表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/92

戦う理由 アレックス

今日もはじまり、はじまり


 『……来たか、友よ』


 ゆっくりと顔を上げた勇神が口を開く。

 無数の光球を体に纏わせて、装甲の輝きは戻りつつあるもののその動きはまだ重い。

 

 「勇神様!っ……」

 

 モニカに支えられて勇神の低い声を聞いたアレックスは一瞬顔を輝かせたが、すぐに目を伏せた。

 敗北の記憶が頭をよぎり、火に照らされた勇神の顔を見上げる事が出来ない。

 

 『おお、アレックス。もう動けるか』


 対して少年に向けられた勇神の目はいつもと変わらず、優しく穏やかである。

 

 「はぃ……」


 アレックスは俯いて、勇神に届くかどうかの声を喉から絞りだした。


 『どうしたアレックス。体が痛むか?何を泣いておった』


 「いいえ……ボクは、だってボクたちは、負けてしまって……」


 『うむ、不覚を取ったな』

 

 「敵に馬車も奪われて、見逃されて」


 『そうであるな、腹立たしい事よ』


 「守護神の務めを果たせずに、お、お」


 『王国民に被害を出す所であったな。あってはならぬ、とても恐ろしい事じゃ』


 「はい……うぇ、ぐすッ」 


 勇神は暫く肩を震わせて泣くアレックスを見ていたが、彼にそっと大きな手を差し伸べて、掌へ乗るように促した。

 モニカに背を押される形でて巨神の手に乗ったアレックスはゆっくりと持ち上げられ、光球に照らされた勇神の大きな顔の前に至る。

 

 『顔を上げておくれアレックス。その涙は、それだけの為に流すのか』


 「……」


 『お主の心は何を憂いておる?賊に遅れを取った責は、儂にも同じようにあろう』


 「でも……でも!父様と約束した守護神の務めが出来なくて!兄様達が守る王国が危険になって!ボクを信じて王都に残った姉様が……みんなが……皆がボクを嫌いになるんじゃないかと……うえぇぇぇ」


 勇神の掌の上で膝を付き、溢れる涙を手で擦るアレックス。

 少年の心を苛んだのは戦いの恐怖ではなく、身を襲う痛みでもなく、周囲の信頼を失い孤立する恐怖にあったのだ。

 召喚魔法の適正が判明し、操者として選ばれてからは王城を離れ、立場上対等の友人も持たず、勉学と訓練に明け暮れたアレックスの世界観は広いようで狭い。

 王国を守る守護神として周囲の大人の期待に応える。それだけを自分に科して成長して来た少年は、自分自身を押し通す術を知らずに育った。


 「良い子にしてないと……上手く出来ないと亡くなった母様が悲しむからって、今まで頑張ってきたのに、わあああああ!!」

 

 『……それがお主の本心か、戦う理由であったか』

 

 それはアレックスが守護神としての教育を受けたが故の弊害、先代操者の過ちを繰り返さぬようにと、理想の偶像を作り上げる為になされた教育によるものであった。


 (すまぬ、アレックスよ。致し方ない事とはいえ、儂の存在がお主を王族の中でも特に窮屈に育ててしまった。ああ、我等の為た事の報いはいずれ、我等に還る事だろうなジョンよ……)


 掌の上の半身を見つめた勇神は、少年のこれまでに心の中で詫びる。


 『よう話してくれた、辛かったなアレックス。今は気が済むまで泣くが良い。……だが』


 それでも、それでも我等は、この身ある限り戦わねばならんのじゃ。






 

 

 『落ち着いたか』


 「はい。 ずずず」


 巨神と二大神獣に覗き込まれる形で鼻をすすり上げるアレックス。

 衝撃転換装甲の放つ魔法光に照らされてもその表情はまだ暗いが、返答には冷静さが戻ったようではある。


 『アレックス、これから儂が言うことを良く聞いてくれ。我等は確かに一度敗れた。じゃが我が身はここに有り、お主は命を拾って生きておる』


 「はい」


 『儂はあのゴーレムを破壊せねばならぬ。我が身より生まれしゴーレムの子等が争いの業火とならぬようにする為に。何を置いても、お主を欠いてでも』


 「ボクがいなくても戦うってことですか?」


 『然り。お主が辛いなら休んでおるが良い。誠に苦痛であるならば儂の操者を降りても構わぬ。だが儂の話を最後まで聞いておくれ。これはお主の父と、亡くなった母の願いに関わる事でもある』


 そう言うと勇神はアレックスをそっと地面に下ろす。

 

 「勇神様……」


 『そう悲しい顔をするな、儂がお主を見放す事はない』


 モニカに支えられ、リューズの出した水で顔を拭いたアレックスは勇神の表情を見上げたが、動き回る魔法光に囲まれたその表情は判らなかった。


 『うむ、これから話すのはお主の母、ヨセフィーネとジョンとの馴れ初めであるが……アレックスは聞いた事があったか?』


 「いいえ……母様のことを聞くと、父上はいつも苦しそうな顔をなさいます」


 『そうであるか。お主の母は聖国の王族、その本流に連なる娘であった。ジョンが王位を継いですぐに侵攻して来た隣国、その攻撃が始まる時のことである……』


 王位交替に関わる貴族連合と王権派の抗争、そしてそれに乗じた隣国の侵攻。

 第一王妃の決断によって国内がようやく一枚になりかけた矢先に発生した国境の火種は、勇神と先代操者を欠いた王国にとって存亡の危機であった。

 

 『正面から敵を迎え撃つと見せかけて軍を展開したジョンは、当時試作機であった騎士団型を用いて闇に紛れ敵の本陣を単機で急襲し、その指揮官と身内の人間を略取した。ゴーレムという存在を知らなかった敵は儂が人界の争いに荷担したと驚いたようじゃったが』


 「あの父上が!?本当ですか?」


 「今の陛下からはちょっと想像出来ませんねえ、あ、いや、失言でした。申し訳ありません」


 座り込んだアレックスに回復魔法を掛けていたマッコイが、慌てて口を押さえる。


 『当時を知らぬ者ならば仕方ないが、それは研究所で寝ておった儂も同じ事であったよ。じゃがジョンはその指揮官、当時の隣国王の叔父に当たる元帥とその孫娘を人質として交渉を行い、敵を引かせた。その時の娘というのがガブリエラでな、後でジョンの押しかけ嫁となるのじゃが今は関係無いの』


 「何ですかそれ!?そっちの方も超気になりますよう」


 『今はアレックスの母についてであるからまた機会にの。だがこの話を避けては通れんのも事実。ガブリエラが親族を説得(物理)してジョンに嫁いだ事で、隣国の鷹派はその不名誉を除こうと度々刺客を差し向けた。そしてその矛先はガブリエラ自身のみならず、アルフレッドを身籠もった第一王妃であるオフィーリアにまで及んだのじゃ』


 王として、夫としてジョンはあらゆる手を尽くして妻達を守ったが、その攻勢には終わりが見えず、遂には周辺国を通じて軍事同盟を組み隣国に圧力を掛ける運びとなった。

 同盟国には食糧援助とゴーレム開発の技術支援を、その代わり隣国の監視と戦時の協力体制を構築する。その交渉の中心に立ったのが聖国であった。

 近隣国は宗派の違いはあれど聖国の宗教的影響下にあり、王国主導の同盟であっても看板として聖国の威光を借り受けた形の方が都合が良かったのだ。


 『その際にジョンと交渉に出たのがヨセフィーネであった。彼女は思慮深い娘での、ゴーレム技術が拡散する事に危惧を抱く先見の明もあった。それは強力な魔法使いを有する聖国ならではの、戦略的な視点を持って育ったからなのかも知れんがのう』


 「ゴーレム技術をあげる代わりに、協力しようって事ですよね。それが危険になるのでしょうか。だってゴーレムは……」


 『そうじゃ。ゴーレムは人を殺せぬ。じゃがその事実が隣国に知れれば再度の侵攻を許すのは時間の問題であった。軍事力にならぬゴーレムなど恐るる足らぬからの。ジョンとヨセフィーネはその事実を伏せて多くの国と協定を結び、隣国が事実上の白旗を揚げてからゴーレム技術を他国へと開放したのじゃ』


 「他の国を巻き込んで、騙したって事じゃあないですか。王子のお母様は何を考えていらっしゃったのですよう」


 『騙してはおらぬ、ゴーレムが役立つものである事に代わりは無かったしの。むしろゴーレムを用いて戦をしようと考えていた、周辺国の元首共には良い冷や水であった。以後近隣国は小競り合いこそあれど、協定の範囲内で平穏を保ってきたのじゃからな。』


 「ボクの母様が、そんな仕事をしていたなんて……」


 アレックスは名前しか知らなかった母の情報に初めて触れ、敗北の恐怖を忘れる程に高揚した。

 時と立場は違えどゴーレムに携わり、平和の為に生きた母に尊敬と、追いかけるべき運命を見たのだ。


 (まあ、交渉中にヨセフィーネと懇ろになって、妻を増やしたジョンはその後こっぴどく怒られたのじゃがの……)

 

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。


ブクマや評価を頂くと嬉しいものですね。

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ