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敗北

今日もはじまり、はじまり


 

 「今度はテメエが喰らって見やがれ! 一斉射撃だァ!!」


 満身創痍で倒れる勇神に火砲を向けて、ワッジの勝ち誇った声が響く。

 殺意を乗せた両肩のキャノンが、前腕部のレーザーが、ブースター側面のミサイルと下肢の榴弾砲が黄色の魔法光に染まってうなり、そして止まる。


 「……あれ? どうしたんだ? 火器の対人使用制限?神権による王家の血統認証?何言ってんだぁ?」


 うんともすんとも言わなくなった火器に悪態をついて、「大」が地団駄を踏む。


 「何だよ!俺たち相手にはバカスカ撃ってたじゃねえかおい! 撃て!出せって!頼むから!」


 機体の手足を曲げ伸ばしして、何とか弾が出ないものかと試行錯誤したワッジであったが、どうあっても「大」の砲身は応えない。


 「ちっ!まあいい。武器が駄目なら踏みつぶしてやるだけだ……」


 展開した火器を収納し、背中の虫を引きずって勇神に歩み寄る「大」。

 いつかの恨みを晴らすがの如く、ゆっくりとだが確実に距離を詰める。

 

 ズシン、ズシン、ズシン


 『ぐう……あ、アレックス、お主だけでも分離して逃げよ、がはっ』


 「出来、ません。まだ…戦え、ます……」


       ズシン、ズシン、ズシン


 『ば、馬鹿を言うな!ぐぐぐ』


 「い、やだ……あれはボクの……」


           ズシン、ズシン、ズゥン……


 『……』

 「ぅ……」







 

 「何のつもりだ、嬢ちゃん」


 勇神を踏みつけようと片足を上げた「大」が動きを止め、ワッジが困ったような声を出す。 

 倒れ伏す守護神と異形の間に割り込んで、栗色の髪を風になびかせ立ちはだかっていたのはモニカであった。

 

 「あたしの役目は王子をお守りする事ですよう。どんな時でも、相手が誰でも」


 両手を広げてゴーレムを見上げる彼女の目に恐れは無く、ただ目の前の子供を諭す様にそこに居た。

 

 「男の戦いに女が出しゃばるのは無粋だと、理解しないモニカではありません。ですがこれ以上は見過ごせませんよう」


 「ちっ!幾ら嬢ちゃんが強くたって、ゴーレム相手にどうにかなると思うのかい?俺がこの骨董品を踏みつぶすより早く、コイツを止められると?」


 山で賊を悉く無力化したモニカの戦闘力を知っているワッジは「大」の片足を下ろして、モニカに注意を移す。

 

 「ええ、多分。それにあたしの鼻はごまかせません、いつから地面の中に待ち伏せしていたか知りませんが、貴方が使った薬の効き目はもう切れかけているはず。これ以上のゴーレム戦闘は命に関わりますよう」


 「!!!!!」


 かつて狂犬と呼ばれた少女の余裕を持った応えに、動きを止めた「大」の中でワッジは驚く。

 ゴーレムの中の相手の体調を見抜き、その強さの秘密まで暴いてみせたモニカは悲し気に眉を寄せると「大」に半歩歩み寄った。


 「合体ゴーレムを扱えるのも、異様に殺気立っているのはそのせいでしょう?神に挑む為とはいえ、人の道を踏み外しては何の意味がありますか」


 「ぐ、五月蠅ぇぞガキが!こちとら元からはみ出しモンだ、何を使おうと勝てば良いじゃねえか!分かった風な口を出すんじゃねえ!!」


 「そうでしょうか?では何故今日はお独りなんでしょう? 貴方は身を滅ぼしてまで戦う様を、お連れの方に見せたくなかったのではないですか?」


 「……偶々だよ。何時もつるんでるって訳じゃねぇんだ、個別に休暇を取る事もあらぁな」

 

 「鼻が利くっていった筈です、あたしに強がりは通じませんよう。悪党とはいえ通す筋は通す、義理堅く男気溢れるあなたが弟分を置いて来るなんて、他に理由が考えられませんもの」


 「今度は褒め殺しかい。それで俺が引き下がる理由にはならんぜ」


 「いいえ、お引き取り頂きます。あなた方は王子に三敗分の借りがあるはず。その決着に義兄弟を欠いて命まで失ったとなれば、あなたの気が晴れても残された人間は何と思うでしょう。あなたが本当に求めるのは相打ちなんかではなく、弟分と分かち合う勝利の美酒ではないのですか?」


 「二敗、だ。間違えるな。湖では戦ってすらいねぇからノーカンだろうが」


 搭乗する前にへし折られたテナガエビを思い出し、ワッジは再び勇神を睨む。

 あの時水中戦に持ち込めば守護神相手でも勝利出来ただろうか……いや、この「大」を手に入れた今ならわかる。

 呪いを纏う水龍を討ち果たした力には、為す術無く破壊されていただろう。

 

 だが、挑む事を逃げはしなかった、筈だ。

 逃げるにしろ、敗れるにしろ、王都で戦った時のように精一杯巨神に挑んだ筈だ。

 

 見るものがみれば無謀で愚かな行為。

 人の身で神に挑む、邪悪で不遜な無鉄砲。

 自分を支えるちっぽけな意地の為に、隣に居る弟分に男を通してみせる時代遅れの蛮勇。

 

 それは神が神であるために、目の前の少年の信仰を背負って30年の眠りから覚め、再び戦い始めた事と似ている。

 目の前に横たわる勇神にも引けない理由があるのだろうな、と思った時点でワッジは敵の手に落ちた。


 敵に感情移入させられ、殺気を冷まされたと気付いた時には、足下のモニカが悪魔のように美しい笑顔を見せて手を打つ。


 「じゃあ後一回は王子に借りがあるって事ですね?認めましたね?」

 

 「クソが! だが覚えておけよ、今日引き下がるのはこの機体を持ち帰る為だ。次に会ってもてめえ等に勝ち目は無ぇ」


 「お伝えしておきます」


 「それにな、嬢ちゃん。男と男の戦いには時に、命のやりとりでしか決着が付かないもんがある。王子サマが戦い続ける限り結末を避ける事は出来ねぇぞ」


 「あたしは王子の勝利を信じ、その身をお守りするだけですよう」


 「もし王子サマが死んだら?」


 「その時は諸共に。それが叶わなければ世界を滅ぼすまでです」


 ぞっとする程美しく、一分の偽りも無いモニカの笑顔を目の当たりしたワッジはきびすを返し、遺跡鉱山を目指して「大」を歩かせる。

 少女の微笑みは儚く狂気に満ちて、今朝彼に薬の小瓶を渡した白い魔女の、蛇にも似た笑い顔を思わせた。


今日はここまで。

お読みいただきありがとうございました。


台風19号の被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます


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