇神

後半部分に残酷な描写があります。

苦手な方はご注意してお読み下さい。


では、今日もはじまり、はじまり

 

 ゴーレム

 

 それは王国最古の巨神を解析して造られた神の分身。

 魔獣と戦い世界を拓く為に貸し与えられた力の結晶。

 始祖たる神の魂を写した制御コアを内包し、衝撃転換装甲を持った歩行機械群の総称である。


 『儂は自我を持ち、自律稼働し、魂を感知してその身に取り込む神としての権能を持つ。だがゴーレムとして、他の機体とは一線を画する違いがある。それが何か判るか?』


 装甲の輝きを取り戻した勇神はアレックスに問いかける。


 「ボクと合身出来る事?それとも、支援機と合体して戦闘力を上げる事が出来る事でしょうか」


 『間違いではないが……それらは魔法使いが乗り込み、武器を扱うゴーレムと根本の所では同じ事であろう』


 「あう……」

 

 しゅんとしたアレックスの背中を撫でて、モニカが片手を上げる。


 「ゴーレムサイズの魔法を扱う機能は違うんでしょうか?軍の皆さんが使ってるのは見た事ありませんよう」


 『あれは儂の機能もあるが、アレックスが単身で儂等を召喚出来る、規格外の魔法あっての事じゃ。無尽蔵の力を汲みだすその腕輪による所が大きいのう』


 「私パスねー。お爺ちゃん以外のってそんなに見た事ないし。あ、こういう動物みたいなのはスゴイよねー」


 『リューズの生きた時代にゴーレムは珍しかったのかものう。ではパクストン家の者よ、お主はどうじゃ?』


 「え?自分っすか?恐れ多くて見当もつかないですよ。これ以上余計な事言うと、今度こそ冗談ではなくこの首が無くなる気がしますし。このまま魔法を使い続けるとそれはそれで戻ってこれなくなりそうですが」


 もはや取り繕う気力もすり減ったマッコイは朦朧としながら、アレックスに手をかざして律儀に回復魔法を使い続けていた。


 『正解である。ご苦労であった、しばし休むと良い。 アレックス、今その者が申した首が無くなるというのがその答えじゃ。儂はこの世でただ一機、人の命を奪えるゴーレムである』


 気力を使い尽くしてくたりと倒れるマッコイを置いて、勇神はアレックスを見下ろす。


 「人を……殺せる?」


 『その通りじゃ。そして儂の分身を広めるにあたって、お主の母が最も腐心したのがこの機能。ゴーレム技術者の中ではジョンの結んだ協定にちなんで不殺の誓いとも呼ばれる、対人攻撃制限と制御コアの自壊トラップである』


 王国では神聖な守護神の分身であっても、他国に譲渡した瞬間からゴーレムはただの機械。

 一歩王国の外に出ればその身に集める畏敬は消失し、装甲の下の何もかもが解析されるべき技術へとなり下がり、いずれは王国産のゴーレムを凌駕する何者かが生まれる事も想定に難くない。

 アレックスの母ヨセフィーネは協定の中心にあった聖国で、ジョンと勇神からその危険性を教えられるや、すぐさまゴーレムの制御コアに対して改造と複製を不可能にする魔法的プロテクトを施すことを提案した。

 ゴーレムで人の命を狙えば停止する、コアに手を加えれば自壊する、二重の機能で対人攻撃を禁じ、大量破壊兵器としての運用を不可能にしたのだ。

 魔法の発達した聖国でも未だに解除できないそのプロテクトは、一説によれば彼女が王国へ嫁ぐ際に持ち出した秘宝によって鍵を掛けられ、彼女自身にしか解くことのできないものだと言われている。


 『……ヨセフィーネの作ったコアの守りは儂の神性ばかりではなく、兵器となったゴーレムが齎したであろう戦火から、民の命を未然に守っても見せたのじゃ』


 「知らなかった……母様……」


 母の偉業を知って呆然とするアレックス。

 自分自身が世界を守っているのだと、小さなうぬぼれに似た自信があったアレックスであったが、そんな彼が生まれるずっと昔から、今に連なるこの時まで世界は母によって守られていたのだ。


 『ここまで話せばもう解ろう。昼に儂等を襲った銀のゴーレムは現行の技術体系から逸脱した存在。衝撃転換装甲を運用してはいたが、いずれ放置すればお主の母の願いを破り、兵器として無数の命を脅かす存在に進化しかねん』


 それだけは許してはならん。ゴーレムの始祖として、命ある者の守護神として、未来ある少年を預かる者として、それだけは。絶対に。


 『ブレイブワイルドは他の支援機の危機を感知すると、自動で我が元へ来るよう命令されている。大勇神が相手でも引くわけにはいかぬのでな。アレックス、儂は奴を破壊する、いや、破壊せねばならん』


 さあ、お主はどうするアレックス? 我が半身よ!!


 





 

 




 「嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 


 不気味な魔法光が走る遺跡鉱山の内部。

 そこに響いたのはこの世の絶望を一身に浴びたかのような男の声であった。


 「アニキ!どうしたでヤンスか!……ぷっ」


 悲鳴に驚いて部屋に飛び込んだザッカーは、ベッドから半身を起こして涙を流すワッジの姿を目の当たりにして驚愕し、そしてちょっと笑った。

 アレックス達と戦った後休息を取っていたのだろう、目覚めて間もない兄貴分は自らの両手を見つめ、その指にかかる髪の毛の束を見つめて硬直していた。

 寝起きに何気なく手で触れたのか、元々多少薄めであったワッジの頭髪は前髪と頭頂部がごっそりと抜け落ち、無残にも枕元と指の間にその残骸を散らすばかり。

 

 「ぁ……あ、ああ!チクチョウ!!お、俺の髪が!髪がぁぁぁ! 前にむしられた所やっと回復して来たのにぃぃぃ……!!何ッだよこれはよォォォォォォォアアアア!! クソッ!クソッ!クソッ!クソがぁぁあああああ!!チックッショー!!」

 

 噛みしめた歯の間から血が出る程に力を込めて、抜け毛の絡んだ指をわななかせるワッジ。

 その口から漏れるのはこの世の呪詛を煮詰めて絞り出す様な、低く悲しい怨嗟の言葉。

 闇の空気を纏ったワッジの制御を失った魔法が周囲を揺らめかせ、人魂のように炎が踊っては不規則に動いて消える。


 (モニカ嬢にやられたの、まだ引きずってたんでヤンスね……)


 掛ける言葉を失って入り口に立ち尽くすザッカー。

 完全に落ち武者ヘアーになった面白兄貴をどうしたものか、彼の自慢の腕っ節は何も教えてはくれない。


 「なぁに? どうかしたのぉ……あらあらぁ」

 「うるさいですよ。……うゎ」

 「起きたのね……って、汚ッ!!」


 硬直したザッカーを押しのけて部屋に入って来る三人の女が、三者三様のリアクションでワッジの無残を表す。

 間延びした口調でにやける白い魔女と、可哀想なものを見る目で口もとを押さえたルシル、そして雇用主にあるまじき心無い感想を述べたアザレア博士。

 

 「姉御、あんまりじゃないでヤンスかね?」

 

 自分も初見で笑った事を横に置いて、ザッカーは半眼でアザレア博士を睨む。


 「ゲフン、悪かったわね。それでどうしたの?まあ見たままなんでしょうけど」


 「……姉御ぉぉ!俺の髪がよぉぉぉ!!起きたらこんなになって!!俺の、髪がぁぁぁぁ……ぅあぁぁぁ」


 シーツを握って嗚咽を漏らすワッジ。


 「会話になりませんね。博士、これは古代ゴーレムの影響なのでしょうか?」

 

 いずれは自分も剣神に搭乗する筈のルシルが、自分のおかっぱ頭を両手で押さえて尋ねる。

 

 「ゴーレムとのリンクは魔法的なものの筈なんだけど。合体ゴーレムの負荷が肉体に跳ね返った?いや、それだと髪だけが抜けるのは……あんた何かした?」


 馬車を手に入れて上機嫌だった博士は徹夜明けのうなじをバリバリと掻いて、白い魔女に向き直った。

 

 「鋭いわぁ。同じ魔法使いとして、正道に挑む邪法の魔女からちょっとだけお手伝いをねぇ」


 そう言って薄い衣の胸元に手を入れ、香水の瓶ほどの大きさの魔法薬を取り出して見せる魔女。

 アザレア博士は白い手からそれを取り上げると、蓋を開けて中の匂いを嗅いだ。


 「これは……ドライスタ候が領内に流通させたものとは別モノね?」


 「正解~。これは魔法使いの能力を一時的に上げるものねぇ。魔法使い以外には何の効果も無いから、あなたが舐めても何も起きないわよぉ」


 「自分で実験は出来ない、か。それでこれはその副作用なの?あんまりウチの社員にちょっかい掛けないで欲しいのだけど」


 もう白目を剥いて燃え尽きてるワッジを指さし、アザレア博士は白い魔女に詰め寄る。


 「怖い顔しないでって。私もスポンサーに睨まれたくないし、魔道の後輩に手を貸しただけよぉ」


 「父上の計画に必要な事だと……」


 「実際勇神に勝って帰って来たじゃない。博士ちゃんがご執心の馬車だって手に入った訳だしぃ」


 「う……それでもこの惨状は見逃せないわ。事後承諾として許容出来る範囲を超えてるもの。ウチのエースが使い物にならなくなったらどうするつもり?」


 「そうでヤンス。兄貴のメンタルは銀糸細工より繊細なんでヤンスからね!」


 足下にモップを掛けながら、ザッカーが援護射撃を入れる。

 ルシルが構えたちりとりに抜け毛を集め、一度ワッジをちらりと見て部屋の隅のゴミ箱に捨てた。


 「……もういい」

 

 真っ白になっていた薄毛落ち武者が、手に残った髪を見つめてようやく動いた。

 

 「いいんだ、姉御。骨董品野郎に勝てたのは確かにその魔女のおかげに違いねぇ。ザッカーが一緒じゃ無かったのが残念だが、あの馬車があれば何度だって勝てるんだろう?その代償が俺の髪で済むってんなら安いもんだぜ。うひ、ふっひひひ、ひぃひひひひ」


 幽鬼のようにゆらりとベッドから立ち上がったワッジは、博士の手から魔法薬を取ると懐に仕舞い、格納庫へ続く廊下を歩き出した。


 「兄貴ぃ……」


 「心配掛けたなザッカー。 姉御、馬車の調整があるんだろう?行くぜ」


 ゆっくりと、しかし力強い足取りで、男は進むべき道を行く。

 その背中ははらはらと抜け落ちた髪の毛をまとい、足跡の代わりに弟分を導いた。



今日はここまで

お読みいただきありがとうごさいました。

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