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王子と勇神

今日もはじまり、はじまり


 王都の西の端をかすめて流れる大河に並んで建設された、港と倉庫街が並んだ区画。

 目張りされた窓の隙間からから外の光が差し込む薄暗い巨大倉庫の中で、二人の男が人相の悪い若者達に取り囲まれていた。

 若者たちは派手な色の髪を逆立てたもの、トゲ付きの皮の服を着て鎖を巻いたもの、スキンヘッドに入れ墨をしたものなどその格好は様々だが、みな一様に口を半開きにして眉毛をしかめている。


 「だからですね、私たちはリーダーに会いに来ただけなんですよ」


 不自然な口ひげをつけて、薄い頭に眼鏡をかけた方が呆れたように言う。


 「さっさと教えるでヤンス」

 

 作業服にタオルでほっかむりした、こちらも眼鏡の大男が続く。

 この状況に全く動じない得体の知れない二人に、取り囲む男達は困惑しながらも威圧感を増して、その包囲をじりじりと狭めて行く。

 

 「部外者には教えらんねぇなおっさん」

 

 スキンヘッドがドスの効いた声をはなつ。大柄な体を猫背にして、薄毛の男の顔を下から睨みつけると、額同士が触れ合いそうな距離まで顔を近づける。


 「何処で聞いたか知らんが、このアジトを嗅ぎ付けた奴は生かしちゃおかねぇ」


 ガチャガチャと獲物を構えるチンピラ達。鈍器が、刃物がどこからともなく手に握られ、包囲網はその高さを頭半分ほど下げる。


 「こんな場所だ、人の一人や二人消えたって誰も気にしやしねぇ……! そのハゲ頭かち割ってやるぜ!!」


 「だぁっはっはっはっは!! 誰がハゲだガキどもぉ!!」


 突然、それまでの柔らかな態度から高笑いを放つ眼鏡男。 

 その両手に松明ほどの赤い炎を出現させると、包囲網の境界線に向かって投げつける。

 暗い倉庫の足元が一瞬で燃え上がったことで瓦解する包囲網は、スキンヘッドを置き去りにしてあっさりと解除された。


 「ひぃ!こいつ魔法使いだ!!」

 「ただのハゲじゃねぇぞ!!」


 正面にいて逃げ遅れたスキンヘッドはしりもちを着いたまま後ずさりをすると、背中に近づいた炎の壁に炙られて、眼鏡男達の足元まで這うようにして戻ってきた。

 魔法を使わなかった方の大男がわっしと彼の頭をつかみ、片手で軽々と肩の高さ以上に持ち上げる。


 「あ痛い!痛だだだだぁ!!」


 アイアンクロウを外そうと、つま先立ちでもがくスキンヘッド。


 「アニキにあれはまずかったでヤンスね。つーか、工具やらちっちゃいナイフやらで自分たちをどうこう出来ると思ってるならお笑いでヤンス」


 「だっはははは!! 俺たちゃもっとおっかねぇ顔に睨まれて、それでも生きて帰ったんだぜ!! おう、話が進みやすくなって助かったぞ小僧、ついでにリーダーを教えな」


 「痛い、ったたたた! 俺がリーダーですぅ!!放しっいだだだだ!!」


もう完全に宙づりになったスキンヘッドが半泣きで叫ぶ。頭を掴む大男の腕に手を添えて必死でぶらさがり、何とか逃れようと暴れるが、幾度蹴られようとも大男の方は蚊が止まったほどにも動じない。


 「あぁん? ここのリーダーは超武闘派のやっべえ奴だって聞いたんだが。 下町の狂犬、倉庫街の悪魔ってのがコイツならちょっと拍子抜けだなザッカー」


 「がっかりでヤンス」

 

 ぽい、と、紙くずでも放るように床に離されるスキンヘッド。もう火が消えた倉庫の床に寝そべって、頭を押さえながら答える。


 「い~ったたたた…… あ、あんたらが探してるのは先代だ。俺は数ヶ月前に引き継いだだけで、先代はもういない」

 

 「ほーう、死んだのか?」


 荒事好きならさもありなんと、スキンヘッドのそばに来てかがみ込む細身魔法使いことワッジ。


 「いや、寿退社だ」


 「はぁ?」


 「お幸せにでヤンス。 でも姐御の指令はどうするでヤンス?」


 「仕方ねぇなぁ、新婚さん引き込む訳にはいかねぇし」


 大きくため息を吐くワッジ、付けひげを剥がしながら立ち上がると、弟分とスキンヘッドを交互に見やり、


 「もう、コイツでいいか」


 「そうでヤンスね」


 仕事のクオリティーより進行を優先する事に決めた。





 

 さわさわと初夏の風が庭から入り込む自室で、ベッドに寝転んだアレックスは目を閉じていた。

 ゆっくりと上下する胸には白い左手が乗せられ、呼吸の動きに合わせて腕輪の赤い宝玉が明滅する。

 知らぬものが見れば昼寝と思うだろうこの時間は、勇神の半身として活動を始めてからの日課である、合身の訓練であった。


 (合身した時、まるで自分の体ではないような不自由さがあった……)


 手足の長さのバランスが子供のアレックスとは全く異なる勇神に、彼はもたつき上手く扱う事ができなかった。

 魔法を介してあくまで操作するゴーレムと、勇神の最大の違いが合身、精神や感覚まで同化して一体化する究極の秘術。

 それは、人が巨神そのものに成ると言うこと。

 アレックスの幼い精神がまだそれを恐れているため、現在は勇神と、アレックスとが交互に巨体の主導権を握る不完全な状態であった。


 (早く、合身に馴れないと)


 腕輪を介して精神を勇神へとリンクする。この数日、城内の王立研究所にてメンテナンス中の勇神は、先の戦闘でのダメージチェックを受けていた。





 「もしもし、勇神様?」


 『おぉ!! アレックス!! 息災でおるか、ん?』


 まるで入院中に孫からの電話を受けた年寄りのように、喜びの感情を丸出しにした勇神の声が頭に響く。


 『先日は先に帰ってすまなんだ。 オットーの奴がなかなか頑固でのう、先に戻れとしつこかったのじゃ、決してお主を置き捨てて戻った訳ではないぞ』


 「はい!アレックスです。昨日もお話ししたじゃないですか、モニカから伝言をうけとりましたって。怪我もすっかり治りましたし、ボクは元気です」


 『む、そうであったな。いやはやここは退屈でのう。もっと話し相手に…… ゴホン、訓練の頻度を増しても儂は構わんぞ、アレックス』


 全く訓練らしくないただの近況報告。しかしこれもまた、勇神とアレックスとの信頼関係を強固にする大切な時間なのである。


 「勇神様、ボクはその、合身がまだ上手くできないのが気になってて……」


 『案ずるでないアレックス。歴代の操者達も、みな始めは思い通りに行かぬものであったよ。儂とお主では魂の大きさも体の大きさもまるで違うのじゃ、当たり前のことよ』


 「はい」


 『焦りは禁物であるぞ。良いか、感覚的な問題は悩めば悩むほど答えが遠ざかると心得よ。このような事は勢いが肝心じゃ。習うより慣れろと申すでないか』


 勇神は穏やかに諭す。


 『儂は、お主に不足を感じた事は無いぞアレックス。もっと思った通りにやってみよ、儂に合身するのではなく、お主が自分自身を使うように』


 11歳の少年に無茶な精神論をアドバイスする勇神。自分が喋りたい事を喋る所は老人の特徴でもある。


 「ぼくがやってみたいこと…… 急に言われても難しいです勇神様。それは強くなりたい、とか、かっこよく戦いたいみたいな事とは違うんでしょうか?」


 『カッコイイじゃと!! それよ!アレックス!! よし、次の召喚では……ごにょごにょ』


 「……ええーっ!! 危なくないですか勇神様!? ボクあんまりみんなに心配されるようなのは……」


 『大丈夫じゃ!!儂を信用せんか。よいな、機を逃すでないぞ!!』


 「う~ん、大丈夫かなあ。 あ、もうじきモニカがおやつもって来るので切りますね勇神様」


 『何と!まだ良いではないか…… いや、食事は大切であるな、機械の体では忘れそうになっていかんいかん。 良いかアレックス、次の召喚じゃぞ!娘もお主を見直すじゃろうて、何事も挑戦じゃ!!』


 「はぁい!では失礼します、お休みなさい勇神様、また明日おねがいします」





 名残惜しそうな勇神と、精神のリンクが切れる。

 アレックスは先ほどの格好のままベッドの上で目を開けた。ゆらゆらとカーテンが揺れる部屋に、少し角度のついた日が差している。


 「おやつですよう王子。氷が溶けないうちにどうぞ」


 ワゴンを押して部屋に入ってきたモニカが、コップにジュースを注いで待っていた。


 「今日は人参のゼリーだそうです。暑いときには良いですけど、ヤマガタさんちょっと意地になってますね」


 ベッドを降りて席に着き一口喉を潤したアレックスは、果物をあしらったオレンジ色のゼリーののった皿に、朝と昼に食べ残した野菜を思い出す。


 「思った通りにしてもだめなこともあるじゃないですか……」


 「ん?どうしました王子。ぬるくなっちゃいますよう」


 なかなか匙の進まないアレックスが発した独り言は、勇神にもモニカにも届かなかった。

 

今日はここまで。次回「夜の街」

お読みいただきありがとうございました。

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