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奇襲

今日もはじまり、はじまり


アレックスが辿り付いた襲撃地点は石畳が消失し、真円にめくれ上がった地面が道路を寸断していた。

 破壊の痕跡は街道の横幅とぴったり同じで、まるで巨大な蟻地獄が巣を作ったかのようである。 


 「馬車も無くなってる!ああぁぁぁまた怒られるうぅ……」


 「おにーさんドンマイ」


 「ここなんですよねマッコイさん。二人が見た剣のようなものは何処でしょう?」

 

 地面に手を突いて落ち込んでいたマッコイは顔だけ上げて周囲を見回し、手に着いた砂を払って立ち上がる。


 「はい、ここで間違いありません。そうですね、そこの魔除け灯の柱くらいの大きさの尖ったものが、馬車を囲むように5,6本は現れたのですが」


 マッコイが指さした魔除け灯は二階建ての家屋ほどの高さで、丸木を立てて造られた簡素な街灯に魔獣が嫌う魔法光と、人には聞こえない音を発して旅人を守る仕掛けである。

 その高さは二階建ての家屋ほどで、簡素な丸木作りの柱。構造は単純だがその大きさ故、辺境軍が定期的に交換作業を行う際には複数のゴーレムと必要とするものだ。

 馬車が襲撃されてから一時間と経たない間では、何も身を隠すものがない平野で忽然と消えてしまうには大きすぎる。

 

 「周辺を見て来ましたが、足跡のようなものもありませんでしたよう。それに王子、獣の気配や匂いも感じませんねぇ」


 「お疲れ様モニカ。そうなると飛んで行ったか、地面に潜ったままなのかな?そんな魔獣聞いた事ないや。リューズは何か判らない?」


 馬車の屋根の高さに浮いて円形の地面を見ていた幽霊に、手をメガホンの形にして声を掛けるアレックス。

 

 「こんなの見た事ないねー。でも、何だか変な感じはするよー」


 「何か思い出しそうなの?」


 「うーん、そういうのじゃ無くて……何かこう、私の本体がざわつくと言いますかー」


 「本体って、この石のこと?」


 「うん。少年、お爺ちゃん呼んだ方が良いかも。私と戦った時みたいに隠れてる魂を見つけてもらった方が速い気がするよ~」


 そう言ってアレックスの側に降りて来たリューズは、アレックスが内ポケットから取り出した石に吸い込まれるようにして姿を消した。

 

 「あっ、リューズ!待って!  何なんだろう一体……」

 

 「いつもは言い聞かせておかないと出たがるのに、妙ですねぇ。王子、どうします?」


 「勇神様を呼ぶよ。ボクたちではこれ以上の事はわからないからね。モニカ、マッコイさんと一緒に馬車を下げてて」


 「承知しました。お気をつけて」


 馬を返して距離を取ったモニカが遠くで手を振るのを見たアレックスは、左手の腕輪を突きだして魔法を発動する。


 「勇神! 召喚!!」


 アレックスの足下に魔法陣が展開し、極彩色の幾何学模様が回転する。赤の、青の、黄色の光と竜巻が荒れ狂い、少年の姿を覆い隠して遙か天へと立ち昇る!

 王立研究所のドックと北の大地を繋いだ次元ゲートを通過して、今ここに現れるのは神秘の巨人!

 

 がっしりとした手足に逆三角形のボディ。胸には交差する剣を背後に獅子と鷲をあしらった王家の紋章。

 滑らかな曲線で構成された白磁の装甲の間からは青白い魔法光を放ち、力強く優美にも感じられる甲冑のようないでたち。

 鶏冠のついた兜のような頭部は揺らめく炎を燃やし、機械でありながら確かな意思を湛えた相貌は異変の起きた地面を睨む。


 『勇  神  見  参 ッ !!』


 ドバアアアァァァァァァン!!


 地面の魔法陣を打ち砕き、拳を構えたアレックスと同じ姿勢で出現したのは王国の守護神!!

 それはただ一機、王国の歴史書と呼ばれる伝説。全てのゴーレム開発の原型機にして究極の完成形。

 花吹雪のように光を散らしてアレックスを取り込んだ勇神は機械の関節から蒸気と魔法光を吹き出し、装甲に赤いラインを走らせて――

 

 『おおおおおおお!! 来たぞ勇神!久々の合身!漲る闘志は全速前進!! さあ、アレックス!我らの敵はどこじゃ………』



 …

 ……

 ………


 雄々しく大地を踏みしめて気勢を上げる勇神、の前には荒れた街道。

 陽光にきらめく拳の下を、枯れ葉が風に乗って飛んで行く。


 『………あれ?』


 「はい」


 『アレックス、敵は?』


 「それを探してもらおうと思って来てもらった所なんですが、今日の勇神様は張り切ってますね。何かあったのですか?」


 『そうであったか。うむ、研究所で待機していた時はいつも通りであったのじゃが、何であろうな、ここへ来てから気が逸る。ざわざわするのじゃ』


 何故か次々と筋肉を強調するポーズを決める勇神。


 「リューズもそんな事言ってました。ここは何かあるんでしょうか」


 『あの幽霊がのう』


 ひとまず顎を撫でてポーズを解いた勇神は、円形に荒れた街道の跡地を一睨みする。

 魂を感知する彼の権能は地中に潜む、敵意の塊を確かにとらえた。


 (うむ、この下に敵が潜んでおるな。しかし幽霊の石を動かす程の思念は持たず、またアレックスや娘が平静を保っておるとなると……こののざわつきは無生物に干渉する力によるものか?)


 『アレックス、敵は地中じゃ。しかもこれは……!!』


 ズズズズズズズズズズ……


 位置を捉えた勇神が拳を握りなおすのと同時に足元から振動が発生し、地面が泡立ち波打って液状化する。


 ゴワオォォォォ!!


 地面から勢いよく出現した銀色の巨大な剣か爪を思わせる構造物が勇神の周囲を取り囲み、激しく震えながら檻を形作るように上部をふさいで彼を圧し潰すように間隔を狭めてゆく。


 「うわわわわわわ!」

 『ぬおああああああ!!』

 

 剣と剣の間に捕らわれながら手足を突っ張って抵抗する勇神。

 銀色の檻を間近に見たアレックスと勇神の見たものは、金属の光沢と表面に施された幾何学模様。

 そしてその隙間から漏れ出す黄色の魔法光!!


 「勇神様!これは!!」


 『ゴーレムじゃとぉ!?』


 驚愕の声を上げる守護神達に、聞き慣れた高笑いが響き渡る。


 「だぁっはっはっはっは!!遅っせぇんだよ骨董品野郎!!待ちくたびれたぜぇ!!」


今日はここまで

お読みいただきありがとうございました

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