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運命の夜

今日もはじまり、はじまり

 

 「……」

 「はァ……でヤンス」

 「……親父、いや父上、気は確かか?」


 ぽかんと口を開けた一同に、ジョン王はさもありなんと頷いた。


 「まぁその反応は仕方ないねぇ。うん、順を追って話そう。事の起こりは30年前のあの日、過激派の貴族が反乱を起こした夜の事だ……」


 いつものおちゃらけた口ぶりから変わって、声の音を下げる王。

 彼は空になったカップを過去で埋めるように、少しうつむき加減に語りはじめた。

 



 



 正直思い出したくはないんだが、30年前の建国記念の祭りを控えた王都の夜は賑やかだった。街は昼間のように明るく、いつもは酔っ払いを取り締まる騎士も笑顔で街を回り、髭面の男達と肩を組んで歌っていたものだ。

 沢山の貴族が王都に集まって、そこかしこで祝宴が開かれて、成人を間近に控えた私を含めて王族は引っ張りだこで、何日もの間座る暇も無かったのを覚えているよ。


 私は当時ウリアス伯の娘だったオフィーリアとの結婚話が進んでいてね、彼の出席する会には必ず顔を出していた。王族とはいえ四男坊、王になる可能性が低かった私にとって、その後の立ち振る舞いを決めなければならない時期でもあったからだ。 

 「もうお休みになるお時間ですか、ではまた明日の式展で」 そう言った上機嫌のウリアス伯と別れて馬車に乗せられ、王城の自室に戻ったのはちょうど今くらいの時間だった。

 メイド達も連日の仕事で疲れていたから、明日の祭りに備えて早めに休ませていた私は着替えもせずにベッドに倒れ込んで、眠気と吐き気と頭痛に悶えていたよ。


 ほんの僅かな時間まどろんだようにも思う。そのうちに城内が騒がしくなって、私の部屋の扉を激しく叩く者があった。酔った頭には響いたよ。

 うるさい、とか、明日にしてくれ、とか言ったかな?声を出したのが不味かった。 彼らは私の眠りを妨げるつもりは無かったんだ、むしろ二度と目を覚まさないようにする為に来たんだから。


 いたぞ!!殺せ!! そう言って扉を破った彼らは手に手に剣を持って部屋になだれ込んで来た。武装して覆面をした男達は私の部屋に来る前にも誰かを殺めたのだろう、その姿は血にまみれてランプの明かりに鈍く映えていた。

 私は咄嗟に魔法で毛布をまきあげ、彼らの顔の高さに叩きつけて……、そんな事しか出来なかった。 なにせ慣れない酒に酔っていたし、靴は履いたままだったけど剣は無かったからね。走って逃げようにも扉の方には敵だらけ、窓から逃げるのもちょっと無理があった。

 何故か別れる前に見たウリアス伯の満面の笑顔を思い出してね、私の人生の最後はコイツかよ、なぜオフィーリアじゃないんだ。なんて思いながら、ベッドを囲む連中に殺されるのを受け容れるしかなかった。


 「ジョン王子、お伏せなさい!!」


 伏せるも何もベッドに寝っ転がっていたんだが、賊の背後から一声上がったかと思うと仰向けになった私の鼻先を大剣が勢いよく通過して、一太刀に私を囲む賊達を吹っ飛ばした。

 助かった、なんて思う間もなく声の主は部屋に残った賊を片付け、死の恐怖で寝転んだままの私の頬をバチバチと叩いた、何度もね。 うん、あれは痛かったよレイモンド。


 ああ、そうだ。私を助けてくれたのは当時近衛騎士のレイモンドだった。彼は城内の巡回中に異変に気づき、父を探して駆け回っていたんだ。私の部屋を通りがかったのは偶々だったそうだが、それが私に取っては幸運だった。

 間一髪の所で命を拾った私は賊の血でまみれたレイモンドに何が起きているのか尋ねた。自分の命を狙われる事に全く心当たりが無かった。今となっては確認のしようもないが、お前達のように兄弟仲は良かったと思うし、結婚話も好意的に取られていたと信じていたからね。

 何より王城まで私を害しに来るなんて非常識過ぎるだろう? そんな事をレイモンドに訊いたんだと思う。彼の返事は全部「存じませぬ」だったけどね。


 「こうなっては王子を安全な所へお連れします。命に換えましても」


 無愛想な奴だと思ったが、その一言は頼もしかったなァ。私は彼に連れられて血まみれの城内を走った。私付きの騎士やメイド達がそこかしこに転がる中を、だ。

 何度か廊下の角を曲がり、たまに出くわす賊をレイモンドが切り伏せて、私達は次第に追い詰められている事に気がついた。

 城の出口に向かうと賊がいる、味方と合流出来ない、見かけるのは近衛騎士や城の人間の死体ばかり。どうやら私個人を狙った騒ぎじゃぁないって判った所で、何の慰めにもならなかった。


 「王子、脱出は難しいようです。こうなっては城内で援軍を待つより他はありません。どこか……」


 安全な所かい?誰が敵か味方か判らない時に、そんな場所があるものだろうか?私は無い知恵を絞って考えた。

 父の寝室、最も警護が厚いのはそこだろうが、父はまだ宴会場にいる筈の時間だった。祝賀会はたいてい明け方まで続くからね。

 騎士団の詰め所、そんな所真っ先に制圧されるに決まってる。宝物庫?書庫?武器庫?確かに頑丈だろうが、私もレイモンドも鍵を持っていなかった。

 

 最後に思いついたのが格納庫だった、王立研究所のね。いつもは全国を巡っている初代様が、祭りのために戻って来ていたからだ。

 あそこなら頑丈だし、当時はまだ珍しかった戦闘用のゴーレムや、ブレイブワイルドだってあったんだ。情けない事だが、建国の伝説にあった獣王機の、王の暗殺を防いだ逸話にすがったのかもしれない。

 困った時の神頼みか……そう思われても仕方ないね。でも何となく、隠れる所も多そうじゃないか。


 私とレイモンドは誰もいない廊下から窓の外に出て、屋根を伝って移動した。真夜中だったが街の明かりが松明代わりに味方してくれてね、足を踏み外す事は無かった。賑やかな祭りの夜とは対象的に、殺伐とした城内は静かで不気味だったよ。

 たまに聞こえる悲鳴に私の足がすくむのを、後からレイモンドが剣で突ついた。


 「助かりたければこの切っ先より早く歩かれよ」


 なんてねぇ。やむを得ない事だとわかってはいたけれど、私は唯一の仲間が乱心したかとひやひやしたもんだ。

 静かに、急いで、様子を覗いながら、私達は移動した。流石に賊達も王子がまさか泥棒よろしく外壁に張り付いて居るなんて思わなかったんだろう。研究所のある棟までは敵に遭わずに済んだよ。


 「おかしい。扉が開いております」


 地面に降りて研究所を伺ってきたレイモンドが私に言った。

 私の前に王族が逃げ込んだら扉を固めるはず、そうでなくても初代様ならこの異変に気づかない筈は無い。


 『王と法に忠誠を、剣に高潔と献身を捧げ、勇神様の御霊に招かれんことを』


 死して知識や技術を初代様に託し、英雄の座に招かれる事を誇りに励む者達が数多く逝ったというのに、初代様が動かないのは妙だというのさ。

 言われればその通りだ。だが中は恐ろしいほど静かだったから、私はレイモンドを連れて中に入る事にした。まさか初代様まで害される筈はないしね。


 研究所の中は静かだった。死体だらけだった。騎士と、その数倍の賊のと。

 

 「ウイル!ベラも……くっ!」


 そう呟いたレイモンドの声が響く程に、本当に、静かだったんだ。私がこの夜はじめて聞いた、彼の感情の篭もった声だった。


 同門の友人と、その奥さんだったんだよね。忘れもしない、二人折り重なるようにして格納庫の入り口を守って死んでいた。手は剣と杖を離さず、最後の一瞬まで、互いをかばい合うようにしていたんだろう。

 彼らは命と引き替えに、格納庫を守り切ったようでもあった。私とレイモンドはぴったりと閉ざされた扉の前で、彼らの死を悼んで綺麗に並べ直し、その手を重ねて横たえた。

 緊急時に何をしてるんだって思うだろうけれど、私もレイモンドもそうしないとこの先に進めない気がしたんだ。彼らの守ったその先へ踏み込むのに、あれは必要な儀式だった。


 「参りましょう」


 跪いて目を閉じていたレイモンドが、私に向かって顔を上げた。

 私は彼らに自分の上着を掛けると、格納庫の扉に手をかけたんだ。

 

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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